「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第301回

決算説明の重要性と現状

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



3月に決算を締めて申告を行った多くの中小企業が、金融機関に決算説明を行ったことでしょう。その状況下、「今年は金融機関の反応が違うようだ」との声も聞こえてきます。決算説明で今後の明るい展望を伝えたのに既往融資の折返しができないと通行された」との声さえ、あります。今回は、どうしてこのような現象が生じたかについて、考えてみます。



決算説明することによるメリット

金融機関への決算説明は、単なる「数字の報告」ではありません。金融機関との信頼関係構築にとって、重要な足掛かりになります。「結局は決算書を提出するので、それで問題はないのではないか。」確かに、融資貸主への報告義務は果たさなければなりません(その意義は、果たさなかった場合の影響を考えると一目瞭然です)。さりとて、それだけで終わらせるのは大変もったいないことです。

企業の業績だけでなく課題そして改善策まで自らの言葉で伝える決算説明はプラスアルファの情報提供で、金融機関が「この会社は誠実に経営している」と信頼感を抱く根拠となります。こうやって決算書提出だけで形成されるよりも厚い信頼関係を築くことで、融資の継続性や条件に好ましい影響が生まれる可能性があります。

また決算説明は、財務内容だけでなく「ストーリー」を届けるチャンスにもなります。赤字決算でも、その要因を明確化した上で再建計画を説明すれば、一時的なマイナスよりも将来性が重視される可能性があります。数字には表れない「意思」や「行動」を語るのです。

決算説明することで、金融機関内での自社の位置付けを向上させられる場合もあります。金融機関では、提出した書類や面談での会話内容が担当者に留まることはほとんどありません。上司である役席や支店長、時には本部の担当部門にも情報が共有されます。的確に情報開示する企業は「安心できる先」として、金融機関の中で評価が高まる可能性があります。

以上などの事情で、決算説明を通じて経営方針・成長戦略までを金融機関と共有することで、将来の融資判断にプラス材料を積み上げておくことが可能になるのです。



決算説明で信頼関係が高まらない理由

一方で最近「決算説明時の金融機関の反応が、今までと異なる」との声が聞こえています。コロナ時(あるいはそれ以前から)一進一退の決算が続き、赤字になっても(連続しても)「苦しいでしょうが頑張って下さい」と声掛けしてもらえたのに、今はもらえない、あるいは厳しい姿勢で対応されたとの声です。中には「今までは赤字でも問題なく既往融資の折返しに対応してもらえたのに、今は対応してもらえない」などの声を聞くことがあります。決算説明しても信頼関係が高まらないのです。

このような状況になる理由として、幾つか考えられます。第1は企業の状況で、これまでは赤字が続いても債務超過ではなかったが、今は赤字を積み重ねて債務超過に陥ったという事情です。債務超過とは財産よりも債務の方が多い状況のことで、会社を清算した場合に返済能力がないので金融機関にとって融資が非常に難しくなります。加えて金融機関は企業の決算書をもとに点数を算出(スコアリング)、一定点数を下回る企業について原則、同様の判断をします。金融機関にとって「不調ではあるが、再起を期待して融資という形での支援ができる」と判断できる下限値を超えてしまうと、金融機関の姿勢が大きく変わってしまうのです。


「財務数値は大切だが、金融機関は企業の将来性を見て融資するのだろう?決算説明で将来の明るい展望を示したのに無視された」と言う社長もいます。なぜ、このような事態になるのでしょうか?それが第2のポイントで、書面説明がなかったことが理由の可能性があります。

赤字が継続してしまった企業には、今期は黒字になる可能性はないのか?もちろんあります。但し、それを金融機関が納得するには材料が必要です。例えば「売上が2割増加、損益分岐点を超えて黒字化する」との説明について、損益分岐点分析に加え、売上が2割増加する根拠を説明しつつ黒字転換する様子を示す事業計画があれば、納得できるかもしれません。売上・利益が、これまでのトレンドとは異なり、上向き回復すると読み取れる事業計画も併せて提出しなければ、今後について新たな展開を納得してもらえる可能性は限られてしまうのです。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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なお、冒頭の写真はCopilot デザイナーにより作成したものです。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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