企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第5回
「テレワークは難しい?」──よくある誤解と“うまくいかない理由”を解きほぐす
株式会社aubeBiz 酒井 晶子
なぜ「テレワークは難しい」と感じてしまうのか?
「テレワークはうちの会社には向かない」
「やっぱり出社じゃなきゃダメだよね……」
そんな声を今でもよく耳にします。実際、導入してみたけれどうまくいかなかった、という企業も少なくありません。
一方で、テレワークをうまく取り入れ、柔軟な働き方の実現を通して従業員の満足度を高めつつ、効率化・生産性向上にも成功している企業もあります。
では、何がその分かれ道になっているのでしょうか?
今回は、「テレワーク=難しい」と思われがちな背景にある思い込みや不安、誤解をひも解きながら、テレワークをより円滑に進めるためのヒントをお届けします。
思い込みがハードルになる──よくある3つの誤解
誤解①「テレワークだとサボる人が出るのでは?」
大切なのは“管理”よりも“信頼”
テレワークにおいて、社員の姿が見えない状況に不安を覚えたり、「もしかしてサボっているのでは?」と疑念を抱いたりする声はよく聞かれます。しかし、これらの不安の根底には、「自律」と「信頼」という、テレワークの根本にある考え方への認識不足があるのかもしれません。
実は自宅のほうが集中できて、仕事の効率が上がるという人も多くいます。
大切なのは、成果を見える化する仕組みや、働く方の自律を促す環境を整えること。監視型の管理ではなく、ある程度の裁量権を与え、お互いを信じる文化をつくることです。そうすれば、むやみに疑心暗鬼にならずにすむどころか、出社するよりも高いパフォーマンスを出し、チームとしても十分に機能します。
これは弊社自身はもちろんのこと、クライアント企業においても実証済みです。
誤解②「コミュニケーションが減って孤立しそう」
カギは“設計された交流”をどうつくるか
「表情が読みづらい」「雑談が生まれにくい」──これは、オフィスでは当たり前だった“自然発生的な交流”に慣れていたことから感じるギャップです。
お互い離れた場所にいるテレワークでは、設計された交流が必要だと考えています。
ICTを徹底的に活用し、チャットでのちょっとした声がけや、定期的なオンライン・ミーティングの開催、気軽に話せる雑談タイムなど、コミュニケーションが取れる機会を意図的に設計します。
また、チーム制度やメンター制度を導入し、相談や雑談、業務外の話題も気軽にできるような体制を整えることも効果的です。
テレワークでは自宅での勤務も多いため、どうしても私生活が仕事に影響しがちです。だからこそ、体調や家庭の事情、悩み事なども安心して打ち明けられる「環境」と「文化」の両方を構築することがとても大切です。
例えば、上司との定期面談といった「環境」を用意しても、相談しにくい社風だと、結局は本音が言えず、ストレスを抱えてしまうことも少なくありません。困っていることを気兼ねなく共有できる社風、むしろ共有を推奨する「文化」を育むことが、テレワーク環境下で従業員を孤立させないための重要な基盤となります。
誤解③「進捗や成果が見えない」
“プロセス管理”から“成果評価”への転換を
「働いている姿が見えないと不安」──この感覚は、経営者として、わたしもよく理解できます。
でも実際には、タスク管理や日報、チャットなど、ICTツールを活用すれば、業務の見える化は十分に可能です。また最近では、AIツールの進化でさらに可視化と効率化が進んでいます。
必要なのは、“時間”ではなく“結果”に目を向けるマネジメントへの転換。
たとえば、オフィスで8時間かかっていた業務を、自宅で集中して3時間で終わらせたら、残りの時間を自分の成長や家族との時間に使ってもいい。
**「働く時間を減らして、成果を倍に」**という発想は、企業と働く側の双方にとって、これからの時代に非常に適しているのではないでしょうか。
「うまくいかない理由」は、“仕組み”の問題かもしれない
これまで、14年以上にわたり全員がテレワークの自社組織を運営し、クライアント企業のテレワーク導入をご支援してきたなかで、テレワークがうまくいかない背景には、制度や文化の未整備があることが多いと感じています。
出社を前提に設計された組織や評価制度そのままでテレワークを導入しようとすると、どうしても矛盾や不具合が生まれます。
