「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?

第198回

融資口利き事件からの教訓

落藤 伸夫 2022年2月28日
 



融資口利き事件からの教訓

先日、中小企業向け財務支援を行う支援者に激震が走りました。日本公庫が行う貸付の口利きをしたことで遠山清彦元衆議院議員が貸金業法違反を問われた裁判で、元議員が疑義を認めたニュースです(日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE1438B0U2A210C2000000/)。


この事件について法的側面からの議論も重要ですが、もうひとつ、中小企業の求めにどのように対応するかの議論も必要だと考えられます。今回は、この点について考えてみます。



口利きによる審査のスピードアップについて

遠山元議員が日本公庫の行うコロナ対策特別貸付について口利きをしたのはなぜか?中小企業はなぜ、元議員に口利きを依頼したのか。一つの理由として、審査のスピードアップが挙げられています。


2020年春からコロナ特別貸付が始まった当初は、日本公庫が行うコロナ特別貸付にしても保証協会のコロナ特別保証にしても申込みが殺到して審査に長大な時間がかかっていました。判断が下されお金を受け取る頃には支払期日が過ぎてしまい、不払いを発生させてしまって企業の命運を危うくしかねないという状況さえ、生じていたのです。審査のスピードアップは、中小企業の実情を踏まえれば急務でした。


一方で、そのスピードアップが元議員という特別な、しかし金融について門外漢が介在して有償で実現するのは、利用者の待遇に差別が生じることを意味し、著しく衡平を欠くと言わざるを得ません。


ではどのように対処すれば良いのか。本コラムでは2020年4月20日にコロナ特別短期貸付を、27日にコロナ特別短期保証を提案しました。


例えばコロナ特別貸付は、普通貸付に要件を加えた特別貸付をベースに更に要件を加える制度設計なので当然、審査に通常以上の時間がかかります。この状況を打開するには、従来の普通貸付や特別貸付とは別に、緊急時に迅速に融資判断ができ、かつ従来の貸付に大きく影響を与えず、ほどなくして正常の審査によって吸収されていく貸付制度を設けるのが適当と考えられます。それが、当コラムで提案したコロナ特別短期貸付あるいはコロナ特別短期保証です。


これら制度を準備していれば、元議員による口利きは避けられたでしょう。逆に言えば、これら制度がなければ今後も同様の不祥事が避けられないと考えられます。



口利きにより判断に変化があったのか

今回の口利き事件でもう一つ疑問になるのは「口利きによって公庫の判断に変化があったか?特に、本来なら融資が受けられないはずの企業が、口利きを理由に受けられたという事実はないか」でしょう。この点について公庫は「適正に対応した」とコメントしているようです。元公庫職員だった筆者としても、それが本当であって欲しいと感じています。



通常の融資判断と異なる判断への要請

一方で、中小企業の財務改善と事業改善を支援しつつ企業を永続させ繁栄させる資金調達を支援する筆者としては、この状況に複雑な思いを抱いています。


議員など特別な人物の口利きにより融資判断に変化が生じてはなりませんが、従前の判断方法では財務基盤の傷みが大き過ぎるなどの理由で融資可能と判断できないが、事業を継続し将来には復活・発展させられる潜在能力(事業性)がある企業を選び出し支援する仕組(事業性評価)が十分に準備されていない状況について危惧を抱いているのです。この状況が改善されないと、コロナ禍が過ぎ去った後には地域を支え発展の原動力になるべき中小企業が十分に存在しない、という状況になりかねません。


制度的には2021年春に始まった「伴走支援型特別保証」は企業に経営行動計画書が求められ、金融機関には中小企業への伴走支援が求められており、従前とは違った観点の審査が行われる可能性があると期待されます(中小企業庁サイト:https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/2021/210325hosyo01.pdf?20220201)。


但し、本制度が準備されたので事業性評価が満足に行われると期待できるでしょうか?今、膨大な数の中小企業が事業性評価を必要とする一方で、本制度の利用はあまり伸びていません。入り口となる金融機関で、事業性評価への対応が十分にできていないからではないかと推察されます。


では、どうすれば良いのか?事業性評価支援士協会では昨年春から、税理士などの専門家を「事業性評価支援士®️」に養成する講座を開講しています(案内サイト:https://besa-sc.com)。事業性評価について熟知した専門家が日頃から中小企業に伴走支援し、危急時には適切な資料提供を手助けすることで金融機関が円滑に事業性評価を行えるという構図ができれば、議員など特別な存在による口利きも姿を消すでしょう。これが中小企業向け金融支援の望ましいあり方と考えられます。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

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なお、冒頭の写真は 写真AC から タマヤ さんご提供によるものです。タマヤ さん、どうもありがとうございました。


 
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


HP:StrateCutions

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