企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第17回
「“信頼される会社”の条件──テレワーク時代の組織文化とリーダーシップ」 〜制度や仕組みを超えて“信頼”を築く組織の土台とは〜
株式会社aubeBiz 酒井 晶子
1.制度や仕組みだけでは「信頼」は生まれない
画面の向こうのメンバーは、本当に笑っていますか?
オンラインミーティングの画面に並ぶ笑顔は、必ずしも“心の声”とは限りません。
テレワーク時代のマネジメントには、「見える成果」だけでなく、「見えない感情」に目を向ける力が求められています。
「最近、メンバーの元気が無いように感じる」
「どこか仕事への熱量を失っている気がする」
そんな小さな違和感が、やがて“静かな退職(Quiet Quitting)”へとつながってしまうこともあります。
前回はAI活用をテーマに、テクノロジーが組織にもたらす可能性についてお話ししましたが、どんなに優れた戦略や最新のテクノロジーを導入しても、人と人の間に“信頼”という血流が通っていなければ、組織は少しずつ活力を失ってしまいます。
特にテレワークが浸透した昨今、社員一人ひとりが「この会社で働き続けたい」と思えるかどうかは、制度や給与だけでなく、日々の信頼文化にかかっているのです。
これまで以上に大切になる「信頼」という、かけがえのない資産。
エンゲージメントが高い、離職率が低いといった「辞めない会社」「選ばれる会社」の背景には、必ずと言っていいほど、社員間の信頼を育むための仕組みと、それを体現するリーダーの姿勢が存在します。
今回は、これからの時代に不可欠な「信頼される会社」の条件について掘り下げていきます。
2.“信頼される会社”に共通する3つの条件
では、この目に見えない「信頼」はどこから生まれるのでしょうか。
長年、様々な組織と関わる中で、「この会社は素敵だな」と感じる企業には、共通する“空気感”がありました。大きく3つの条件に整理できます。
① トップの姿勢と透明性
組織文化はリーダーの姿勢を映す鏡です。経営状況や事業方針を都合の良い部分だけでなく、厳しい現実も含めて包み隠さず共有すること。社員を「労働力」ではなく「未来を共につくるパートナー」として接する姿勢こそが、安心感と当事者意識を育みます。
② 嵐の中でも見失わない、「北極星」としての価値観
日々の業務に追われる中で、「何のためにこの仕事をしているのか」という目的を見失うことは少なくありません。
「私たちは、どこへ向かっているのか?」この問いに明確に答えられる価値観(ミッション・ビジョン・バリュー)が浸透している企業は、困難な状況でも迷いません。
例えば「顧客に誠実である」という価値観を掲げる企業なら、利益優先か顧客優先かを迫られた時も全員が同じ方向を選べます。リーダーの言葉と行動が一貫しているからこそ、社員は安心して未来へ舵を切ることができるのです。
とくに私たちのような完全テレワークの組織では、この行動指針は非常に大切です。弊社aubeBizでは、組織の「方針書」をPolaris(ポラリス=北極星)と名づけ、常に全員が確認できる場所に掲示しています。
③ 失敗を恐れずに挑戦できる「心理的安全性」
私たちは皆、失敗を恐れるものです。しかし、「もし失敗しても、仲間が責めずに一緒に考えてくれる」という確信があれば、人は安心して新しい一歩を踏み出す勇気を持つことができます。
これこそが「心理的安全性」です。特に、一人で仕事をする時間が多いテレワークでは、「こんな些細なことを聞いてもいいのだろうか」という小さなためらいが、やがて大きな孤独感につながる可能性があります。
私たちaubeBizでは、失敗は改善のための最大の経験値と捉え、次の誰かが同じことを繰り返さないようにミスを共有し、マニュアルの精度を上げていく文化が根付いています。
失敗は誰にでもあるもの。隠したり萎縮したりせず、共有してくれることに感謝する。どんなに小さな意見でも拾い上げ、挑戦を応援する。
そのような温かい眼差しのある関係性こそが、本当の信頼を育むのだと私は考えています。
3. テレワークだからこそ、意識したい信頼を育む仕組み
では、離れて働く環境で、どうすれば信頼を育んでいけるのでしょうか。
大切なのは、「きっと伝わるだろう」ではなく、意識して「伝えにいく」ための仕組みづくりです。
見える化で、安心を共有する
誰がどんな風に頑張っているかが見えにくいからこそ、お互いの状況を共有する。これは監視のためではなく、「ちゃんと進んでいるね」「困っていたら声をかけよう」と、お互いを気遣い、安心するための仕組みです。
「雑談」や「ありがとう」が飛び交う対話の場
オフィスでの何気ない会話は、心の距離を縮めてくれます。雑談は「無駄」ではなく、実は生産性を高める栄養素です。オンラインでも意識的に雑談の時間を設けたり、「ありがとう」をスタンプや言葉で伝え合ったりする。そんなコミュニケーションが、孤独を防ぎ、信頼の絆を強めます。
仲間の挑戦を、みんなで祝う「応援文化」
誰かの成果や挑戦を、チームのみんなが自分のことのように喜び、称え合う。そんな「応援し合う文化」は、組織の一体感を高め、信頼を何倍にも強くしてくれます。応援の連鎖は一体感を生み、組織全体に前向きなエネルギーを循環させます。
4. aubeBizでの実践例
私たちaubeBizでも、信頼文化を醸成するために、以下のような取り組みを実践しています。会社の体温を伝える「全社ミーティング」
会社の経営状況やこれから目指す場所を、毎月、全員で共有しています。同じ船に乗るクルーとして、会社の“今”を共有することで、安心して自分の持ち場で力を発揮してほしいと願っています。
「ようこそ!」を伝える「30日オンボーディング」
新しい仲間が、「ここが私の新しい居場所なんだ」と心から感じられるように。入社後30日間は、チーム全体で手厚くサポートし、孤独を感じさせない仕組みを整えています。
一人で抱え込まないための「メンターチーム・相談チャット」
仕事のことはもちろん、ちょっとした悩みも一人で抱え込まなくていいように。いつでも誰かに頼れるセーフティネットがあることが、心理的な安心感に繋がっています。
「ありがとう文化」の推進
日常の小さなことでも、感謝の気持ちを言葉にして伝えることを大切にしています。感謝の言葉が飛び交う組織は、自然とポジティブな空気に包まれ、お互いを尊重し合う信頼の土壌となります。
5. 信頼は最大の「離職防止策」であり、成長戦略
信頼は目に見えない資産ですが、経営資源の中で最も大切なものの一つです。
日々の小さな積み重ねによってしか育ちませんが、一度根付けば、離職を防ぎ、挑戦する意欲を引き出し、組織を強くしなやかにします。
この「信頼」こそが、人の心を繋ぎとめ、離職を防ぎ、一人ひとりの挑戦する意欲を引き出す、何より強い力を持っていると、私たちは信じています。
AIやDXというパワフルなエンジンを最大限に活かすためにも、まずは「信頼」という名の頑丈な船体をつくること。
人材が企業の未来を左右すると言われる現代において、「信頼される企業」であることは、単なる福利厚生ではなく、企業の根幹をなす成長戦略そのものなのではないでしょうか。
次回は「“自走できる人材”を育てるマインドと環境づくり」
指示待ち型ではなく、“目的を理解し、自ら考えて動ける人材”が、これからの組織の成長には不可欠です。
次回は、講座設計やナレッジ共有、評価・フィードバック文化など、aubeBizが実践してきた「自走人材」の育て方を紐解きます。
プロフィール
株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
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