微分・積分・思う存分

第10回

他人事ではない介護人材不足 SOMPOケアが事業者の経営持続性を支援

イノベーションズアイ編集局  編集局長 松岡健夫

 

2025年に倒産した介護事業者(老人福祉・介護事業)は176件と過去最多を更新した。要因は「売上不振」が約8割を占めた。人材不足と物価高、24年度の介護報酬のマイナス改定という三重苦に見舞われ、特に資金力に乏しい小規模事業者の破綻が目立った。淘汰の時代に入ったともいわれる。

介護経営の難易度は高まるばかりだが、中でも深刻なのは慢性的な人材不足だ。少子高齢化が進み、支える人と支えられる人の需給バランスが大きく崩れ、介護人材は26年度に25万人不足し、40年度には57万人に膨れ上がるという。解消するには介護を目指す人材の確保と定着が欠かせない。

介護の現場を訪れると、職員が要介護者(利用者)に献身的に寄り添う姿を散見する。「介護の矜持」に支えられていることが分かる。こうした職員の思いとは裏腹に、人材不足で忙しさに追われるため、利用者とゆっくり会話する時間はないし、専門性を高めて成長したくても学ぶ環境もない。業務効率化にも取り組みたいが、忙しくて無理という。それでいて賃金は他業種より低い。これでは人材が集まるわけがない。

介護事業者として培ったノウハウ生かす

もはや人材不足を前提とした事業運営が欠かせない。こうした中、SOMPOホールディングス傘下のSOMPOケアは、大手介護事業者として培ったノウハウを生かしたソリューションビジネスの強化に力を注ぐ。介護事業者の経営持続性を高めるのが狙いで、業務改善コンサルティング、食事の質・効率改善に加え、2月から介護人材の育成プログラムの提供を始めた。

開発した人材育成プログラム「スキル ドライブ」は、企業内大学であるSOMPOユニバーシティで磨いてきた実践的な育成ノウハウをソリューションとして提供する。多くの事業者は人材育成の重要性を認識するものの、「研修のための時間や人員を確保できない」といった悩みを抱える。こうした「やりたくてもできない」に応えるプログラムという。

知識と実践力養うプログラム

介護現場をリアルに再現した施設で研修を受けるSOMPOケアの新人職員

職員個々の成長を可視化するスキルノートに加え、動画研修(eラーニング)とオンラインライブ研修、さらに現場を再現した専用施設でのリアルな実技研修の3段階で構成。知識のみならず実践力も確実に習得できるため、介護への“自信”と“やりがい”が高まり、長く活躍できるようになるという。動画は約400本を用意、今後は外国人向けや介護福祉士など資格取得にも対応する。

価格は1事業所当たり年間13万8000円(税抜き)。初年度で200~300事業所への導入を目指す。吉岡清美執行役員CHROは「人材不足の中、介護の仕事を辞める、または(介護の仕事に)チャレンジしないという現状を変えたい」と話した。同社はプログラム導入により職員の成長意欲が高まり、離職率は半減。エンゲージメントも向上したという。

業務改善コンサルでは、現場が抱える課題である「ルールの形骸化・属人化」「見えないブラックボックス化・現場任せ」を業務オペレーションの「標準化」と「可視化」で再構築し、ムリ・ムダ・ムラを排除する。

これにより利用者が求める「カスタムメイドケア」を確立するだけでなく、人員配置を最適化。時間的・精神的余裕を創り出すことで、利用者に寄り添うという「やりたい介護」を実現し、介護サービスの品質向上と生産性向上を両立することが可能になる。収益の改善にもつながり経営持続性が高まる。

介護食の課題である「味・手間・コスト」にも応える。あらかじめ食品工場で加熱調理された食品を冷凍パックやチルドパックにした完全調理済み食品「デリパック」を提供する。介護事業所の厨房ではパックごと温めて食器に盛り付けるだけで済む。包丁を使うことはなく、味付けも不要だ。

管理栄養士が栄養バランスの取れた献立を作成するほか、メニューも豊富で「おいしく食べて元気を生む」を実現できる。実際にデリパックを導入したことで「喫食量が増えた」と回答した事業所は88%に達した。

介護の矜持で利用者に寄り添う

SOMPOケアがソリューションビジネスを展開するうえでの強みといえば介護現場を持つことだ。そこで得たノウハウを義業務改善コンサルに生かせるし、食の悩みにも応えられる。最大の課題となる人材の育成・定着にも寄与できる。唯一無二の立ち位置を生かして日本の介護業界を伴走支援する。数年以内に売り上げ100億円を視野に入れる。

こうした取り組みが慢性的な介護人材不足の解消に寄与するのは間違いない。介護人材なくして日本はもはや成り立たないのは明らかで、そのためには「介護の矜持」を持って利用者に寄り添える職場環境を整備し、処遇改善に取り組まなければならない。エッセンシャルワーカーとしての社会的評価が確立できれば、誇りを持って働くことができ、新規参入者を呼び込むと同時に、離職者防止につながるはずだ。

 

プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集局長
松岡 健夫

大分県中津市出身。1982年早稲田大学卒。

同年日本工業新聞社(フジサンケイビジネスアイ、現産経新聞社)入社。自動車や電機、機械といった製造業から金融(銀行、保険、証券)、財務省や国土交通省など官公庁まで幅広く担当。デスク、部長などを経て2011年から産経新聞経済部編集委員として主に中小・ベンチャー企業を幅広く取材。次代の日本経済を担える企業の紹介に注力する。

著書は「ソニー新世紀戦略」(日本実業出版社)、「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)など多数。

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