微分・積分・思う存分

第11回

宇宙時代のスケールで世界観を 企業価値基準を見つめ直せ ~ニューズドテックの挑戦

イノベーションズアイ編集局  編集局長 松岡健夫

 

2026年4月、NASA(アメリカ航空宇宙局)が主導する国際的な有人月面探査プロジェクト「アルテミス計画」により打ち上げられた宇宙船が月周回に成功した。1972年12月のアポロ17号以来、53年ぶりの快挙だ。しかも人類にとって最も遠い地点に到達した。地球から飛び出し、月面滞在、そして火星移住へと続くロマンが動き出した。日本も6月、次世代の大型基幹ロケット「H3」の打ち上げに成功、技術力の高さを証明した。アルテミス計画の一翼を担えることを世界にアピールすることもできた。まさに宇宙時代の到来だ。

ソニー創業者の井深大、ホンダを立ち上げた本田宗一郎・・・

日本経済は戦後の焼け野原から奇跡の復興を遂げた。何もないゼロから独自のアイデアとハングリー精神でモノづくりを立て直した立役者たちはきっと、夜空に輝く星を見上げながら未来に思いをはせ、「自分がなすべきこと」を見つけたに違いない。

夜空を見つめながら創業を誓った経営者は今も、少なくないだろう。広大な宇宙には明日を生きるための決意を抱かせ、希望を見いだす力があるからだ。

宇宙少年の挑戦者魂に火がつく

再生スマートフォン事業を手掛けるニューズドテックを設立した粟津浜一社長もその一人だ。子供のころから宇宙に興味をもち、筑波大学大学院で航空宇宙工学を学んだ。

アポロからアルテミスに受け継がれた宇宙フロンティアは、宇宙少年・粟津氏の挑戦者魂に火をつけた。吉報を聞いて「10年後には月に住む時代が来る。人類も進化する必要がある」と話した。そのうえで「我々も『自分たちの会社は何のために存在し、大事な価値基準は何なのか』を見つめ直す必要がある。宇宙時代のスケールを持った世界観にミッション、ビジョンを書き換える」と明言した。

ミッション、ビジョンはメンバー全員がワクワクし奮い立つものでなければ意味がない。同じ宇宙船に乗り込むのだから意思統一はもちろん、メンバー個々のモチベーションやエンゲージメントを高めるのに役立つはずだ(写真)。

では、どこに向かうのか。粟津氏は映画「アポロ13号」を思い出した。有人月面着陸を目指したが、月へ向かう途中に大事故に見舞われ、ミッションの中止を余儀なくされた。絶体絶命の危機的状況に追い込まれたが、壊れなかった機器・機能を使って無事に地球に生還した。宇宙空間なので機器の補充はきかず、寿命(資源)が尽きたら一巻の終わりだったはずだ。

「大量」から「最適」に変える役割担う

「資源は無限ではない」。こう悟った粟津氏は「20世紀の大量生産・大量消費・大量廃棄で、地球の資源も環境も限界を超えつつある。このままでは地球の資源は尽きる」と憂える。これを踏まえて「最適生産・最適利用・長期使用で、モノを再生し使い切る社会を実現する。循環を社会の当たり前にする」と言い切った。

必要なだけ作り、最適に使い、最後まで使い切る。使い切って劣化しても、壊れても再生して社会に循環させる。これによりモノの価値は何度でも蘇る。

そのために必要なツールを持っている。モノの本当の状態を可視化できる健康アプリで稼働時間、使用環境、劣化状況を把握し「まだ使えるか」を知らせる。使った分だけ払う使用時間課金で無駄な利用をなくす。中古品を回収し独自技術で再生し販売する技術も確立した。「3つすべて揃っているのはニューズドテックだけ」と自負する。これによりモノが無駄なく最後まで使われる社会が実現できるからだ。

目指すのは、どれだけ売ったかという「量の経済」から、どれだけ長く使ったかという「時間の経済」への移行だ。そのために「我々はモノを売る会社ではなく、使われ方を設計する会社に変わる。この価値基準を世界に広める」と目を輝かせる。先頭に立って「大量」を「最適」に変える大役を担う覚悟を感じる。

経営者は志を伝え、持続的成長を

イノベーションを起こす組織は明確なミッション、ビジョンを共有し、ぶれることなく追求するものだ。しかし「言わなくても分かる」と思い込んでいる経営者はいまだに多いのではないか。自分たちの会社をどうしたいのか、経営者としての志は何かを従業員や株主といったステークホルダーに対しはっきりと伝えるべきだ。

とはいえ、ミッション、ビジョンを掲げるだけでは、経営者の意思が従業員一人一人に伝わるわけもないし、意思統一が図れるわけでもない。言い換えると、どこに向かうかを明確にすることで一体感が生まれ、従業員のモチベーションもエンゲージメントも向上する。さらに消費者の共感を得られれば購買につながる。こうなると収益力はおのずと高まり、成長を続けられる強い企業になれる。

そのためにも、自社の存在意義や果たしたい世界観を発信することだ。経営者は宇宙時代を見据え、「イノベーションで世界を変える」という存在意義を全うするため、静かに夜空を見つめてはどうだろうか。きっと的確なヒントが見つかるはずだ。

 

プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集局長
松岡 健夫

大分県中津市出身。1982年早稲田大学卒。

同年日本工業新聞社(フジサンケイビジネスアイ、現産経新聞社)入社。自動車や電機、機械といった製造業から金融(銀行、保険、証券)、財務省や国土交通省など官公庁まで幅広く担当。デスク、部長などを経て2011年から産経新聞経済部編集委員として主に中小・ベンチャー企業を幅広く取材。次代の日本経済を担える企業の紹介に注力する。

著書は「ソニー新世紀戦略」(日本実業出版社)、「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)など多数。

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