企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第16回

生成AIとテレワーク ──中小企業が直面する“AI格差”を乗り越えるには?

株式会社aubeBiz  酒井 晶子

 

1. AI格差という、新しい壁

いま、ビジネスの世界では「生成AI」という新しい波が押し寄せています。
ChatGPTをはじめとした生成AIは、テキストや画像、資料作成、アイデア出しなど、かつて人が数時間〜数日かけて行っていた作業を、わずか数分で可能にしてしまいます。生成AIの登場で、ビジネスの風景は劇的に変わりつつあるのです。
実際、AIを積極的に取り入れている企業では、営業資料の準備にかかる時間が半減したり、マーケティング施策の試行回数が倍増したりと、確実に成果を上げています。一方で、「AIをどう扱えばよいのか分からない」「社内に詳しい人がいない」と立ち止まってしまう企業も少なくありません。
この両者の間に生まれつつあるのが、“AI格差”です。
資金や人材を豊富に抱える大企業は専門部署を立ち上げ、AIを活用した業務改革を次々に進めています。
ところが、「人手不足」や「ノウハウ不足」に直面し、大企業と同じスピードでは進めない中小企業や地域企業もあります。この差は、そのまま競争力の差となって広がってしまいます。

生成AIは業務を効率化し、人材不足を補いながら新しい価値を生み出すための、強力な味方になる可能性を秘めています。
本来ならば人手不足が深刻な中小企業や地域企業こそ、活用したいものです。
この生まれつつある“AI格差”の本質は、単に「技術」や「資金」の差ではなく、「行動」の差にこそあると考えています。
つまり、「AIを脅威と見るか」「味方と見るか」で、未来は大きく変わっていくのではないでしょうか。
今回のコラムでは、“AI格差”という課題に対して、いたずらに危機感を煽るのではなく、実践的なヒントを、皆さんと共有できればと思っています。

2. 中小企業が直面する“AI格差”の現実

生成AIの技術は、日進月歩。昨日まで最新だった情報が、今日にはもう古くなっていることが珍しくありません。
この凄まじいスピードに、限られた自社のリソースだけでついていくのは、至難の業だと感じます。
大企業では専門部署を立ち上げてAI活用を加速させていますが、中小企業には同じような余力はなかなかありません。
私たちが現場で耳にするのはこんな声です。

「AIを使いこなせる人が社内にいない」

「便利そうだけど、何から始めればいいのか分からない」

「導入には大きな投資が必要なのでは?」

確かに、どれももっともです。
ですが、こうした不安の多くは「自社だけで抱え込もう」とすることから生まれています。
発想を少し変えて、外部の力を借りることを前提にすれば、現実的な解決策が見えてきます。

3. AI×BPO×テレワークで広がる可能性

AI導入における一番の課題は、各種AIツールそれぞれへの知識ではなく、“AIを理解し、業務に組み込める人材”がいないことです。
今や、膨大な数の生成AIツールが、日々、続々と生まれています。
最新の情報をキャッチし習得しながら、業務に最適なツールを選ぶ。
それを単体で使用するのではなく、いくつかのAIツールを組み合わせる。
その上で、的確なプロンプトで業務フローを構築する。
AI活用のためのそうした一連の知識とスキルを持つ人材を探したり、育成することは至難の業です。
そんな時に活きるのが、BPOやテレワークを活用した外部パートナーとの連携です。
専門知識を持つ方を正社員として採用するのは難しくても、BPOやテレワークの仕組みを使えば、必要なスキルを持つ外部パートナーに「伴走」してもらうことが可能になります。

例えば、私たちaubeBizが企業様をご支援する現場では、こんな取り組みが進んでいます。

事務作業の自動化:議事録の自動作成や文字起こし、煩雑なデータ入力、定型レポートの作成などをAIで効率化。そこで生まれた時間を使って、人はもっと創造的なお仕事に集中できるように。

マーケティング支援:SNS投稿の文章や画像などのドラフトをAIで複数作成。市場の反応を見ながら迅速に改善することが可能に。

採用支援:AIが市場のトレンドを織り込んだ求人原稿のドラフトを作成し、採用担当者の負担を軽減。採用マーケティングや人事戦略のための時間も半減。

ポイントは、このようなスピードが速く情報量の多い時代に「自社ですべてを抱え込まず、“外部のプロと一緒に”AIを業務に組み込む」という発想です。
テレワークで遠隔からサポートしてくれる外部専門人材や、BPO事業者と一緒に、会社の業務フローの中にAIを自然な形で取り入れていくのです。

4. “AI格差”を乗り越える3つのステップ

では、具体的に何から始めればよいのでしょうか。私たちは、いつも次の3つのステップをおすすめしています。

Step1:小さく始める(スモールスタート)

 大規模なAI導入にこだわる必要は全くありません。
まずは、日々の業務で「時間がかかっている」「単純作業が負担になっている」と感じる業務を一つ選び、AIに任せてみませんか?
例えば、会議の議事録作成や、お客様へのメールの文面作成をAIに試してもらうだけでも、その効果を実感できるはずです。

Step2: 業務フローに組み込む 

一部の社員だけがAIを使える状態では、組織に定着しません。
「この業務では、このAIツールを、このように使う」という簡単なルールを決めて、チームで共有しましょう。
テレワークやBPOの仕組みと連動させれば、属人化を防ぎながら効率化が進みます。

Step3:外部の知見を借りる

AIの専門家をフルタイムで雇うのは、コストや採用の面で難しい場合があります。
しかし、現在は副業やフリーランスの専門家、BPO事業者、AIツールベンダーなど、外部パートナーが豊富に存在します。
これらの外部パートナーの知識を活用することで、自社にノウハウがなくても安心してAI導入を進めることが可能です。

5. aubeBizが見てきた実例

地域の製造業A社:AIサポートを導入し、提案資料の骨子やドラフト作成を効率化。これにより、営業担当者は資料作成に費やしていた時間を顧客との対話や関係構築に集中できるようになり、売上アップに繋がりました。

観光業B社:人手不足に悩む宿泊施設がAIを活用し、情報発信を強化。地域の魅力やイベント情報を盛り込んだSNS投稿文を多角的に生成することで、発信頻度と質が向上。その結果、新たな観光客の誘致に成功しています。

自治体プロジェクト:地域で活躍するテレワーカーが担当する事務作業にAIを導入し、データ入力業務を効率化しました。これにより、テレワーカーは地域産品のPR企画など、さらに付加価値の高い業務に挑戦できるようになり、活躍の場が広がりました。

これらはすべて「小さな一歩」から始まったものです。重要なのは「自分たちにもできる」と実感できる体験を積み重ねることです。

6. まとめ

AIを「脅威」ではなく、頼もしい「味方」にするためにAIは人の仕事を奪う存在ではなく、むしろ人の力を引き出し、新しい挑戦を後押ししてくれる味方です。
 特に中小企業や地域企業にとっては、「AI×BPO×テレワーク」の発想が、深刻な人材不足とAI格差の両方を解決する切り札となるはずです。

「小さく始める」→「仕組みに組み込む」→「外部と共に育てる」

 このサイクルを回し続けることが、変化の激しい時代を生き抜く最大の武器になります。
AIを「脅威」と見るのではなく「頼れる相棒」として迎え入れること。
それこそが、これからの中小企業が未来を切り拓くための第一歩だと私は信じています。


次回は「“信頼される会社”の条件──テレワーク時代の組織文化とリーダーシップ」
制度や仕組みだけでは育めない“信頼”の文化。トップの姿勢、透明性、価値観の共有が、テレワーク時代における強い組織をつくるポイントについてご紹介します。

 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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