「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第214回

金融庁による審査支援に関する報道

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 




2022年6月がそろそろ終盤に差し掛かります。12月決算の企業は半期が終わり、3月決算企業も四半期が終了します。皆さんの会社では、最近の業況はいかがでしょうか?いろいろな企業から話を聞くと「まだら模様」と感じます。コロナ禍であまり影響を受けなかった業種・地域もあれば、大きく影響を受けて未だ回復していない業種・地域もあり、一部の宿泊業・飲食業のように行動制限(要請)の撤廃や消費活動を促す支援制度の創設などで盛り上がっている業種・地域もあります。


一方で、一昨年・昨年のコロナ禍による行動制限等が厳しかったタイミングで行った資金調達の据置期間が満了して返済が始まる企業が来年、増えてくることについて、危惧されています。その時に返済あるいはつなぎ資金の調達ができるかどうかが問われているのです。今日はこの点も絡む、最近の新聞記事をもとに検討してみます。



金融庁が審査アルゴリズムを提供

6月16日の日経新聞朝刊金融経済面に、「金融庁、業績AI予測来年メド、中小の倒産防止へ金融機関に支援促す」と題する記事が掲載されました。金融庁が民間業者に委託して、中小企業の業績を予測する人工知能(AI)ツールを2023年を目処に整備するという内容です。


調査会社など3社から膨大な数に及ぶ企業の財務データを受け取ると共に、人口動態や資材価格、有効求人倍率、業界別の黒字企業比率といったデータを掛け合わせてAIに機械学習させ、企業業績と相関性が見えたデータを活用したアルゴリズムを作成するのです。金融機関や信用保証協会、税理士事務所などは、顧客企業の財務や外部環境データを入力すれば、売上高減少や営業赤字に陥る可能性の高い企業を抽出できるようになるそうです。



想定されている利用方法

金融庁はなぜ、このような企業業績を占うアルゴリズムを作成したのか?この記事では「中小の倒産防止」や「金融機関に支援促す」ことが開発目的と示されています。コロナ禍の影響や原材料・燃料価格の高騰などにより中堅・中小企業の倒産が増加する兆しも見えつつある中で、窮状に陥りそうな企業をいち早く見付けて支援することで「倒産ドミノ」が発生する事態はなんとしても防ぎたいとの意図によるものだそうです。



金融庁流「事業性評価」を強力推進させる仕組み

この記事を見て筆者は「金融庁は事業性評価が進まない現状に危機感を抱き、それを利用したら自然と事業性評価を行えるツールの利用を思いついたのかも知れない」と感じました。


金融庁は1999年に「金融検査マニュアル」を作成、企業財務データを中心に点数化(スコアリング)して倒産リスクが低いと格付けられた企業に融資するよう金融機関に促しました。一方で、財務データではスコアが低めに出る中小企業の資金調達が不利になるとの批判を受けて「中小企業融資編」の発表などで対応していました。2016年に「事業性評価」概念を発表、2019年12月に金融検査マニュアルを廃止して、スコアリング・格付による融資判断を求める政策を終結させたのです。


金融庁はその後、2020年に『事務局説明資料(検査マニュアル廃止後の検査・監督の進め方について))を発表、金融機関が貸倒引当金を計算する際に参照できる情報の拡大が事業性評価に繋がると示唆しました。これまでの実務では「過去実績(例:貸倒実績)」や「個社の定量情報(例:個社の決算)」、「個社の定性情報(例:事業の将来性、代表者の資質)」が主に評価されましたが、今後は『足元の情報(例:地域経済や特定産業の変化、融資変化)』や『将来の情報(例:不動産・原油価格の将来予測)』なども貸倒引当金の計算に利用可能と示したのです。これは、将来にリスク状況に変化(軽減あるいは増加)が生じると考えられる場合、早めに引当あるいは融資審査に反映できることを目指したものと考えられます。


では金融機関は、情報を拡大する事業性評価を活用した審査を行ったり、引当に反映したりしたでしょうか?全てを知るのは監督権限のある金融庁だけですが、聞こえてくる情報では、積極的に実践しているとは感じられません。潜在的事業性のある企業に融資を拡大する方向にも、コロナ禍などの影響で財務的に傷んだ企業について慎重に判断する方向にも、金融検査マニュアル時代から大きく変化したとは感じられないのです。


それを問題視したのでしょうか?報道で簡単に紹介された範囲でもこのアルゴリズムは、それを使えば金融機関は事業性評価で利用される代表的データを活用することになるものと推察されます。金融庁が考える「事業性評価」を強力に浸透させる策として準備されたものと感じられました。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は 写真AC から エルボンズさんご提供によるものです。エルボンズさん、どうもありがとうございました。







 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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