「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第22回

経営力向上計画に取り組む

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
最近「事業性評価に基づく融資を検討してもらうために、どんな計画書を作成すれば良いですか?」というご質問を、多くいただきます。その答えは「融資を受けようとする企業による」というのが答えなので、一概にはお返事はせず、状況をよくお聞きした上でお返事します(時にはコンサルティングの事前ヒアリング並みの調査をさせて頂かなければならないこともあります)。

一方で「債務超過ではない」、「巨額の赤字が出ていない・赤字が連続していない」、「延滞等が発生していない」等の状況が確認できた場合には「経営力向上計画に取り組んでみるのはどうでしょうか」とご提案する場合が多くなっています。今回は、この計画について考えてみましょう。


経営力向上計画

経営力向上計画は、昨年(2016年)7月の「中小企業等経営強化法」の施行に合わせて設けられた計画です。この計画の特徴は、各業種を主管する大臣(主務大臣)に申請すると認定が得られることで、これにより税制措置や金融措置を受けられるようになります(その内容については、本コラムの趣旨とは離れるので割愛させて頂きます。詳しくは中小企業庁HPをご覧ください)。

経営力向上計画として認定を受けるためには、3年間ないし5年間の計画期間で労働生産性を一定比率以上(5年計画の場合3%以上、4年計画の場合2.5%以上、3年計画の場合2%以上)向上させるよう目指すことが求められています。作成する計画書は、最もシンプルなものでA4用紙2枚程度というコンパクトなもので、以下の構成とするよう定められています。

1 (計画策定企業の)名称等
2 事業分野(業種)と事業分野別指針名
3 実施期間
4 現状認識
 (1) 自社の事業概要
 (2) 自社の商品・サービスが対象とする顧客・市場の動向、競合の動向
 (3) 自社の経営状況
5 経営力向上の目標及び経営力向上による経営の向上の程度を示す指標
6 経営力向上の内容
7 経営力向上を実施するために必要な資金の額及びその調達方法
8 経営力向上設備等の種類
(以上のうち「7」と「8」は該当する制度の活用予定がなければ記入する必要はありません)。

事業性評価による融資を目指す企業経営者の皆さんに「経営力向上計画」の作成をお勧めするのは、この計画が、シンプルながらも企業の現状を的確に理解した上で潜在能力をあぶり出し、成果を出すまでの経路をきちんと描くように促すものとなっているからです。それに加えて、実際にそのような計画になっていることを、主務大臣の認定という形で証明することができます。


事業性評価における金融機関の役割

金融機関にとって、事業性評価による融資判断をすることは、実はものすごくハードルの高い役回りです。金融機関は融資の申し込みがあった場合、決算書(決算数字)等という客観性のある情報(定量的情報)と、企業理念や事業計画などの有無やその妥当性、企業経営者の人柄、社員が活き活きと働いているかなどの主観的な情報(定性的情報)の両方を検討しながら融資判断しています。しかし従前は「金融検査マニュアル」で、定性的情報に重きを置いて融資判断するよう促されていました。これが今では、事業性評価という定性的情報をベースにした判断に変わってきたのです。

経営者の皆さんも経験しておられると思いますが、定性的情報で判断を下すのは、非常に難しいものです。従業員を評価する場合に、単に「売上」を基準とするならあまり迷うことなく評価することができるでしょう。しかし「仕事への意欲」や「職場活性化への意欲」、「顧客への好印象」なども判断基準に取り入れると、とたんに迷いが生じます。これらの基準でもってどのように評価するのかついて迷いが生じるだけでなく、判断基準として「これだけで良いのか?もっと他にも考えるべき事柄があるのではないか?」と迷いが出てくるのです。


経営力向上計画でスタートする

では、この迷いにどのように対処していけば良いのか。これも皆さんが経験しておられることだと思いますが、机上で検討するだけでは適切な答えに到達することはできません。判断基準をたくさん持てば持つほど、各々の基準について判断する事象を出来るだけ多くの取り入れれば取り入れるほど、適切な結論が得られる訳ではないのです。試行錯誤して、改善していかなければなりません(「PDCAサイクルを回す」ことは、それを行う代表的な方法の一つです)。

計画を立てることや、計画をもとに企業の現状を評価するにあたってPDCAサイクルを回して改善するとなると、肝心なのは「ほどよく」検討した上で「早めの」スタートを切ることではないかと思います。「ほどよく」というと曖昧ですね。でも「どの程度の計画を立てるべきか、決める法則はない」ということは、実感されているのではないかと思います。数をこなし、ブラッシュアップの経験を積んでいくしかありません。

でも、最初はその経験もありません。この場合には、どうすれば良いのか。最善の方式の一つは「豊富な事象をもとに構築されたシンプルなフォーマットをもとに計画を立てる」ことではないかと思います。経営力向上計画(フォーマット)は、そのような知恵の詰まった計画書だということです。


企業にも金融機関にもメリットある経営力向上計画を活用する

このような計画書でもって自社を分析し、将来像を描き、実現の方法を見定めていくことは、それを行う企業側のメリットになるだけではありません。それを評価する金融機関にとっても、またメリットになります。必要最低限のバランスのとれた情報を得ることで判断の確実性を高めていけるだけでなく、もっと難しい案件の判断では他にどんな情報を依頼すれば良いのかが、分かるでしょう。

このように経営力向上計画は、事業性評価による資金調達を考える場合に、企業にとっても、金融機関にとっても、メリットのある計画です。是非、前向きに取り組んでみて下さい。
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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