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第131回

地方銀行は多すぎるか(2)地方銀行のポンプ機能

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



自民党総裁選の過程で上がった「地方銀行の数が多すぎるのではないか」という話題について、考えているところです。なぜ、地域金融機関がこれほどまで存在するのか?歴史的な経緯を考えると、地域金融機関の多くが設立された時期は「現金主義で、今ほどお金がなかった」という事情が影響しているようです。時代の急速な発展を支えるに十分な金がない一方で、コンピューターでお金が管理されず現金を必要とした時代には、地方のお金は東京など大都市圏に吸い寄せられる傾向がありました。これでは地方の発展に必要なお金がキープできないので、数多くの地域金融機関が設立されたのです。 

今やその機能は不要となりました。では、地域金融機関は不要になったのでしょうか?筆者はもう一つ、金融機関は「お金のポンプ機能」を果たしているので、地域金融機関は大切だと考えています。今日はその点について、考えてみましょう。


金融経済世界と実体経済世界

ここ数年、日本銀行の金融緩和措置により「世間にお金が溢れている」と言われていますが、中小企業にはその実感はありません。それはなぜか?筆者は「金融経済世界と実体経済世界は隔てられており、ポンプがなければ金融経済世界のお金は実体経済世界に流れていかない」からだと考えています。これは、用水路から田圃に水を引くことを考えると分かりやすいと思います。用水路と田圃がコンクリートの壁で隔てられていると、用水路に豊富な水が流れていたとしても、ポンプで汲み上げなければ田圃に水は流れず、干からびてしまいます。ある田圃に向けたポンプが高性能で、隣の田圃に向けたポンプの力が貧弱だと、隣接する田圃で情景が全く異なります。

今、金融経済世界、つまりお金を取引している金融機関や証券会社、保険会社、大手企業の資金運用部門、政府の資金運用部門などで形成される世界で、お金は溢れかえっています。しかし、ここにあるお金が実体経済世界にも行き渡るかというと、そうでもありません。ここでいう実体経済世界とは、世の中のうち金融世界を除いた世界で、例えば企業が製品を生産し、販売業者がそれを売り、流通業者が運送し、消費者が生活をするという「実体経済」の舞台です。金融経済世界と実体経済世界とは隔てられていて、ポンプがなければお金は流れていかないのです。


実体経済世界にお金を流すポンプ

金融経済世界のお金を実体経済世界に流すには、どうすれば良いか。その方法の一つに融資があります。ある企業が新規事業のため借入を起こすと、金融経済世界にあるお金が実体経済世界にお金がシフトします。機材の購入や働く人の給料などにお金が使われることで、実体経済世界でお金が回っていくのです。

日本銀行が「超」がつく緩和措置を行っているのに中小企業にお金が回らないのは、金融機関が十分にポンプ機能を果たしていないからです。典型例が「日本型金融排除」です。金融機関が融資を判断する時、財務データによる信用格付のハードルを上げておき、それを下回る企業に対して「担保や保証が提供される場合に限る」という運用をしたので、地元で着実な商売をしていた企業などが資金調達できないなどの状況が発生していました。

この状況を問題視した金融庁は、その原因と目された金融検査マニュアルを廃止して、金融機関に「事業性評価」を促しました。これで事業性のある中小企業に積極的な融資がなされると、金融機関は「ポンプの役割を果たしている」と言えます。しかし、実際は残念ながら、事業性評価を積極的に推進・実践している金融機関は、まだ多くない、貧弱なポンプに止まっている状況です。


銀行再編がポンプ機能に及ぼす影響

このような状況下、銀行再編はポンプ機能の発揮にどのような影響を及ぼすのか?事業性評価には知見・ノウハウが必要という側面では、集約化はプラスに働きます。大規模な金融機関の方が事業性評価の経験を多く積むことができ、成果を組織内で共有できるからです。

一方で、事業性評価では企業に密着した情報収集が必要という側面では、集約化はマイナスに働く可能性があります。特に、銀行が集約されたことで支店が減ってしまった地域では、その影響は深刻になるでしょう。

もう一つ、補完機能の側面では、集約化はマイナスに働きます。事業性評価には企業に対する深い理解が必要ですが、一つの銀行が域内の全ての企業を熟知するのは不可能です。ある銀行がある業種について不得手でも、別の銀行があればそこから事業性評価してもらえる可能性がありますが、銀行が一つしかないと、そのフォローがありません。以上のように考えると、地域金融機関の再編には慎重である必要があると、筆者は考えます。



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なお、冒頭の写真は写真ACからyohko-enさんご提供によるものです。yohko-enさん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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