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「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第73回

金融検査マニュアル廃止時代に生きる

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 年が明け、経営者をはじめ財務に係る企業人にとって大変気がかりな年が幕を開けました。これまで金融機関の融資審査に大きな影響力を持ってきた「金融検査マニュアル」が廃止されるのです。これによって企業の資金調達がこれまでと随分と違ってくる可能性があります。これを皆さんは危惧しておられます。



金融検査マニュアルとは

 金融検査マニュアルは、平成11年から使われ始めた金融検査に係るバイブルです。当時の金融不安により北海道拓殖銀行や三洋証券が破綻したのを受けて、金融機関の健全な事業継続に重点が置かれていました。金融機関の破綻理由が「不良債権」つまり倒産企業への貸倒れにあったので、金融検査マニュアルは「金融機関が、倒産や貸倒れの可能性が高い企業には融資しない」よう促すことを目的としていました。


 では金融庁は、倒産・貸倒れの可能性をどのように判断したのでしょうか?それが、財務諸表という客観データを中心に企業をランク分けして融資可否を判断する「信用格付け」という仕組みです。金融庁は、信用格付けにおいて一定レベル以下の企業に多額の融資が行われている事例、もしくは本来はもっと低位に格付けなければならなかった企業を高位に格付けて融資している事例があると、金融検査で金融機関に厳しい態度で臨みました。とすると金融機関としては、金融検査マニュアルに従った融資審査をするしかありません。こうやって日本中の金融機関が金融検査マニュアルに則って融資審査をするようになったのです。



信用格付けの弊害

 金融検査マニュアルは、融資案件について金融機関と金融庁が同じ基準で判断しコミュニケーションする「金融検査」を成り立たせる側面では便利でしたが、一方で問題がありました。「現状は辛い状況にあるが、これから事業改善に努力して業況を良くしていきたい」と考える企業への支援が難しくなったのです。そのような企業は信用格付けでは低位にランク付けされるからです。どうしても金融機関がそのような企業を支援したいと思うなら、信用力のある保証人を付けてもらうか、それなりの担保を取らなければなりません。「経営改善に努めたいと思い、そのためにこそ資金が必要である」という最も金融機関の支援が必要な企業には融資されにくくなったのです。



事業性評価融資の推進と金融検査マニュアル廃止

 金融庁は長らくこの状態を見過ごしてきましたが、森信親長官になって姿勢を一変させました。この現象を「日本型信用排除」と名付けて問題視し、保証人や担保ではなく「改善に努力して事業を活性化できる可能性(事業性)」を評価するよう求めたのです。一方で今までの「信用格付け」は、新たな動きとは矛盾するものでした。このため金融庁は金融検査マニュアルを現事業年度末でもって廃止することにしたのです。


 「そうか、これまでは融資が受けにくかった中小企業でも受けられるという意味だな」とお考えの社長も多いことでしょう。はい、その通りです。一方で、100%そうなるとも言い切れません。「事業性評価に必要な情報を提示すれば、それを元に融資判断してくれる可能性が生まれる」という選択肢が生まれただけです。これまでと同じように決算書や試算表しか提出しなければ、金融機関は事業性評価をする術がなく、今までと同様の判断を下すしかないでしょう。中小企業から情報開示しなければ、状況が自ずと好転する可能性は、あまり高いとは言えないのです。



中小企業経営者と税理士へのメッセージ

 「中小企業から積極的に情報開示するよう言われても難しい。」そうおっしゃる経営者は少なくありません。そこが一番の問題です。長らく金融機関で勤務し、今では中小企業診断士として企業支援する筆者は「中小企業経営者の伝えたいことと金融機関の聞きたいこと」の違いを痛切に感じます。「この違い、どうしようもないのだろうか?」そんなことはありません。中小企業と金融機関を繋ぐ架け橋として絶好のポジションにいる人々がいます。企業の税務顧問を勤める税理士です。税理士には企業の財務情報が集まると共に、経営者と親しく話をする機会もあります。他方「お金のプロ」として、金融機関の考えも理解できるでしょう。


 「さりとて税理士の我々とて、金融機関の考え方を100%理解できる訳ではないのだけれど。」おっしゃる通りです。しかし、ここは誰かが踏ん張らないと中小企業の現状を打破することはできません。その点で筆者も最善を尽くしますが、税理士の皆さんにもご協力頂きたいところです。このためシリーズコラム「〜事業性評価が到来〜 あなたは資金調達できますか?」は本年、中小企業を支援する税理士諸氏に向けて、事業性評価融資をお手伝いする方法についてご説明します。力を合わせて中小企業を支えていきましょう!




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。




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プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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