企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第14回

「“個の力”を最大化するチームづくり──テレワークでも成長・定着する組織のつくり方」 〜孤独・疎外感を防ぐコミュニティ型組織づくりの工夫〜

株式会社aubeBiz  酒井 晶子

 

前回は、「“副業・複業人材”を活かす!兼業社会における新しい雇用戦略」── 多様なキャリアが交わる“パラレルワーカー”活用の可能性と題し、組織の枠を超えて優秀な人材の力を借りる重要性についてご紹介しました。
多様なスキルや視点を持つ人材は、事業成長の起爆剤となり得ます。
しかし、どれだけ優秀な人材を集めても、組織との「つながり」が希薄であれば、その能力を十分に発揮することなく、早期の離職や契約終了につながりかねません。
特にテレワークが中心の組織だと、オフィスでのおしゃべりや、廊下ですれ違った時の「お疲れ様!」といった何気ないやり取りがありません。
だからこそ、ふとした瞬間に「私、一人で仕事してるな…」という孤独や疎外感を感じやすい、という切実な課題があります。
そこで今回は、私たちが重視する「コミュニティ型組織」の構築に焦点を当て、リモート環境下でも個々が輝き、安心して働き続けられることで、チーム全体の成果を最大化する仕組みについて解説します。

テレワーク組織に必要な“3つの基盤”

テレワークにでは、物理的な距離があるからこそ、心の距離を縮める土台作りが不可欠です。
それは、誰もが安心して働くための、ささやかでありながらも大切なことです。
私たちは、その基盤を「信頼」「自律」「共感」の3つだと考えています。

1.「大丈夫」と思える、信頼の土台

 何よりもまず、「仲間やチームへの信頼」が根底にある「べきです。今、何をしているのだろう?」という不安ではなく、「頑張ってくれている」と信じられること、つまり「信じることができる仕組み」を築いておくことが重要です。そのために、私たちは進捗や成果をオープンにし、いつでもお互いの状況がわかるようにしています。

-ポイント-
①成果・進捗のオープン化と裁量労働制
タスク管理ツールなどを活用し、全員の進捗を共有、可視化します。ポイントは「いつ、何時間働いているか?」を監視するのではない、ということです。テレワークでは、「労働時間」ではなく「成果」が管理の対象となる「裁量労働制」が適していると考えます。

②心理的安全性の確保
心理的安全性のない組織では、社員が萎縮し、自由な発言や提案が生まれにくくなります。また、失敗を恐れてミスが共有されず、同様の問題が繰り返されるリスクも高まります。人は誰しも失敗するものであり、いかに仕組みで防ぐか?が大切。「起きた出来事から何を学び、どう次に活かすか」を一緒に考えられる文化を育てることが大切です。

③応援し合う空気づくり
組織やチームの文化として、互いの挑戦を応援し、成功を共に喜ぶ姿勢を大切にしています。
ミッションやビジョン、バリュー、クレドなどを明確にするだけでなく、適切なフレームワークや研修を積極的に取り入れることが、この文化を育む上で非常に重要だと考えます。

2.「自分で考えて動ける」を支える、自律の仕組み 

「信じているから、あとはよろしく!」だけでは、メンバーは不安を感じ、放任になってしまいます。
そうではなく、一人ひとりが自信を持って自律的に業務を進められるよう、適切なサポートが不可欠です。
具体的には、業務マニュアルやチェックリストを整備し、仕事のゴールを明確に共有することが重要です。
これにより、「ここまでなら自分で判断して進めて大丈夫」という範囲が広がり、メンバーは安心して業務に取り組めます。
そして、自身の仕事がチームに貢献しているという実感こそが、メンバーのモチベーションと自走力を高める最大のエネルギーとなります。

-ポイント-
①業務プロセスの可視化

業務マニュアルやチェックリスト、共有ファイルなどを整備し、誰でも一定の品質で業務を遂行できる仕組みをつくります。

②成果物基準の明確化
仕事のゴール(成果物の基準や納期)を具体的に示すことで、メンバーは自己判断で効率的に動けるようになります。

③仕事の価値の理解
自分の仕事がチームや顧客にどのような価値を提供しているのかを伝えることで、モチベーションと当事者意識を高めます。

管理し過ぎず、放置し過ぎない、適切な裁量権のある働き方が、テレワークにおいて高いパフォーマンスを出せるポイントだと考えています。

3.「あなたと働けて嬉しい」と感じる、共感のコミュニケーション

アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」では、人がコミュニケーションをとる際、話し言葉が与える影響は7%に過ぎず、声のトーンや話し方が38%、表情や態度が55%もの影響を与えるとされています。
テレワークでは、相手の表情や声のトーンが分からない文字でのやり取りが中心となるため、どうしても無機質なコミュニケーションになりがちです。
特に真面目な人ほど、「仕事だから無駄な言葉を入れずに簡潔に」と考えてしまい、業務連絡だけのやり取りが続き、孤独を感じたり気分が沈んでしまうこともあります。
だからこそ、私たちは「あたたかい一言」や「雑談できる時間」を非常に大切にしています。
例えば、全社ミーティングの前や、メンターチームの定例ミーティングで雑談の時間を設けたり、「部活」のようなグループ活動も行っています。
日々の仕事のやり取りにおいても、すぐにスタンプで反応したり、絵文字を使ったり、感謝や応援の言葉を添えるなど、気持ちを伝える文化が根付いています。
こうした小さなコミュニケーションの積み重ねこそが、心の距離をぐっと縮めてくれると信じています。

