第42回
初任給横並びをやめたパナソニックHD子会社の狙い
一般社団法人パーソナル雇用普及協会 萩原 京二
<初任給横並びやめます>
パナソニックホールディングス(HD)はシステム開発を手掛ける主要子会社で、初任給の同額支給を見直すことを発表しました。2025年春以降に入社する新卒社員が対象で、学生時代に起業経験のある新卒者の給与を現行より月3万~6万円ほど上げる計画です。職務内容を明確に定めて給与にひも付けるジョブ型の人事制度を拡充し、優秀なエンジニアを確保する狙いです。
日本企業は長く、終身雇用を前提とした給与制度が一般的でしたが、最近ではジョブ型を導入する企業が増えてきました。それでも、入社前に能力を正確に把握することが難しいため、初任給は一律の企業が多いのが現状です。パナソニックHD傘下のパナソニックコネクトが実施するこの新制度は、業務内容や求められる能力・経験を示した職務記述書(ジョブディスクリプション)を内定者に提示し、職務や職責に見合う給与を支払うものです。人事担当者が本人と話し合った上で給与額を個別に設定し、入社後にスキルを身につけたい新卒者の初任給は現在と同等の水準にとどめます。
この制度は、IT系の国家資格取得や起業経験を評価し、インターンシップでの仕事ぶりなども判断材料とします。2026年春の本格導入以降は、新卒社員の1~2割程度が初任給の上乗せ対象となり、上乗せ幅は月収ベースで1~2割を見込んでいます。2025年春入社の新卒社員については限られた人数で上乗せを実施する計画です。新卒社員が入社前に加算金額を知ることができる利点を強調し、競争の激しいIT業界で優秀な人材の採用を目指します。成果が確認できれば、パナソニックHDの別の事業会社にも広げることを検討しています。
<パーソナル雇用制度との関連>
パナソニックコネクトが導入する新しい初任給制度は、私たちパーソナル雇用普及協会が提唱している「個人契約型の雇用制度」と非常に似ています。パーソナル雇用制度は、「個人契約型の賃金・人事制度」であり、個々の労働契約によって仕事内容や働き方、賃金などの処遇が決定される仕組みです。これにより、従来の一律な給与体系とは異なり、各従業員のスキルや経験、成果に応じて報酬が設定されます。
具体的には、パーソナル雇用制度では、プロ野球選手の年俸更改のように、会社と従業員が毎年労働契約の内容について交渉を行います。これにより、従業員一人ひとりが自分のライフスタイルやキャリアを自由にデザインできるようになり、その結果、モチベーションの向上や仕事への取り組みが活発化します。
さらに、パーソナル雇用制度は選択制で導入されていることも特徴です。従業員は、自分のキャリアプランに応じて、この制度を選択することができ、自分に最も適した働き方を選ぶことが可能となります。パナソニックコネクトが導入した制度は、まさにこの選択制を取り入れたものであり、従業員の多様なニーズに応える柔軟な雇用形態を実現しています。
<テクノロジーの活用による生産性向上>
こうした人事制度が導入できた背景には、テクノロジーの活用による労働時間削減と生産性向上があります。パナソニックコネクトは、生成AI(人工知能)を導入し、従業員の労働時間を1年間で計約19万時間削減することに成功しました。米マイクロソフトと組み、対話型AI「ChatGPT」を活用して従業員の質問に答えるAIアシスタントを開発し、業務負担を減らしています。
パナソニックコネクトは、2023年2月から国内の全従業員約1万2400人を対象に生成AIを展開し、1年間で従業員は約56万回利用しました。これにより、検索エンジンの代替や業界分析レポートの作成など多岐にわたる業務が効率化され、従業員一人当たり約20分の削減効果がありました。さらに、直近3カ月(2024年3~5月)の利用回数は前年同期比で41%増加しており、情報漏洩や著作権侵害などの問題も発生していません。
<結論(テクノロジーの進化と雇用制度の変革>
パナソニックコネクトが導入したパーソナル雇用制度と生成AIの活用は、新しい時代の働き方と人事制度の変革を示す好例です。テクノロジーの進化により、働き方や人事制度は今後も大きく変わっていくことが予想されます。企業はこの変革に対応することで、優秀な人材の確保と持続可能な成長を実現できるでしょう。
パーソナル雇用制度の普及は、企業にとっても従業員にとっても大きなメリットがあります。企業は従業員の特性やスキルを最大限に活かし、より効率的かつ効果的な業務運営が可能となります。従業員側も、自分のキャリアプランに応じた働き方を選択することで、働きがいや満足感が向上し、生産性の向上にも寄与します。
さらに、テクノロジーの進化は、こうした柔軟な人事制度の実現を後押ししています。生成AIやビッグデータの活用により、従業員の業務効率が飛躍的に向上し、企業はより少ないリソースで高い成果を上げることができます。これにより、企業はさらなる成長を遂げるとともに、従業員の働きやすさを向上させることが可能となります。
今後も、テクノロジーとパーソナル雇用制度の融合が進むことで、働き方や人事制度は大きく変わっていくでしょう。この変革は、企業と従業員の双方にとって持続可能な未来を創り出す鍵となります。企業はこの流れに対応し、革新的な人事戦略を導入することで、競争力を維持し続けることが求められます。
プロフィール
一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二
1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。
Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会
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