成果基準の曖昧さ、ルールやマニュアルの不備、そして何より信頼関係が築かれていないことが、大きなハードルになってしまうのです。
弊社aubeBizの過去の“つまずき”からの学びと実践
私たちaubeBizは、創業以来フルリモートで10年以上事業を運営してきました。今でこそ離職率5%未満を維持していますが、最初からうまくいったわけではありません。
たとえば──
・仕事とプライベートの境界があいまいで、休むタイミングがつかめない
→「土日・夜間は原則連絡しない」というルールを明確にしました。
・業務の所要時間が想定よりもかかっていた
→「2時間作業したら一度進捗報告をする」といったルールを設け、進捗を早期に把握できるようにしました。
・質問を遠慮して悩みを抱えてしまう
→「メンター制度」や「キャリアサポート制度」を導入し、安心して相談できる体制をつくりました。
仕組みと文化、そして“信じる力”
私たちはICT(チャットツールやGoogle Workspaceなど)の活用に加え、チーム制・メンター制・雑談タイムを通じた「人とのつながり」も大切にしています。
また、GoogleカレンダーやNotionでのスケジュールやプロジェクトの共有を通じて、仕事もプライベートも含めたお互いの状況の「見える化」も重視しています。
そのため弊社の共有カレンダーには、例えば通院や学校行事、旅行などのプライベートの予定も入れることを推奨しています。(もちろん、あくまで任意で、書きたくないものは書く必要はありません。)
そうすることで、「今は旅行中なんだな」、「今日はお子さんの運動会なんだな」、と相手の様子が分かり、お互いにフォローしやすくなるからです。
仕事とプライベートを切り分けるのではなく、どちらも個々の人生や、日々の生活において大切な要素であると考え、そのどちらも尊重し、応援し合う社風が根付いています。
重要なのは、体調不良や家族の行事、業務上のミスなども萎縮せずに共有できる「安心安全な文化」の醸成だと考えているからです。
そして何より私たちが大切にしているのは、 ミッション・ビジョン・バリュー・クレドという「共通の価値観」を軸に、しっかりと整備されたマニュアルとツールを活用し、最後は良識と良心に基づいて、それぞれが判断し動ける信頼と裁量のある環境をつくること。
さらに、うまくいったことも、いかなかったことも、振り返り評価を行い改善へ繋げ、全てを経験値としてマニュアルに反映させることで、全員に共有できる仕組みをつくることです。
実はこれは、出社型の組織でも、ぜひ作っておくべき仕組みと文化だと考えています。
出社か、テレワークか。
“働き方”を問う前に、「属人的にならない仕組み」と、「自律的に働ける信頼の文化」をつくる──
それが、組織の発展と働きやすい環境づくりの基盤になると考えています。
テレワークは「難しい」のではなく「準備と仕組み」が必要なだけ
テレワークの導入は、決して高価なシステムの導入や、特別なスキルや努力を必要とするものではありません。
まずは社内のペーパーレス化、クラウドの活用から始め、段階的に仕組みとマニュアルを整備していくスタンスがお勧めです。
成果基準の設定、業務プロセスの可視化、そして信頼に基づく組織文化を育むためのシステム構築。これらが整い、テレワークが可能な体制が整うことで、企業は新たな可能性を切り開くことができると考えています。
「テレワークは難しい」というこれまでの認識に新たな視点を加え、ぜひ “自社らしいテレワーク”の形を築き、次の成長フェーズへと進んでいきませんか?
次回は、人材不足が深刻化する現代において、「BPO」の活用が企業の業務設計にどのような変革をもたらすのか、また成長戦略としてのBPO活用法とその可能性についてお伝えします。
※地方創生テレワークやローカル・テレワークについての小冊子を
無料配布しています。ご関心のある方は以下よりダウンロード下さい。
https://drive.google.com/file/d/18rwP34IfHBxwDcaBZ2J71QK7SXVO1FjU/view
プロフィール
株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
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