先週は「新たな取組」について、「自社の業績が向上し、体質が改善する」という実効性を基準に検討すべきこと、そのタネを探す方法として公開情報から模範を探す方法をお勧めしました。商工団体や役所の情報、例えば「中小企業白書」から参考になる成功例を見つけるのです。
こういうと「新しい取組と言いながら、世間的には新しくも何ともない取組も含まれてしまう」と疑問に感じる方も、おられるでしょう。しかしコロナ禍の中で自社を立て直そうとする時、言葉に引きずられて「新規性」それも「際立った」、「他人が感心する、誰も試みていない取組」を狙う必要はありません。コロナ禍が引き続いて体力が消耗した中では、危険すぎる場合さえあります。
ここでいう「新しい」とは、「これまでの経営努力では業績は改善しなかった。ここで、今まで行わなかった取組に業績改善のきっかけを探そう」と考え、「業績が改善して黒字化する、累積赤字を解消する、今後はキャッシュを内部留保して財務改善につながる」取組を探すという意味です。だからこそ模範を探す意味があります。今週は模範を見つけ方とその後に行うべき取組を考えます。
「模範」を探すメリット
事業改善の努力を勧めると多くの企業が「以前の取組」を再び始めます。以前に取り組んで効果があったものの、しばらく経って風化してしまったので改めて取り組むのならメリットはあります。
しかし、そうでない場合が多いのです。「他社では効果があったそうだが、自社では効果が上がらなかった」とか、「社員から抵抗が大きくて、効果が出るまでもなく、いつの間にか取り組まなくなった」という取組を再び開始してしまうのです。しかしそのような取組は、無駄に終わる場合が多いでしょう。
模範を探すメリットは、この罠に陥らずに済むことです。中小企業にとって、時には大企業にとっても、当社の「枠」や「殻」を打ち破る発想を得るのは容易ではありません。だから失敗に終わった取組をリピートしてしまうのです。他社の成功事例を見ることで、その弊害を打ち破ることができます。大企業同士だと市場が隣接しているので真似の効果は限定的かもしれませんが、中小企業の場合はデメリットよりもメリットの方が大きいのが普通です。是非、試してもらいたいアプローチです。
似た企業を探す
模範を探す時には、まず「自社に似た状況の企業が如何に成功したか」という視点で探します。業種・規模・サプライチェーン・顧客層・取引形態が異なる企業を模範に学ぶ方法もありますが(ベンチマーク)、それは高等テクニックです。初めて「新たな取組」にチャレンジする場合は、自社に似た企業から模範を求めるのが適当でしょう。事業や保有資源、事業環境等について予め自社分析して、これらの点で自社と類似することを確認しながら情報に当たるのが効率的だと考えられます。
自社との違いを見つけ、オリジナリティを加える
一方で「似た企業でとても参考になる模範を見つけた!それを完全コピーしよう」と考えると、少なからぬ場合で失敗します。それはなぜか?模範となった会社がいくら自社と似ていると言っても、事業や保有資源、事業環境等に違いがあるからです。例えば模範企業と自社は若いビジネスパーソンをメイン顧客とする点で似ていても、模範がビジネス服を扱い自社は普段着を扱うなら、同じ取組に対する反応が異なるかもしれません。事業上は全く同じだとしても、模範が路面店で自社はショッピングモールのテナント店では、同じ取組での成果に差が出るかもしれません。以上がたまたま全く同じでも、関東と関西で違いが生じる可能性があります。
「なんだ、そんな細かい違いを気にしなければならないなら模範を探すメリットはない」と思われるかもしれませんが、それは模範に求める効果を取り違えています。先にご説明した通り模範を探すメリットは、自分が陥っている思考の「枠」や「殻」を打ち破ることにあります。模範を見て「その手があったか!自分では思いもしなかった」と思い着くことができれば、それで十分なメリットが得られたのです。
では次にどうすれば良いのか?従来の「枠」や「殻」を打ち破ってブレークスルーできた発想で、自社に最適な解を考えていくのです。その解が模範の取組と同一であったとしても、自社と模範の違いをしっかりと見極めた上なら、必要なアレンジが見えてくるでしょう。自社に最適なオリジナリティを創造していくのです。このような思考プロセスを経ることで「新しい取組」の成功確率を高めることができると考えられます。
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