第105回
経営者を悩ますパート勤務19時間問題 ~最低賃金上昇が生む「新たな壁」への実務対応~
一般社団法人パーソナル雇用普及協会 萩原 京二
<はじめに>
「週20時間働くと損をする」この数年、パート従業員の間でこうした会話が増えています。
社会保険に加入すると保険料を払わなければならないから、週19時間に抑えた方が手取りが多い。そう考える人が少なくありません。しかし本当にそうでしょうか。
実は、時給によっては週19時間の方がかえって損をするケースがあるのです。しかもそれは、特別に高い時給の話ではありません。最低賃金に近い水準でも起こりうる問題です。
この複雑な状況を生み出した背景には、最低賃金の上昇があります。賃金が上がること自体は喜ばしいことですが、それが既存の社会保険制度と衝突し、「年収の壁」をめぐる問題をより複雑にしてしまいました。
経営者は今、シフト管理の複雑化、従業員への説明責任、採用への影響、そしてコンプライアンスリスクという四重苦に直面しています。「従業員のためを思って対応しているのに、何が正解なのかわからない」。そんな声が現場から聞こえてきます。
このコラムでは、「パート勤務19時間問題」と呼ぶべきこの新たな課題について、その仕組みを詳しく解説し、経営者が取るべき実務対応を考えていきます。制度が複雑だからこそ、正確な理解と従業員への丁寧な説明が、これまで以上に重要になっているのです。
<経営現場で起きている静かな異変>
「すみません、来月からシフトを週19時間に減らしてもらえませんか」
都内で飲食店を経営するある経営者は、この半年で3人のパート従業員から同じような申し出を受けました。人手不足に悩む現場で、優秀なスタッフほど勤務時間を減らしたがります。一体何が起きているのでしょうか。
店長に相談しても要領を得ません。「社会保険に入りたくないんじゃないですかね」という曖昧な答えが返ってくるだけです。週に1時間減らすだけで、そんなに違うものなのか。経営者は半信半疑でしたが、調べてみて驚きました。たった1時間の違いが、従業員の手取りを大きく左右する可能性があったのです。
こうした現象は今、全国の中小企業で静かに広がっています。特に従業員が51人以上の企業では、シフト調整の要望が複雑化し、現場管理者が頭を抱えています。人手不足で困っているのに、働ける人が「働き控え」をする。この矛盾した状況の背景には、最低賃金の上昇がもたらした制度の大きな変化がありました。
<地殻変動をもたらした最低賃金の上昇>
パートやアルバイトで働く人たちの間で、長年「年収の壁」という言葉が意識されてきました。特に配偶者の扶養内で働く人にとって、社会保険料の負担が発生する年収ラインは重要な判断基準です。
この「壁」には主に二つあります。一つは「106万円の壁」です。従業員が51人以上いる企業で短時間労働者として働く場合、一定の条件を満たすと会社の社会保険に加入することになります。その条件とは、月収8.8万円以上で、週の勤務時間が20時間以上というものでした。月収8.8万円を年収に換算すると約106万円になるため、こう呼ばれてきました。
もう一つは「130万円の壁」です。残業代や賞与なども含めた年収が130万円以上になると、企業の規模に関係なく、配偶者の社会保険の扶養から外れることになります。
これまで、配偶者の扶養内で働きながら社会保険料の負担を避けたい人には、選択肢がありました。週の勤務時間を20時間未満に抑えるか、従業員50人以下の小規模な会社で働くかです。51人以上の企業でも週20時間未満なら社会保険には入りません。50人以下の企業なら、週30時間未満など、フルタイム勤務の4分の3未満であれば社会保険加入の対象外となります。
ところが2025年度、この前提が大きく変わりました。全国すべての都道府県で最低賃金が時給1016円を上回ることになったのです。これは一見、労働者にとって良いニュースに思えます。実際、賃金の上昇自体は歓迎すべきことです。しかし、この変化が既存の制度に思わぬ影響を与えました。
週20時間働けば、最低賃金でも月収は必ず8.8万円を超える計算になります。つまり、「106万円の壁」を構成していた二つの要件のうち、月収要件は事実上、意味を失ったのです。残る実質的な要件は「週20時間以上」だけ。この「週20時間」という勤務時間が、新たな壁として経営者とパート従業員の前に立ちはだかることになりました。
<「週19時間の罠」という落とし穴>
社会保険労務士のもとには、最近こんな相談が増えているそうです。
「うちの会社、従業員が60人くらいいるんです。パートさんが社会保険に入りたくないって言うから、週19時間のシフトを組んであげたんですけど、それでいいんですよね?」
専門家は優しく、しかし明確に尋ねます。「時給はいくらですか?」
経営者が「1350円です」と答えると、専門家は首を横に振ります。「それ、かえって損をさせているかもしれません」
従業員51人以上の企業で週20時間以上働くと、社会保険に自動的に加入します。健康保険、厚生年金保険、そして雇用保険の保険料を払うことになり、その合計は年間20万円前後。確かに負担は小さくありません。手取りはその分減ります。
だから週19時間に調整すれば、社会保険には入りません。時給1300円までなら、週19時間働いても年収は130万円未満で、配偶者の扶養内にとどまれます。自分で払う保険料はゼロ。一見、合理的な選択に見えます。
しかし時給が1320円になると、状況は一変します。週19時間働くと、年収が130万円を超えてしまうのです。すると配偶者の扶養から外れることになります。ところが勤務時間は週20時間未満なので、会社の厚生年金や健康保険には入れません。
結果として何が起きるでしょうか。自分で国民健康保険と国民年金に加入しなければならなくなります。そして、その保険料は年間32万円前後。週20時間働いて会社の社会保険に入る場合の保険料20万円より、12万円も高くなってしまうのです。
なぜこんなことが起きるのでしょうか。会社の社会保険は、保険料の半分を会社が負担する仕組みになっています。しかし国民健康保険と国民年金は、全額自己負担です。だから同じような年収でも、国保と国民年金の方が負担が重くなります。
しかも配偶者の扶養に入っている場合、国民年金の第3号被保険者として、保険料を払わずに基礎年金に加入しています。扶養から外れて自分で国民年金保険料を払っても、年金額は変わりません。一方、厚生年金に加入すれば、働いた期間に応じて基礎年金に上乗せして年金が増えます。時給1050円で週20時間、1年間厚生年金に加入すると、老後の年金は年間約5300円増え、65歳時点の女性の平均余命である約24年間では、合計約13万円多く受け取れる計算です。
週20時間で社会保険料20万円を払えば将来の年金が増える一方、週19時間で国保・国民年金に32万円払っても年金は増えません。保険料負担だけでなく、将来の保障という点でも、週19時間の方がはるかに不利なのです。
東京都や神奈川県では、2025年度の最低賃金が1200円台に突入しました。時給1320円というのは、最低賃金より約100円高いだけ。決して特別に高い賃金ではありません。ごく普通の時給で、この「週19時間の罠」に陥る可能性が出てきたのです。
大手シンクタンクの研究員は、この状況を「今までにない大きな変化」と指摘しています。「週20時間未満の勤務で年収130万円に突入する賃金水準が一般的になるのは、これまで想定されていなかった事態です」
<小規模企業が直面する別の困難>
「時給を1400円に上げようと思うんですが、どう思いますか?」
ある40代のパート従業員は、勤務先の社長からこう相談されました。嬉しい話のはずでした。しかしその従業員は複雑な表情で答えました。「ありがとうございます。でも、そうすると年収が130万円を超えてしまって...」
この従業員が働く会社は従業員30人ほどの小規模企業です。週20時間は働いていますが、子どもの送り迎えがあり、週30時間働くのは難しい状況です。しかし従業員50人以下の企業では、社会保険に加入できるのは週30時間以上働く場合に限られます。フルタイムの4分の3以上という基準があるためです。
週20時間では、この会社の社会保険には入れません。時給1400円で週20時間働けば、年収は約145万円。完全に130万円の壁を超えます。配偶者の扶養から外れ、自分で国保と国民年金に加入することになります。保険料は年間32万円程度。せっかくの昇給が、かえって家計を圧迫する結果になりかねません。
