企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第10回

「“全国から採用する時代”へ!採用戦略の発想を切り替えるヒント」 〜テレワークが生み出す“新しい雇用のかたち”〜

株式会社aubeBiz  酒井 晶子

 

働き方が多様化し、企業経営においても「ウェルビーイング」が重視されるようになってきた昨今、採用の常識もまた、大きな転換点を迎えています。

「人が採れない」「定着しない」といった声を多く聞く一方で、本コラムで繰り返しお伝えしているように、日本全国には、潜在労働力=「まだ出会っていない“未来の力”」がたくさん眠っています。

しかし、多くの企業ではいまだに「出社できること」が採用の前提として根強く残っているのが現状です。
「基本は出社、テレワークは週に1〜2回まで」
「全国から採用したら、要出社時の交通費や宿泊費が大変」
「やっぱり顔が見えないと信頼できない」
…こうした“出社前提”という思い込みは、人事戦略と企業の成長を妨げているかもしれません。
今回は、そんな視点から「テレワーク採用」という選択肢について、改めて見つめ直してみたいと思います。

1. 働き方が変われば、採用の常識も変わる

これまで日本では、「終身雇用」や「総合職での一括採用」を前提とした“メンバーシップ型雇用”が主流でした。企業のために、どこにでも転勤し、何でもこなせる人材が求められていたのです。

しかし昨今、「特定の業務における成果や専門性」を重視する“ジョブ型雇用”への移行が求められるようになりました。
この変化は、単に雇用制度の話にとどまらず、「どこに住んでいるか」よりも「何ができるか」が重視される時代への転換を意味します。

同時に、テクノロジーの進化も追い風になっています。
オンライン会議、チャット、クラウドツール…場所に関係なく、誰とでもリアルタイムでつながれる今、もはや「物理的に同じオフィスにいること」に、それほど大きな意味はないのかもしれません。
そして何より、働く人々の価値観も大きく変わっています。

「好きな場所に住みたい」
「家族との時間を大切にしたい」
「通勤ストレスを減らしたい」

こうした“自分らしい働き方”を大切にする人たちは、今や「テレワーク制度の有無」を企業選びの重要な判断基準にしています。

2. テレワークで広がる人材の可能性

テレワークがもたらす最大の可能性は、“これまで採用対象になっていなかった人材”に出会えることです。
たとえば…

子育て中や介護中の方
地方在住で都市部への転居が難しい方
Uターン・Iターンを希望する方
通勤が困難な障がいを持つ方
本業のスキマ時間で副業を希望する方

こうした方々は、出社を前提とした求人では採用されにくかったものの、テレワークの導入によってその壁が取り払われつつあります。
実際、私たちaubeBizでも、さまざまな背景の方々が、自分の強みを発揮して働いています。

【aubeBizの事例紹介】

夫の転勤と子育てで10年間キャリアを中断した元専業主婦
ご主人が転勤族で定職に就くことが難しかった3人のお子さんを持つお母さん。約10年のブランクを経て弊社にてテレワーク就業。社内研修等を通して、ITスキルやオンライン・コミュニケーション能力を習得し、現在では管理職に。家庭と仕事、個人の活動を両立しながら新たなキャリアを築いています。

会計事務所や事業会社で財務責任者を務めた経験を持つ専門家
「今後の日本や社会のために貢献できる会社で働きたい」「家族やプライベートも大切にしたい」そんな想いから、通勤勤務からテレワーカーへ転身して弊社に入社してくれた男性メンバー。現在は社内の財務・管理を担い、「テレワークでも密なコミュニケーションと高いセキュリティ意識で、質の高い業務を実現できる」という弊社の組織づくりの根幹を担ってくれています。

豊かな暮らしを求めて移住先でテレワーク副業
将来の親の介護や、通勤が厳しくなる可能性を踏まえてテレワークでの副業を探していた方が、弊社の理念に共感してくれて入社。移住先の好きな場所に住みながら、空いた時間を有効活用されています。将来的に100%テレワークへと移行することを視野に、本業の傍らで副業を通してスキルアップする、まさにこれからの新しいライフスタイルを実践されています。

