第158回
K字型回復の事業環境で生き残る
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫

最近、新聞などを読むと「K字型回復」という言葉をよく目にするようになりました。今まで「V字型回復(急激な落ち込みの後、目覚ましい回復を遂げる)」という言葉を目にすることはありましたが、ここに来て「L字型回復(急激な落ち込みの後、一向に回復の目処がつかない)」が加わり、V字型とL字型が共存する現象を指す言葉として称されるようになったようです。急激な落ち込みの後、回復する者と落ち込みから抜けられない者が2極分化する時代において、是非、回復する方の一員になりたいものです。今日は、その点について考えてみましょう。
K字回復を引き起こす様々な要因
新型コロナウイルス感染症の蔓延は、ほとんど全ての業種・業態に悪影響を及ぼしました。日本では、昨年2月に行われた小中高校への休講要請と、3月に行われた大型イベントへの自粛要請から景気の悪化が本格化しました。政府発表の景気動向指数(2015年=100)一致指数でみると、2020年5月が景気の底で、これまでで最悪の73.4を示しました。2019年の9月には100.7、2020年2月までは95前後の動きだったことから見ると、非常に急激な落ち込みだと分かります。その後は徐々に回復に向かい、7月には80.0、10月は88.2、2021年1月には90.3となっています。ここにきて4月半ばでは第4波が懸念されている状況で、先行きを楽観視することはできませんが、景気動向指数を見る限りは昨年5月の底を抜け出た状況だと読み取れそうです。
https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/di.html
一方でデータをミクロに見ると、回復は一様ではないようです。製造業は回復基調だが、サービス業は厳しい状況が継続しているとの指摘もあります。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODB31BSH0R30C21A3000000/
3月の日銀短観(企業短期経済観測調査)によると、製造業では特に大企業の景況感がコロナ禍前の水準に戻った一方で、「多くの働き手が都心に通勤する」ことや「大勢の観光客、特に外国人観光客が訪れる」ことを前提として事業が成り立っていた飲食業や旅館業、旅行業などのサービス業では、天気に例えれば「どしゃ降り」状態が続いていると言われています。「K字型回復」とは、このような二極分化を指しているのです。
同業種・同業態でも改善活動の有無で生じるK字型現象
K字型の状況について、別の状況も指摘もできます。同業種・同業態であっても、目覚しく回復している企業もあれば、そうでない企業もあります。この差は、皆さんも街で見かけているでしょう。街から人が去った頃には共に閑散としていた2つの飲食店が、人が随分と戻ってきた今になって、一つは今も店を継続しているが、他方は閉店してしまったというような状況です。
なぜ、このような状況が発生するのか?多くの場合「事業継続に向けた改善活動を怠らなかった。努力が実を結ぶよう、絶えまない『改善の改善』を行っていた」ことが挙げられます。飲食店なら、外出・外食の自粛が叫ばれるとすぐに持ち帰り弁当を始めたかどうか否か、弁当の顧客は以前に来店した顧客と違うのでメニューに工夫を加えたか否か、弁当を販売するために店頭に臨時コーナーを設けて店員に立たせたか「弁当、販売しています」の張り紙を店頭に貼っただけか、顧客がインターネットで弁当を確認できるようにしたか否か、インターネットでも注文できるようにしたか否か、などなどです。
事業再構築の有無で生じるK字型現象
「しかし、事業改善だけでは足りない場合もあろう。同業者の多い大都市では特にそうだ。」仰る通りです。そのような事業環境にある企業の中には、今までの事業に加えて別事業に乗り出したり、新事業に切り替えたりして生き残りを模索している企業があります。例えば、飲食店で培った料理の腕を生かしながらも店舗での提供は止め、パック詰めしたおかずや総菜をインターネットで通信販売する新たな業態に乗り込んだ企業があります。政府もこの取組みを推進するため「事業再構築補助金」を設け、4月15日から第1次申請受付を開始しました。
コロナ禍は不景気の原因が1年以上も続く新たな経済現象で、それがゆえに経済そのものに変化を生じさせています。今までの「嵐の過ぎ去るのを待って」とか、「発生した損傷等を復旧する」という対処では効果が表れない場合があるのです。このため苦境から脱することができない企業が少なくないのですが、事業改善や再構築に努めて苦境を脱する企業もあるというK字型の回復が、現在、見て取れます。私たちも是非、回復できる側に立てるよう、事業改善や再構築に取り組んでいきましょう。
<本コラムの印刷版を用意しています>
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。
なお、冒頭の写真は写真ACから fujiwara さんご提供によるものです。fujiwara さん、どうもありがとうございました。
プロフィール
落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。
平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。
現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。
【落藤伸夫 著書】
『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions