よどみのうたかた

第36回

低い日本の食料自給率、向上策はあるのか

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

昨年(2024年)の日本の食料自給率はカロリーベースで38%だったという。ここ25年ほどは大体このぐらい(40%程度)で推移している。これでは安全保障上も良くない。ということで、政府も自給率向上を目指してきた。2030年度までに自給率を45%に引き上げよう、ということらしい。

しかし、その実現は容易ではない。カロリーベースの自給率を高めるには、カロリーの高いものをより多く生産しなければいけない。具体的にはコメやムギ、トウモロコシなどの穀物の生産拡大が必要だ。ただ、生産者がそうした品目の生産に参入、あるいは増産するためには、ある程度儲かる必要がある。

これは、自給率に関するデータを見ていていつも思うことだ。食料自給率にはカロリーベースのほかに、生産額(金額)ベースというのもある。この生産額ベースでみると、2024年の自給率は64%だった。昨年はコメの価格が大幅に上昇したことから前年(2023年)より3ポイント上昇しているが、だいたい60%強で推移している。

カロリーベースとはだいぶ開きがあるが、ある意味では生産者が金額面で高価な品目を生産しているということだろう。首都圏の近郊で多く生産されている野菜類や静岡県などに多いお茶などは、カロリーは低いものの付加価値は高い。そうした高付加価値品目の生産、さらなる付加価値の向上を進める生産者の意向が感じられる。

そんな中で、カロリーの高い穀類の生産増はどう実現するのだろう。儲かるように、という前提を考慮すると生産者ベースではコメの価格を引き上げていくことも必要になるだろう。小麦や大豆などは、国産の品質は高いとしても、海外から輸入されているものとの価格差を縮小する必要がある。輸入品を国産に置き換えていくということじゃなければ、海外などに新たな市場を開拓しないといけない。

人口減で国内の需要は増えないだろうから、供給過剰になれば価格の下落を招く。“儲からない”と経済原則上は増えないはずだ。じゃあ、その価格のギャップは補助金等で埋めるのか。海外を含めた新市場の開拓を政府が何とかするのか。いろいろと疑問が多い。

ただ、農地や農業技術については注目点もある。日本には、四国と同等規模の休耕地があるとされる。こうしたところの活用を進めることは、地方の活性化にとっても望ましいことだろう。空き家問題にも類するような地権の問題やさまざまなルールの見直しなど解決しなければいけない課題は多いと想像するが、考える価値はありそうだ。

日本は収穫量拡大に向けた農業技術も優れている。そもそもコメの生産に限れば、高度経済成長の時代まで生産量を拡大するための技術開発が進められてきた。農地1平方メートルあたりの収穫量をどう増やすのかに挑戦してきたのだ。二期作や二毛作といった農法も含め、昔取った杵柄でもある。現状は、減反政策の中で付加価値を求め、量より質、食味のいい品種の開発と生産に主軸を移している格好だ。

気候もいい。雨が多く、米国や豪州のように井戸を掘って水を撒かなくても耕作できる地域が多い。世界的に見ても、農業には極めて向いた国土だというそうだ。

こうしてみると、経済合理性の部分を何とかすればできそうに感じるかもしれないが、かなり難しい問題がある。それは人手だ。

例えば静岡県では、生産量日本一を長年続けてきたお茶が年々衰退し、とうとう鹿児島県に抜かれて2位に転落した。この背景には人手の問題がある。生産者が高齢化し、従事者数も減少している。山の斜面に茶畑が広がる静岡では、機械化も難しい。

平地での栽培が多い鹿児島県は機械化がしやすく、生産量を増やしてきた。そう考えると、機械化が可能な環境であれば人口減少下でも生産量の拡大も可能ということだ。もっとも、すでに機械化が進んでいるコメの生産などはそう簡単にはいかなそうだ。

草刈りや圃場の整備、出荷に伴う梱包など、農業には一足飛びに機械化ができない作業がまだまだ多い。当面は人手が必要となる。地方のきびしい人口減少と高齢化の中で、この人手が確保できるようには思えないのだ。

近年は、海産物の水揚げ量で国内有数の静岡県焼津市でも人手不足が極まり、事実上の外国人労働者である技能実習生が主力労働力になりつつあるという話もある。農業分野にもこうした労働力の活用が進んでいる。

この結果として食料自給率が高まったとしても、作っている人がみな外国人だとなればどうなんだろう。安全保障上はなんだかビミョーだ。

この話、本気でやるなら、本気で考えないと実現しない。それこそ、少子化問題のような難しいテーマであるような気がする。

 

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