第83回
金融機関と信用保証の連携とは
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
先週の当コラムでは「信用保証制度見直しの影響」と題して、最近に筆者が見聞きしたことをお知らせしました。事業改革に成功して債務超過を解消した企業に、金融機関から「今後は原則、プロパーで取り組ませて頂く」という発言があり、社長は「保証料がかからないので助かる」と喜んでいました。しかし、積極投資をしようと借入を申し込んだ時、これまではプロパー対応が難しければ「信用保証付きで」と提案されていたのに、それも言わなくなったとのこと。改めて事業計画書を提出して調達できました。筆者も「金融機関の姿勢は変わったな」と感じた次第です。
なお本コラムは、ここで示した現象が全国一律に生じていると説明するものではありません。この事例は、先進的な事例ではないかと思います。もしこのような現象が浸透した時に参考にして頂きたく、あえて記事とさせて頂いたことにご注意ください。
見直しの概要と従前の取扱い
「中小企業信用保証制度見直し」の具体事項については、以下をご参考として頂ければと思います。
見直し措置は2本柱で構成されており、第1の柱は「創業期」や「再生期」、「持続的発展」、「危機時」にある企業を対象とした「中小企業の多様な資金需要に対するきめ細かな対応」です。第2の柱は「成長発展」にある企業を対象とした「信用保証協会と金融機関とが連携した支援」です。
冒頭に挙げた企業は、これまで債務超過だったので「再生期」にあるとされたのでしょうか、融資を依頼した時、金融機関はしばしば信用保証の利用を申し出てきました。この状況を金融機関の手続きプロセスでとして捉えて表現すると
・ 「債務者格付け」に基づくと「この企業はプロパー対応が難しい」と金融機関が判断する
・ 金融機関は融資申込み企業に「信用保証が付けば融資できます。申し込んでください」と依頼する
・ 企業の「信用保証申込書」に、金融機関の「信用保証依頼申込書」を添えて保証協会に申し込む
・ 信用保証協会から「信用保証書」が発行されると、当該信用保証書に記載の条件で融資を実施する
見直し後の取扱い(推察)
では「信用保証制度見直し」の実施後、「成長発展期」企業に対する融資プロセスはどうなったのでしょうか?冒頭例企業の場合、以下のプロセスで金融機関と保証協会が連携したのではないかと推察されます(全ての金融機関・全ての信用保証協会が同様な取り扱いとは言えません。筆者の経験と知見による推察です)。
・ 「債務者格付け」に準じた社内ルールに基づくと「プロパー対応が難しい」と金融機関が判断
・ 融資申込み企業に「御社について、もう少し詳しく教えてください」と申し出、ヒアリング・書類提出等を依頼(例示の企業は自発的に事業計画書を提出)
・ 金融機関は得られた情報をもとに「事業性評価」を実施、社内ルールに基づくと「プロパー対応可」と判断される場合には融資を実施
・ 金融機関が事業性評価したところ「申込み会社には事業性があると認められるが、借入希望金額等から自金融機関単独での対応は難しいと判断される場合、信用保証を申し込むよう企業に依頼
・ 企業の「信用保証申込書」に、金融機関の「信用保証依頼申込書」の他、保証協会からの依頼に基づき事業性評価に係る書類を添えて保証協会に申込み
・ 信用保証協会から「信用保証書」が発行されると、当該信用保証書に記載の条件で融資を実施する
連携による企業への影響
「なるほど。金融機関と保証協会がこのような連携をすることになったので、冒頭例示企業は事業計画書を提出したのだな。」はい、当該企業は債務超過時の資金調達のため事業計画書を作成していたので、今回も最新版にリバイスして提出しました。「でも、今までは信用保証申込書だけだったのに、面倒が増えたではないか。」そういう感想を持たれることは、理解できます。
一方で、筆者はご支援している企業の社長さんに「この連携により金融機関も保証協会も、今まで以上に当社をしっかり理解して融資・支援してくれる体制ができた。企業にとっても雨の日に傘を取り上げられないよう、コミュニケーションを密にし、事業改善に励む動機付けができた」とお伝えしています。「いざ」という時の資金調達を、今まではいわば「時の運」に任せるしかありませんでしたが、これからは普段の経営努力とコミュニケーションで確実性を増すことができるのです。これを活用しない手は、ないと思います。
<本コラムの印刷版を用意しています>
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。
プロフィール
落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。
平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。
現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。
【落藤伸夫 著書】
『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions