第44回
本当は怖い労働基準監督署の調査 その2
一般社団法人パーソナル雇用普及協会 萩原 京二
前号に引き続き、労働基準監督署の調査についてさらに詳しく見ていきましょう。
<労働基準監督官とは>
労働基準監督官は国家公務員であり、労働基準監督官の採用試験に合格した者が任用されます。労働基準法第11条1項には、労働基準監督官の権限として「事業所、寄宿舎その他の付属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、または使用者もしくは労働者に対して尋問を行うことができる」と規定されています。この権限により、労働基準監督官は強制的に会社や工場の内部に立ち入り、労働基準法等の労働法に違反していないかどうかを調査することができます。
<労働基準監督官の権限>
労働基準監督官の権限は、「労働基準監督官」としての権限と「特別司法警察職員」としての権限の二つに分かれます。
◆労働基準監督官としての権限
・臨検(訪問)
会社や工場、寄宿舎などに立ち入り、内部の状況を確認する。
・帳簿・書類の提出要求
労働条件に関する帳簿や書類、資料の提出を求める。
・尋問
労働者や使用者に対して労働条件等について質問を行う。
◆特別司法警察職員としての権限
・強制捜査
必要に応じて強制的な捜査を行い、違反の有無を確認する。
・事情聴取
関係者から詳しい事情を聴取する。
・証拠物品の押収
必要な証拠を押収し、違反の証拠を確保する。
特別司法警察職員としての労働基準監督官は、警察官(一般司法警察職員)よりも専門分野の犯罪に詳しく、海上保安官や麻薬取締官と同様に犯罪を捜査し、被疑者を検挙する権限を持っています。税務署の税務調査官には警察的な権限や強制調査権はありませんが、労働基準監督官にはこれらの強い権限が与えられています。
<労働基準監督署の調査の種類>
労働基準監督署の調査(臨検監督)は、労働基準法に基づく行政上の権限で行われ、以下の4種類に分類されます。
1. 定期監督
定期監督は最も一般的な調査であり、労基署が任意に事業所を選び、事前に調査の日程を連絡して行います。通常の労働条件や安全衛生の状況をチェックするために行われます。
2. 申告監督
申告監督は、従業員や退職者からの通報に基づいて行われる調査です。例えば、残業代の未払い、不当解雇などについての通報があった場合に実施されます。この場合、労基署は申告者を保護するため、形式上は定期監督として調査を行うことが多いです。企業は、定期監督と思っていた調査が実は申告監督である場合もあり得ます。
3. 災害時監督
災害時監督は、労働災害が発生した場合にその実態を確認するために行われる調査です。労基署は災害原因の究明や再発防止のための指導を行います。
4. 再監督
再監督は、過去に是正勧告を受けたが対応が不十分な場合に行われる調査です。特に悪質な対応が見られる場合には、再監督がより厳しい調査となることがあります。
<労働基準監督官の訪問と対応方法>
労働基準監督官が調査に来る際のパターンは以下の通りです。
・突然の訪問
・事前の書面による通知
・電話連絡による予告
・突然の訪問への対応
突然の訪問に対応するのは難しい場合もありますが、まずは落ち着いて調査の趣旨を確認しましょう。対応できない場合は再度の連絡をお願いすることも可能です。ただし、監督官には誠意を持ってお願いし、日程の調整をすることが重要です。
<事前通知や電話連絡への対応>
事前に「ご用意いただきたい書類」のリストが送られてくることが多いため、提示された日にこれらの書類を揃えられない場合は、必要書類を確実に揃えられる日程を選び、監督官宛てに再度連絡を取りましょう。特に問題がなければ、日程の調整は可能です。
◆調査に必要な書類
労働基準監督署の調査では、以下の書類が求められることが一般的です。
・会社組織図
・労働者名簿
・賃金台帳
・勤務時間の記録(タイムカード等)
・時間外・休日労働に関する協定届(36協定)
・就業規則
・変形労働時間制等に関する労使協定
・有給休暇管理簿
・労働条件通知書
・安全管理者・衛生管理者等の選任状況に関する資料
・産業医の選任状況に関する資料
・健康診断の実施結果
これらの書類を適切に用意し、調査に備えることが重要です。
<まとめ>
労働基準監督署の調査は、企業経営にとって避けては通れない重要な問題です。労働関係の法律を遵守し、適切な対応を心掛けることで、企業の信頼を守ることができます。労働基準監督官の権限や調査の種類を理解し、日頃から準備を怠らないようにしましょう。これにより、突然の調査にも冷静に対応し、労働環境の改善と企業の健全な運営を維持することができるのです。
プロフィール
一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二
1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。
Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会
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