中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第48回

最低賃金改定にあたって注意すべきこと

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

前号に引き続き、最低賃金のお話です。今回は実務的なチェックポイントについてお伝えをします。


<最低賃金とは?>

最低賃金は、企業が労働者に対して最低限支払わなければならない賃金を定めたもので、労働者の生活の安定と労働条件の改善を目的としています。最低賃金は、厚生労働省が管轄しており、全ての企業がこれを守る義務があります。違反した場合、罰則が科されることもあります。


<最低賃金の種類>

最低賃金には、「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類があります。

(1)地域別最低賃金

 都道府県ごとに定められ、全ての業種や職種に適用されます。都道府県ごとに異なる水準が設定されており、地域の経済状況や生活水準を反映しています。

(2)特定最低賃金

 特定の産業や職種に対して定められる賃金です。例えば、製造業や運送業など、一定の業種においてその労働環境や賃金水準を考慮して設定されます。特定最低賃金が適用される場合は、地域別最低賃金よりも高い水準が適用されることが一般的です。


<最低賃金の例外>

最低賃金には、一部例外があります。例えば、研修期間中の労働者や、特定の障害を持つ労働者には、雇用者と労働者が合意した場合、最低賃金以下の賃金が認められることがあります。しかし、これらの例外は厳格な条件の下で認められ、安易な適用はできません。


<最低賃金の対象となる賃金>

最低賃金の適用対象となる賃金は、基本給や手当などの賃金全体を指しますが、一部の手当(通勤手当や家族手当など)は除外されます。最低賃金を下回る場合、その不足分を補う必要があります。


<最低賃金の計算方法>

(1)時間給の場合

時間給が最低賃金額(時間額)を上回っている必要があります。

時間給 ≧ 最低賃金額(時間額)


(2)日給の場合

日給を1日の所定労働時間で割った金額が最低賃金額(時間額)を上回っている必要があります。ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合は

日給が最低賃金額(日額)を上回る必要があります。

日給 ÷ 1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)

日給 ≧ 最低賃金額(日額)


(3)月給の場合

月給を1か月の平均所定労働時間で割った金額が最低賃金額(時間額)を上回っている必要があります。

月給 ÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)


(4)出来高払制その他の請負制による賃金の場合

出来高払制その他の請負制で計算された賃金の総額を、労働した総労働時間数で割った金額が最低賃金額(時間額)を上回っている必要があります。

(出来高払制・請負制による賃金の総額 ÷ 総労働時間数)≧ 最低賃金額(時間額)


(5)上記(1)〜(4)の組み合わせの場合

例えば、基本給が日給制で各手当が月給制の場合などは、それぞれ上記の計算方法により時間額に換算し、その合計額と最低賃金額(時間額)を比較します。

これらの計算方法を用いて、最低賃金が遵守されているかをしっかり確認することが重要です。適正な賃金計算が行われていない場合、違反として罰則が科されることがありますので注意が必要です。


<最低賃金の改定に伴い確認すべき事項>

最低賃金は毎年改定されますので、企業は以下の点を確認することが重要です。


(1)賃金額の確認

 改定後の最低賃金額を確認し、従業員の賃金がそれを下回っていないかをチェックしましょう。運送業などに多いのですが、時給を最低賃金にして固定残業代をつけているケースでは、時給の変更により固定残業代の計算をし直さなければならない場合があることに注意して下さい。

たとえば、時給1113円で1ヶ月あたり40時間分の固定残業代として4万5000円を支給しているケース(1113円×40時間=4万4520円<固定残業代4万5000円)では、最低賃金が1163円になったら、4万6520円(1163円×40時間)となるため、それ以上の固定残業代の支払いが必要になります。


(2)賃金体系の見直し

 賃金が最低賃金に抵触する場合、賃金体系の見直しや基本給の引き上げを検討する必要が あります。


(3)規則の更新

 就業規則や賃金規定に最低賃金の改定内容を反映させ、全従業員に周知することが求められます。


<まとめ>

最低賃金の適用と改定は、企業経営に直接的な影響を与えます。労働者の権利を守るとともに、企業として適切な対応を取ることが求められます。賃金改定のたびにこれらのポイントを確認し、対応策を講じていくことが重要です。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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