企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第19回
「“社会貢献企業”としてのテレワーク導入」 〜採用力とブランド力を高める組織戦略〜
株式会社aubeBiz 酒井 晶子
1.テレワークは“社会的価値”を生む経営戦略
かつて、企業選びの基準は「給与」や「待遇」が中心でした。しかしいま、特に若い世代の間で「会社を選ぶ理由」に地殻変動が起きています。
彼らが重視するのは「この会社で働く意味」や「社会への貢献」。
ある調査では、就職活動生の約8割が企業のビジョンや存在意義を重視すると答えています。
この変化に応える一手こそが、テレワークの導入です。
私が出社する働き方を手放さざるを得なくなり、在宅で働くという道を選び、2011年に全員がフルリモートの会社を立ち上げたのが、aubeBizの原点です。
それから10年以上、600社以上の経営者様と対話を重ねる中で、「人が採れない」「業務が回らない」という悩みを数えきれないほど耳にしてきました。
しかし、私はいつもこうお伝えしています。
「大丈夫です。視点を少し変えれば、あなたの会社の力になってくれる人材は、必ずいます」
2. テレワークが生み出す「選ばれる理由」
① 採用の革命:勤務地の壁を越え、眠っていた才能と出会う
「東京に本社がないから」と、採用を諦めていませんか?テレワークはその壁を壊します。
例えば、長野に住みながら、東京の企業のSNSマーケティングを担う子育て世代の方
富山で介護を続けながら、在宅で経理業務を支える経験豊かな人材
出産や介護を経て、再びキャリアを活かしたいと願う女性やシニア層
こうした人材は全国に眠っています。
彼らが力を発揮できる環境を整えれば、会社の未来を支える大きな財産になります。
実際、転職希望者の6割以上が「在宅勤務の可否」を重視すると言われています。
もはや「テレワークができない会社は、選考の土俵にすら上がれない」時代が目前に迫っています。
② 共感を呼ぶブランド力:「応援したい」と思われる企業
「どうせ働くなら、社会に良いことをしている会社がいい」これは、今の時代の働く人たち、特に若い世代の言葉です。
テレワークを推進し、多様な働き方を支える姿勢は、社内にとどまらず社外にも伝わります。
それ自体がCSR(企業の社会的責任)活動であり、SDGsへの貢献です 。
さらにこの姿勢は、働く人だけでなく、取引先や顧客にも
「社員を大切にし、社会を良くしようとしている会社だ」
「安心して任せられる会社だ」
という信頼につながります。
社員・顧客・地域から「応援したい」と思われる──これが、企業ブランドを強化する大きな要素です。
3. 社会課題解決に貢献するテレワーク活用
テレワークは、社内制度にとどまらず、社会貢献活動へと繋がる働き方です。
地域を元気にする「ローカル・テレワーク」
地元の企業が、地元の人材をテレワークで雇用する 。長時間の車通勤を理由に働くことを諦めていた人が、「週1回の出社なら可能」と再び力を発揮できる。
これは、地域に新たな雇用を生み出し、経済を活性化させる確かな一歩です 。
誰もが輝ける社会へ
育児や介護を担う方、障がいを持つ方。テレワークは「働きたいのに働けない」人の力を引き出す仕組みです。キャリアを諦めなくてもいい社会をつくることは、企業にとっても大きな価値です。
何があっても揺るがない組織へ
災害やパンデミックはいつ起こるかわかりません。テレワークを取り入れることは、BCP(事業継続計画)の観点からも不可欠です。社員とその家族の生活を守り、顧客への責任を果たす「しなやかな組織」こそが、未来を生き抜く企業です。
これらはすべて「社員によし」「企業によし」「地域によし」の“三方よし”を生み出す実践です。
4. 成功するための導入ポイント
「そうは言っても、いきなり外部に仕事を任せるのは不安だ」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
そのお気持ちはよく分かります。だからこそ、私はいつも経営学者のジム・コリンズが提唱する「誰をバスに乗せるか」(「ビジョナリーカンパニー(2)飛躍の法則/日経BP社)という考え方から始めるようお伝えしています。
理念採用と価値観の共有