一方、もしこの従業員が従業員51人以上の会社で働いていたらどうでしょうか。週20時間で会社の社会保険に入れます。保険料は20万円程度で済み、しかも将来の年金も増えます。全く同じ働き方をしているのに、会社の規模によって10万円以上の差が生まれてしまうのです。
この従業員の悩みは深いものです。「社長は良い人だし、会社の雰囲気も好き。でも、大きな会社に移った方がいいのかな」
小規模企業の経営者にとって、これは深刻な問題です。優秀な人材ほど、社会保険に入れる51人以上の企業を選ぶようになっています。時給を上げれば人材確保できると思っていたのに、制度の壁が立ちはだかります。週20時間程度の勤務を希望する優秀な人材を、大企業に奪われてしまうのです。
<経営者を悩ませる四重苦>
この「19時間問題」は、経営者にとって実に厄介です。なぜなら、単に制度が複雑というだけでなく、経営のさまざまな局面に影響を及ぼすからです。
まず、シフト管理が極めて複雑になりました。「19時間にしてほしい」という要望と、「20時間以上働きたい」という要望が混在します。時給によって推奨すべき働き方が変わるため、一律の対応ができません。繁忙期に人手が必要なとき、19時間勤務の人に1時間多く働いてもらうと、その月は社会保険加入の対象になってしまうのか。毎週きっちり管理しなければならず、管理コストは確実に増大します。
次に、従業員への説明が非常に難しくなりました。多くの従業員は「20時間働くと社会保険に入って損をする」と単純に考えています。「実は時給によっては19時間の方が損」という複雑な説明を、どう伝えればいいのでしょうか。しかも制度を誤解している従業員から「会社が間違った指導をした」と不満を持たれるリスクもあります。
採用の場面でも影響は大きくなっています。求人の段階で「社会保険完備」と書いても、週20時間以上という条件を理解してもらえません。面接で詳しく説明すると、かえって「そんな複雑な会社は嫌だ」と敬遠されることもあります。「社会保険に入りたくない」という人を雇うべきか、それとも将来フルタイムで働いてくれる可能性のある人を優先すべきか。採用戦略そのものが揺らいでいます。
そして最も怖いのが、コンプライアンスのリスクです。従業員の要望に応じて勤務時間を19時間に調整することは、場合によっては「社会保険加入義務の意図的な回避」と見なされる可能性があります。労働基準監督署や年金事務所から指摘を受けたら、どう説明すればいいのでしょうか。従業員本人の希望であっても、会社の責任は免れません。
ある製造業の経営者は、こう嘆いています。「従業員のためを思って相談に乗っているのに、何をしても間違いになりそうで怖い。もう誰も相談に乗らない方がいいのか」
<経営者がなすべきこと>
では、経営者はこの複雑な問題にどう対応すべきでしょうか。答えは簡単ではありませんが、いくつかの指針は見えてきます。
何より重要なのは、従業員に正確な情報を提供することです。「19時間の方が得」という思い込みを放置してはいけません。時給によって最適な働き方が変わること、週19時間で130万円を超えると国保・国民年金の負担が重くなること、週20時間以上で社会保険に入れば将来の年金が増えることを、具体的な数字で示す必要があります。
例えば、時給別の手取りシミュレーションを作成して、従業員が自分で判断できるようにします。時給1300円以下なら週19時間という選択肢もありえます。ただしその場合、雇用保険にも入れないため、失業給付や教育訓練給付金が受けられないデメリットがあることも説明しておきます。
時給1320円以上なら、週20時間以上働いて社会保険に加入する方が明らかに有利です。確かに保険料の負担はありますが、週19時間で国保・国民年金に入るより12万円も負担が軽くなります。さらに将来の年金も増え、傷病手当金などの保障も受けられます。保険料の負担を上回る手取りを確保するには、週3から3.5時間ほど多く働く必要がありますが、長い目で見れば確実に得になります。
従業員50人以下の企業は、別の対策を考える必要があります。可能であれば事業を拡大して従業員51人以上になることを目指します。それが難しければ、週30時間勤務を促進する方向で考えます。あるいは、社会保険に入れない不利を補うために、他の待遇を充実させることも一案でしょう。
また、社内に相談体制を作ることも重要です。経営者や人事担当者だけで対応するのは限界があります。社会保険労務士などの専門家と連携し、従業員が個別に相談できる窓口を設けるのが望ましいでしょう。それぞれのライフステージや家庭の事情は異なります。画一的な対応ではなく、一人ひとりに最適なアドバイスができる体制が求められています。
さらに中長期的には、人事戦略そのものを見直す必要があります。「扶養内で働きたい」という従業員の希望を尊重することは大切です。しかし、それを固定化してしまうのは、従業員にとっても会社にとっても望ましくありません。
子どもが成長すれば、もっと働ける時間は増えるかもしれません。スキルを磨けば、より責任ある仕事を任せられるようになるかもしれません。パートからフルタイムへのキャリアパスを明示し、ライフステージの変化に応じて働き方を変えられる柔軟性を持つことが、これからの時代には不可欠でしょう。
ある小売業の経営者は、こんな取り組みを始めました。入社時にパート従業員全員と面談し、「今後3年間で、どんな働き方をしたいか」を聞き取ります。そして毎年、希望の変化を確認します。「今は扶養内でいいけど、3年後にはフルタイムで働きたい」という人には、そのためのスキル習得を支援します。逆に「ずっと扶養内がいい」という人には、その選択を尊重しつつ、不利にならない働き方を一緒に考えます。
「正解は一つじゃない。一人ひとり違う。でも、知らないで損をする人を出したくない。それが経営者の責任だと思うんです」
この経営者の言葉には、重みがあります。
<制度の歪みと向き合う>
ここまで見てきたように、「19時間問題」の根本には、制度設計の構造的な課題があります。企業規模によって社会保険加入の要件が異なること、106万円と130万円という二つの壁が併存していること、最低賃金の上昇に制度が追いついていないこと。これらが複雑に絡み合って、現場に混乱を生んでいるのです。
政府も「年収の壁」の問題は認識しており、さまざまな対策が検討されています。しかし制度改正には時間がかかります。当面、経営者はこの歪んだ制度の中で、最善の対応を探っていくしかありません。
ただ、一つ明確に言えることがあります。目先の損得だけで判断してはいけない、ということです。
週19時間で保険料を節約できたとしても、雇用保険がなく、将来の年金も増えない働き方が、本当にその従業員のためになるのでしょうか。一時的には手取りが多くても、5年後、10年後を考えたとき、どちらが良い選択だったと言えるのでしょうか。
経営者には、従業員の長期的な利益を考えてアドバイスする責任があります。もちろん最終的に決めるのは従業員本人です。しかし判断材料を提供し、一緒に考えることは、経営者にしかできません。
あるファイナンシャルプランナーは、こうアドバイスしています。「基本的には、将来も含めてどう働きたいかをよく考えてほしい。今は働く時間が限られていても、子どもの成長などに伴い、数年後にはフルタイムで働くかもしれない。その時に備えて経験を積むため、高い保険料を払っても、できる限り働いておくことも一つの選択肢です」
この視点は、経営者にとっても重要です。従業員が将来的にフルタイムで活躍してくれるなら、今、社会保険に加入して経験を積んでもらうことは、会社にとっても投資になります。目先の人件費負担だけを考えるのではなく、人材育成の視点を持つことが求められています。
<複雑さを乗り越えて>
ある飲食店の経営者は、その後、全従業員を集めて説明会を開きました。社会保険労務士に来てもらい、時給別の手取りシミュレーションを示しながら、一人ひとりに最適な働き方を説明しました。
「正直、こんなに複雑だとは思いませんでした。でも知らないで損をさせるわけにはいかない。一度きちんと説明しようと思ったんです」
説明会の後、3人の従業員が考えを変えました。19時間を希望していたうちの2人は、20時間以上働くことを選びました。「将来の年金のことまで考えていませんでした。もう少し頑張ってみます」と言ってくれたそうです。
