「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第113回

支援制度にビジョン・整合性を求む

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



新型コロナウイルス感染症で売上が低下し資金繰りに支障が生じている中小企業への対策(以下「コロナ金融支援」と言います。)が出そろった感があります。


(経済産業省 支援策パンフレット)

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf


「豊富なメニューだ。よくぞここまで対応してくれた」との見方も可能かもしれませんが、ここで敢えて辛口の意見を述べたいと思います。現状が中小企業への問題解決になっていない場合があることと、その原因に全体ビジョンと制度間整合性の欠如があると考えられます。



迅速性と十分性

コロナ金融支援として国は当初、日本政策金融公庫(公庫)や商工組合中央金庫(商工中金)を通じた直接融資と、信用保証協会の信用保証を利用した民間金融機関貸付を利用する間接融資を準備しました。そして先日、民間金融機関をワンストップ窓口とする制度(実際は信用保証協会付融資)も追加されました。地方公共団体の中には、信用保証協会の信用保証を利用して、独自の優遇措置を追加した制度を設けているところもあります。上記パンフレットには充実した種類・金額・条件等の制度が挙げられており、地方公共団体の制度まで入れると選ぶのに苦労するほどです。


一方これら制度の中で「5月18日(本コラム発表日)時点で月末の資金繰りの目処が立っていないので支払原資を緊急に調達したい」という要望に応えられる制度はありません。例えば公庫に融資を申し込むと資金を手にするまで1ヶ月以上かかると言われており、申込みが集中する都市部支店では2ヶ月を超えると言われています。信用保証を使った制度も概ね同様で、大都市圏で地方公共団体の支援策を活用したいと思うと最初の面談まで1ヶ月以上待つ例もあるようです。


なぜ、このようなことになるのか?「件数が多いから」ではありますが、制度にも問題があると感じられます。これら制度は既存の特別制度(一般貸付にオプションの要件を付加し、その充足が認められたら限度額の上乗せ・別枠や利子減免・信用保証料補助等の特典が受けられる制度)を活用するので、一般貸付より審査が複雑になってしまうのです。件数が多いのに審査の負担が重くなるので、進捗は当然、遅くなります。


一方で、これらの制度を利用して調達できる金額も十分ではないとの声が聞こえています。例えば公庫の新型コロナウイルス感染症特別貸付の限度額は6,000万円(国民事業の場合)で、中小企業(特に零細企業)にとって十分に見えますが、必要とする金額を手にできない企業は決して少なくありません。例えばBtoB企業(製造業・建設業・サービス業など)の場合、仮に5月末に緊急事態宣言が解除されたとしても事業が旧に復するのは数ヶ月後、現金を手に入れられるのは売掛金を回収できる数ヶ月後(秋以降、時には年末)になる可能性があります。


2月、3月から満足な売上が立っていないので次に入金になるまで10ヶ月分資金が必要と説明しても、要望が通ったという話は寡聞にして聞きません。「枠は6,000万円なので、我が社の1ヶ月分固定費300万円×10ヶ月分=3,000万円なら調達できるだろう」と申し込んでも、半額かそれ以下に減額される例が多いのです。



「コロナ禍を乗り越える企業支援」ビジョン

なぜこのような状況になるのか?現在の支援が「普段より優遇する特別制度を利用できるようにしたから、それで十分だろう」というスタンスで、「未曾有の緊急事態にある企業の持続化に向けて、必要な措置を行っていく」というビジョンに基づいていないからだと思われます。


コロナ禍は今までに起きた金融パニックや天災などとは異なった現象を引き起こしているので、今までの制度だけでは苦境にある企業の持続化を支援できない場合があります。「コロナ禍を乗り越えられるよう企業を支援する」というビジョンに則り、過去に提案したコロナ短期特別貸付・コロナ短期特別保証を創設するなど、成果を前提に対策を考えていく姿勢が必要だと考えます。



制度間で補完し合う整合性

現在、数多くのコロナ金融支援策のほとんど(事実上、全て)が同じ目線であることも、事態を深刻化させています。数多くの支援制度があるとしても、その源流は公庫・商工中金を通じた直接融資と信用保証を利用する間接融資で、融資姿勢が共通しているのです。10ヶ月分の運転資金が必要な企業が半額(5ヶ月分)しか資金調達できなかった場合、残りの5ヶ月分の調達は困難です(これら金融機関は「数ヶ月経ってまた資金繰りに窮したら改めて申し込んでください」と提案しています)。


これだけ制度がたくさんあるなら、ある制度は「至急な資金需要に対応する(例:運転資金3ヶ月分)」、別の制度は「より大きな資金需要に慎重な審査で対応する」と補完し合う構成とすることが望まれます。このような整合性の取れた制度設計が中小企業の救いとなるのです。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は写真ACからfujiwaraさんご提供によるものです。fujiwaraさん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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