スキル以上に、会社の理念に心から共感し、信頼できる人とパートナーシップを結ぶこと 。これこそが、お互い離れた場所で働くリモート環境下での成功を支える土台です。もちろん、テレワークでなくても組織にとって大変重要な要素です。
成功のための「滑走路」(社内体制と仕組み)を整備する
成功するテレワーク導入には、準備が不可欠です。まずは業務の切り出しとマニュアル化、セキュリティ対策、そして公平な評価制度を丁寧に整備することが、「滑走路」となります。また、既存社員の不安を解消するための対話も、決して忘れてはなりません。
小さく始める勇気
最初から全てを完璧にする必要はありません。小さな試行を積み重ね、わずかでも自走化を目指すことが、やがて大きな変革へと繋がります。まずはBPOサービスのような外部の専門家に伴走してもらい、業務の棚卸しや仕組み化を進めるのも一つの方法です 。大切なのは、小さな一歩を踏み出す決断。失敗しても、それ自体が学びとなり、必ず次の成長に繋がります。
5. テレワークで「選ばれる企業」へ
テレワークは、単なる選択肢ではなく、旧来の働き方を見直し、組織全体の生産性向上と企業ブランド価値向上を実現する「組織変革」であり「未来への投資」です。
この変革の一歩が、会社の成長、社員の働きがい向上、そして地域社会の活性化という「三方よし」の好循環を生み出します。これこそが、これからの時代を勝ち抜くための鍵となるでしょう。
aubeBizのミッションは「自分らしいビジネスと、働き方を応援する」ことです。
あなたの会社、そして地域が、未来から選ばれる存在となる。
その挑戦を、ぜひ私たちと一緒に始めませんか。
次回は 「“よくわからない”を乗り越える──テレワーク導入Q&A」
自社にテレワークを導入したいけれど、「何から手をつければいいの?」「セキュリティは大丈夫?」「評価はどうすれば?」といった不安や疑問を抱える企業は少なくありません。次回は、導入現場でよくいただく質問にQ&A形式でお答えし、最初の一歩を踏み出すための実践的なヒントをご紹介します。
プロフィール
株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
- 第19回 「“社会貢献企業”としてのテレワーク導入」 〜採用力とブランド力を高める組織戦略〜
- 第18回 「“自走できる人材”を育てるマインドと環境づくり」 〜指示待ち型から“目的を理解し、動ける人材”へ〜
- 第17回 「“信頼される会社”の条件──テレワーク時代の組織文化とリーダーシップ」 〜制度や仕組みを超えて“信頼”を築く組織の土台とは〜
- 第16回 生成AIとテレワーク ──中小企業が直面する“AI格差”を乗り越えるには?
- 第15回 「地域×テレワーク」──地方創生ローカル・テレワーク 〜地域企業と地域人材のハブとなる地域リーダーの創出〜
- 第14回 「“個の力”を最大化するチームづくり──テレワークでも成長・定着する組織のつくり方」 〜孤独・疎外感を防ぐコミュニティ型組織づくりの工夫〜
- 第13回 「“副業・複業人材”を活かす!兼業社会における新しい雇用戦略」 ── 多様なキャリアが交わる“パラレルワーカー”活用の可能性
- 第12回 「“スキマ時間”を活かす働き方──ワークシェアリングという選択肢」
- 第11回 「成功するテレワーク採用」 〜離れていても成果を出す組織づくりのヒント〜
- 第10回 「“全国から採用する時代”へ!採用戦略の発想を切り替えるヒント」 〜テレワークが生み出す“新しい雇用のかたち”〜
- 第9回 「BPOとBCP」―― 有事の際の事業継続に備える新常識
- 第8回 ーDX化の第一歩となる業務改革ー「属人化を防ぐ仕事の仕組み化」
- 第7回 完全テレワークでも離職率5%未満を実現するチームづくりの秘訣 〜組織の土台を支える“仕組み”と“信頼文化”のつくり方〜
- 第6回 成長戦略としてのBPO活用法 〜“外注”にとどまらない、企業の柔軟性と競争力を高める選択肢〜
- 第5回 「テレワークは難しい?」──よくある誤解と“うまくいかない理由”を解きほぐす
- 第4回 地域で働く、地域を支える──「ローカル・テレワーク」という新しい仕組み
- 第3回 地方に眠るチカラを活かす!「地方創生テレワーク」の可能性
- 第2回 眠れる働くチカラ 「働きたいけれど働けない」潜在労働力を社会へ
- 第1回 これからの時代に選ばれる働き方とは? ― 少子高齢化・人材不足を乗り越える組織づくりのヒント