-ポイント-
①雑談や学び合いの場の設定

定例ミーティングとは別に、気軽な雑談タイムや、互いの知識を共有する勉強会などを開催します。

②人間的なつながりの重視
「仕事の話」だけでなく、趣味や最近あったことなど、パーソナルな部分を開示し合える場をつくります。

③スピーディな反応
フィードバックを迅速に行うことも、相手への関心を示し、信頼感を高める上で非常に重要です。
もちろん、テレワークですので、連絡する側にも休日夜間や時間帯などの配慮は必要です。
すぐにフィードバックができない時でも、リアクション(いいね!や絵文字など)や一次返信で思いを伝える工夫もできます。

aubeBizの“自律型チーム”事例

言葉だけではなかなか伝わらないと思いますので、私たちaubeBizが実際にやっていることを、少しだけご紹介します。

事例1:「あれ、どうなった?」をなくす、AIとツールの優しい活用

私たちの仕事のやり取りは、ほぼすべてクラウド上で行われています。Google WorkspaceやChatworkはもちろん、NotionやTrelloといったツールを使えば、誰がどこまで進めているかが一目でわかります。最近では、会議の議事録作成やタスク管理、ネクストアクションや担当決めをAIがサポートしてくれるので、「あれ、誰がやるんだっけ?」という宙ぶらりんのタスクがなくなりました。おかげで会議は「進捗確認」のためではなく、「どうしたらもっと良くなる?」を一緒に考える、前向きな「相談」の時間に変わりました。

事例2:心の準備運動から始める、オンライン会議

オンライン会議はいきなり本題から入らず、私たちは、まず最初に「最近あった、ちょっと嬉しかったこと」を話す時間をつくっています。お互いの近況を知り、良かったことに目を向ける。それだけで心がほぐれて、温かい雰囲気で話し合いがスタートできます。そして、日々の業務の中では「ありがとうメッセージ」が頻繁に飛び交います。成果だけでなく、小さな気遣いにも「ありがとう」を伝え合う。そんな文化が根付いています。

事例3:新しい仲間を「一人にしない」、温かいお迎えとフォロー

新しくチームに加わってくれた仲間を、私たちは家族のように温かく迎えたいと思っています。
そのための「30日間オンボーディングプログラム」では、eラーニングでのスキルアップはもちろん、会社の文化や大切にしている価値観を共有します。
さらに、入社前から就業後も一貫して「キャリアサポート」チームに相談できる体制を整え、仕事以外のことも相談できるメンターチームがしっかりと伴走します。
孤独を感じやすいテレワークだからこそ「一人じゃないんだ」と感じながら、スムーズにチームに馴染んでいける仕組みづくりを目指しています。

孤独感・疎外感を防ぐ工夫

私たちは、業務上の仕組みだけでなく、遊び心のある工夫で「つながり」を強化しています。

気軽に頼れる場の創設:業務上の些細な質問からプライベートな相談まで書き込める「相談チャット」や、社内のノウハウを集約した「社内Wikipedia」を設置。

共通の体験:任意参加の部活動として「おさんぽ部」をつくり、離れていても各自が運動し、その様子を共有することで一体感を育んでいます。

感情の共有:オンラインでも感情の機微が伝わるよう、会議ではカメラオンを推奨し、チャットではスタンプやアバターを積極的に活用して、テキストだけでは伝わらない感情を表現しています。

会社の目標だけでなく、個々の夢や目標をみんなで共有し、互いの挑戦を本気で応援し合う。そんな風土が、私たちの組織の一番の強みかもしれません。
「仕事なのに甘い」と言われることもありますが、本当は誰しも、個々の幸せや、家族の幸せのために働いています。
個々の従業員=仲間を応援できる組織こそが、応援される組織になっていくのではないでしょうか。

幸せな成長サイクルが、最高のチームをつくる

テレワークの組織づくりで一番大切なのは、監視や管理で縛ることではなく、信頼をベースに、一人ひとりが安心して羽ばたける環境を整えることだと、私は思います。

信頼と心理的安全性を育む→放任ではなく、愛のあるガイドラインで自律をサポートする→生まれた成果に拍手を送り、日々の頑張りに感謝を伝え合う

この幸せなスパイラルが回り始めると、メンバーは自然と「ここで働き続けたい」と感じてくれるようになります。
そして、そんなふうに“個”が生き生きと輝き始めたチームは、私たちが想像する以上の素晴らしい力を発揮してくれると実感しています。

次回は、「“地域×テレワーク” 地方創生ローカル・テレワーク」 〜地域企業と地域人材のハブとなる地域リーダーの創出〜
地域が抱える課題と、そこに住む人々の力を「テレワーク」でどう繋いでいくのか。私たちが2019年から提唱している「「ローカル・テレワーク」について、ご紹介します。


 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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