もう1人は、時給が1300円だったため、19時間という選択を維持しました。ただし、雇用保険に入れないデメリットを理解した上での判断です。「子どもがもう少し大きくなったら、また相談させてください」。そう言って、将来的には勤務時間を増やす意思を示してくれました。
この経営者は、この経験を通じて気づいたことがあります。「制度が複雑なのは仕方ない。でも、それを理由に説明を避けていたら、従業員との信頼関係は作れない。わからないことは専門家に聞けばいい。大切なのは、一人ひとりのことを考えているという姿勢を示すことなんだと思います」
最低賃金の上昇は、働く人にとって基本的には良いことです。しかしそれが既存の制度と衝突したとき、思わぬ歪みが生まれます。「19時間問題」は、まさにその象徴です。
この問題に正面から向き合い、従業員一人ひとりに寄り添って最適解を探す。それは手間のかかることかもしれません。しかしそうした誠実な対応こそが、人材不足の時代に「選ばれる会社」になる条件なのではないでしょうか。
制度の複雑さを嘆くだけでは何も変わりません。むしろこの複雑な制度を理解し、わかりやすく従業員に伝えられる経営者が、これからの時代には求められています。「19時間問題」は、経営者の真価が問われる試金石なのかもしれません。
<おわりに>
「19時間問題」は、一見すると社会保険制度の技術的な話に思えるかもしれません。しかし本質的には、これは人と人との関係の問題です。
経営者と従業員の間には、情報の非対称性があります。制度が複雑であればあるほど、その差は広がります。従業員は「週19時間の方が得だ」と思い込んでいるかもしれません。しかし時給によっては、それが大きな損失につながることを知りません。
経営者には、この情報格差を埋める責任があります。難しい制度を理解し、かみ砕いて説明し、一人ひとりの状況に応じたアドバイスをする。それは確かに手間のかかることです。しかしその手間を惜しまない経営者の姿勢が、従業員の信頼を生みます。
「会社は私たちのことを真剣に考えてくれている」
そう感じてもらえたとき、従業員のモチベーションは上がり、定着率も高まります。人材不足の時代、これほど重要な経営資源はありません。
もう一つ、この問題から学べることがあります。それは、制度設計の重要性です。今回の問題は、最低賃金の上昇という望ましい変化が、既存の制度と齟齬を生んだ結果として起きました。制度は社会の変化に応じて見直されるべきですが、その調整には時間がかかります。
経営者は、制度の不完全さを前提に経営しなければなりません。「制度がこうだから仕方ない」と思考停止するのではなく、「制度の隙間で従業員が不利益を被らないよう、どう対応すべきか」を考える。そうした姿勢が求められています。
最後に強調したいのは、この問題には「絶対的な正解」はないということです。時給1300円で週19時間働くことが最適な人もいれば、時給1350円で週23時間働くことが最適な人もいます。子育て中の人、介護を抱える人、将来フルタイムで働きたい人、ずっと扶養内でいたい人。状況は本当に多様です。
だからこそ、画一的なルールではなく、個別の対話が必要なのです。手間はかかります。しかしその手間こそが、人を大切にする経営の証です。
「19時間問題」は、経営者にとって新たな負担かもしれません。しかしそれは同時に、従業員との信頼関係を深めるチャンスでもあります。この複雑な問題に真摯に向き合うことで、「この会社で働き続けたい」と思ってもらえる。そんな組織づくりの契機にしていただければと思います。
制度は複雑です。しかし、人を大切にするという経営の本質は、いつの時代もシンプルです。その本質を見失わず、目の前の一人ひとりと向き合う。それが「19時間問題」への最良の対応ではないでしょうか。
プロフィール
一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二
1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。
Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会
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