企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第11回
「成功するテレワーク採用」 〜離れていても成果を出す組織づくりのヒント〜
株式会社aubeBiz 酒井 晶子
全国から人材を採用する時代」へとシフトしつつある昨今、テレワークによる採用は、地理的な制約を超えた雇用の可能性を大きく広げています。
では、実際に「成功するテレワーク採用」を実現するには、何が必要なのでしょうか?
今回は、私たちaubeBizが実践してきた経験をもとに、理念・仕組み・環境の3つの視点から、離れていても成果を出せる組織づくりのヒントをお届けします。
1. 理念採用を支える“理念の発信”
テレワークでの採用を成功させる上で、まず重要となるのが「理念の発信」です。
近年、企業がSNSで情報を発信することは不可欠となり、情報発信、顧客コミュニケーション、ブランド構築など多岐にわたる目的で重要な役割を果たしていますが、とくに人材採用においては極めて重要なツールと言えます。
就職活動において、多くの人がSNSで情報収集をする時代となり、20代の求職者への調査では8割以上が企業のSNSアカウントを閲覧するというデータもあります。
テレワークでは、就業後もオフィスでの雑談や日常的な対話が生まれにくく、「会社の雰囲気」や「大切にしている価値観」が伝わりづらいという課題があります。
だからこそ、採用活動の“入口”でどれだけ理念や想いを届けられるかが重要です。
aubeBizでは、採用LPやSNS、電子書籍、メンバーインタビューなど、さまざまな媒体を通じて、以下のようなメッセージを積極的に発信しています。
・私たちはなぜこの仕事をしているのか
・どんな人と一緒に働きたいのか
・チームとして何を大切にしているか
たとえば、「誰もが自分らしく働ける社会をつくりたい」、「自尊心と他尊心を育み合えるチームでありたい」、「家族も仕事も、自分らしく両立できる環境をつくる」 といった具体的な言葉が、共感を呼び、エントリーへとつながっています。
これからの採用は、“何をするか(What)”より“なぜそれをするのか(Why)”が問われる時代。理念やカルチャーが可視化されていることで、たとえ離れていても信頼関係が築きやすくなると考えています。
また、働き方やライフスタイルの多様化により、「自分に合う社風かどうか」、「自己成長できるか」、「社会貢献につながるか」などが、就業先を選ぶ際の重要な要素になってきました。
実際に働くメンバーの姿や声、仲良く楽しそうな様子、代表者の素顔などをSNSで発信し、透明性を増すことで、「ここで働きたい」と思う本気度の高い人材が応募してくれ、離職率の低さにもつながっています。
2. 面接0回でもミスマッチが起きない理由
理念によって共感度の高い人材が集まったとしても、「本当にテレワークで活躍できる人材なのか?」という疑問が残るかもしれません。
実は、私たちaubeBizでは、オンラインを含め、選考過程での面接を1回も行っていません。エントリーから就業開始まで一度も顔を合わしたり話をすることなく、文字のコミュニケーションのみで採用選考を行っています。
このお話をすると、ほとんどの方に驚かれますが、実はこの採用手法にこそ、弊社で離職率5%未満を維持できている理由があります。
面接で愛想よく、意欲あふれる発言ができる人はたくさんいます。
ただ、それだけでは、
・離れた場所でも自律的・能動的に仕事ができる人かどうか?
・文字でのコミュニケーションに問題はないか?
・自己管理能力や、アウトプットの質とスピードに問題はないか?
などは判断できません。
むしろ、笑顔や好感度で判断してしまい、テレワーカーとして大切な資質の判断を誤ることにつながるケースもあります。
そこで私たちaubeBizでは、独自の“実践型”の採用ステップを構築しています。
特徴的なのは、「育成と採用の一体化」「採用の自動化」を実践していることです。
書類選考を通過した方には、弊社で働くために必要な基礎知識、マインド、ITスキルなどを無料で学んでいただきながら、その過程で、オンライン・コミュニケーションスキルや、学びに取り組む姿勢、丁寧さ、配慮、課題のアウトプットの質などを確認していきます。
またこの方法は、採用する側だけでなく、応募者側にとっても「自分に合う会社かどうか」を判断する、いわばお互いのお見合い期間を設けることにも繋がります。
「面接しないとミスマッチが起きそう」という声もよく耳にしますが、普段は会わないテレワークという働き方だからこそ、会わずにうまくやっていけるかどうかを最初に見極めることが大切だと考えています。
つまり、面接“だけ”では見えないものを、学びを通したオンラインの対話の中で丁寧に育てていく。
これが、私たちが実践するテレワークの「採用と定着」のあり方です。
3. テレワークを支える仕組み化と環境整備
共感性の高い人材を採用し、実践的な選考プロセスでスキルや適性を見極めたとしても、テレワークがうまくいくとは限りません。
どんなに理念や相性が合っていても、 “仕組み”と“環境”が整っていなければ、働き手も企業側も不安になります。
私たちは、誰がどこで働いていても、スムーズに成果を出せるよう、以下のような仕組みを整えています。
● クラウドツールの活用
Google Workspace、Notion、Chatwork、ZoomなどのITツールを活用し、「業務」「マニュアル」「コミュニケーション」「資料管理」がすべてオンライン上で完結。
● 業務の見える化・マニュアル化
作業工程やチェックリストをドキュメント化し、属人化を防止。 「どこを見れば分かる」「どこまでやったか一目でわかる」状態をつくる。
● 定期的な1on1や、メンターチーム制度
キャリアサポート部や上司による定期的な面談を実施。業務の進捗や悩みだけでなく、体調や気持ちの変化も丁寧にヒアリングすることを心掛ける。メンター制度やチーム制度を設け、定期的に雑談ができる機会を設けるなど、離れていても「一緒に仕事を進めている仲間」として関係性を築く。
これらは、いわば「自律を促す仕組み」です。
ルールや監視ではなく、「信頼されているからこそ、自分の裁量で動ける」ことが働き手のモチベーションにもなっています。
そしてなんといっても大切にしていることは、「リアルで会える時間を大切にする」ことです。普段は離れているからこそ、忘年会などの会社行事で会える時には、しっかりと交流し、思いっきり楽しみ、仲良くなれる場作りを大事にしています。
採用は“制度”ではなく、“信頼と仕組み”で成功する
採用は”制度”ではなく、”信頼と仕組み”で成功するものです。
採用における最初の一歩は、「自社は、どんな文化で、どんな信頼関係を築きたいか」を明確にすることです。
テレワークという働き方は、場所を越えて、多様な人が働ける可能性を広げてくれます。
ですが、「制度としてテレワークを導入しただけ」ではうまくいきません。
理念を発信し、信頼でつながり、成果が出る仕組みを整える。その積み重ねが、“成功するテレワーク採用”を支えると考えています。
今、「人がいない」「いい人材が採れない」と感じている場合には、 “採用の前提”を見直すことで、新しい一歩が見えて来るかもしれません。
ぜひ、今回のヒントを参考に、貴社に合ったテレワーク採用の形を検討してみてください。
次回は、“スキマ時間”を活かす働き方──ワークシェアリングという選択肢
企業にとっては人手不足解消だけでなく、効率化・コスト削減にもつながる“少しずつ働ける”人の力を活かす「ワークシェアリング」について、弊社aubeBizの事例や導入の工夫を紹介します。
プロフィール
株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
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