これらの事例は、さまざまなライフステージで多様なスキルや特性を持つ人々が、地方にいながらにしてテレワークで企業に貢献し、社会に新たな価値を生み出していることを証明しています。
彼らに共通するのは、場所にとらわれない働き方で「高い成果」と「信頼関係」を築いているという点です。
人材採用において、「信頼できる人」を採用することは、必要不可欠な要素です。そして「信頼できる人材」を採用しているのならば、場所が離れていても、組織が働きやすい環境と仕組みを整えることで、高いパフォーマンスを発揮してもらえるはずです。

「離れていても、質の高いチームや組織を築ける。」

私たちは日々の実務を通して、その確信を深めています。

3. 経営者や人事担当者の“3つの不安”に応える

前例がなく「全国から採用する」ことへの不安は簡単には拭えないかもしれません。
ここでは、よくお聞きする懸念点と、それに対する私たちの見解をご紹介します。

【不安1】「やっぱり出社できる人が安心」

→ 出社=安心、という価値観は、極論を言えば、仕組みが整っていないことの裏返しかもしれません。
理念共有と、見える化・仕組み化、各種制度の整備ができていれば、離れていても十分に信頼できる関係性と成果は生み出せると考えています。
もちろん、「実際に会う」ことには、とても大きな力や意義があり、私たちも年に数回「実際に会えること」をとても大切にしています。
ただ「会わなければ不安」というネガティブな土台が無いほうが、より強い組織になるのではないでしょうか。

【不安2】「交通費や出張費が心配」

 → 「企業の中には、「普段は地方在住でテレワークでも問題ないが、会議や行事の際にはどうしても出社してほしい」と考えているケースも多いでしょう。その際の交通費や宿泊費といった経費を懸念する声も聞かれます。
しかし、働く側からすると、「好きな場所に住みながらも、必要な時には出社して仲間と会える」という職場環境は非常に魅力的です。このような環境は、会社への貢献意欲を高め、結果として仕事のパフォーマンス向上にも繋がる可能性が高いのではないでしょうか。
会社近くに住みフルタイムで出社する人材と比較しても、短期離職のリスクを考慮すると、テレワークで長期的に活躍できる人材との関係構築は、結果的に高いリターンをもたらすと考えられます。

【不安3】「顔が見えないと信頼できない」

 → 先ほどもお伝えしましたが、そもそも採用する際には「信頼できる人を採用している」はずです。もちろん、さらに相互理解と信頼を深めるための「試用期間」などは大切ですが、実はテレワークこそ、この「試用期間」が本領を発揮します。顔が見えない=「いい顔してごまかす」ことができないからです。
テレワークで成果が出せる人は、リアルでも信頼できる人材です。
むしろ「監視されない環境」でこそ、裁量を持って主体的に行動できる優秀な人材が真価を発揮してくれます。

4. 採用戦略の“発想転換”が、組織の未来を変える

これからの時代、「生き方や、働き方の多様性」を受け入れ、柔軟な働き方を取り入れない企業は、選ばれなくなる可能性が高まります。
テレワーク活用による全国からの採用は、単なる人手不足対策ではなく、信頼される組織文化や業務の仕組みを整える機会でもあります。

そして、企業の採用戦略も「どこに住んでいるか」から 「どんな成果を出せるか」「どんなチームをつくれるか」へと、大きくシフトしていくタイミングが来ているのではないでしょうか。

5. 「“全国から採用する時代”」は、もう始まっている

今回はテレワークを中心にお伝えしましたが、「全国からの採用」は、テレワークだけに限らないと考えています。
出社が必須の業種・業態でも、会社や地域に魅力を感じて移住したり、複数拠点で生活しながら仕事をする人も増えています。
全国を視野に入れた採用は、意識の転換と、理念採用、信頼を前提とした仕組みづくりがあれば始められます。
 離れていても、同じビジョンを持つ仲間と働く。
理念に共感する仲間が全国から集まってくる。
そのどちらも、組織にとっての大きな力です。

このコラムが少しでも皆さまの採用戦略のヒントになれば嬉しく思います。


次回は、 「成功するテレワーク採用」 〜離れていても成果を出す組織づくりのヒント〜
テレワーク採用の具体的な手法について、弊社の経験知と実践知をもとにお伝えします。


 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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