第30回
すべての経営者に問いたい。“永守経営”は本当に悪なのか ~28歳で創業、世界的メーカー育てた革新性・斬新性を安易に否定するな~
イノベーションズアイ編集局 編集アドバイザー 鶴田 東洋彦

朝 5時50分に起床、休日は正月のみ
まだ会社名が日本電産の時代、当時社長だった永守重信氏の講演を聞いたことがある。産経新聞の経済本部長の頃だろうか。当時の職業訓練大学校を出て1973年に28歳で創業、98年には東証一部に上場して精密小型モーターから超大型までを網羅する売上高2兆円超、従業員14万人を超す「世界最大の総合モーターメーカー」を育て上げたカリスマ経営者。その発言の一言一言は、今でも強烈に記憶している。
「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」「危機ほど楽しい、困難を克服しろと自らに問われているのだ」「泣かない、逃げない」。“永守語録”を挙げていったらきりがない。朝は5時50分に起床して7時前に出社、仕事は絶対に翌日に後回ししない、休日は元旦だけという仕事に賭ける熱意に、驚くという以上に呆れた。
国内外で積極的なM&A戦略を展開し、2001年にはニューヨーク証券取引所(NYSE)にも上場。世界40か国以上で約70社をグループ化したその情熱で、2006年には米国最大の投資週刊誌バロンズで「世界のベストCEO30人」の一人に日本人で唯一選ばれている。
世界のベストCEO30人の一人に。全国の社長が選ぶ社長のトップにも
日本でも2014年に日経ビジネスが同誌としては初めて「社長が選ぶ社長」というユニークなアンケートを実施してランキングを発表、そのトップに数ある伝統企業の社長や財界人を抑えて永守氏が選ばれたことが、当時、赴任していた九州の経済界でも話題となったことをよく覚えている。
その時代を先取りするようなM&A経営で事業を拡大した永守氏がグループの代表権も取締役も全て返上して、名誉会長と言うポストに退き、突如、引退したのは昨年末、12月19日の事だ。「財務に瑕疵(かし)があるらしい」という噂はあったが、理由が明確になったのは今月に入ってからである。
社名は2023年から「ニデック」に改称しているが、そのニデックがリスクのある資産の評価減の時期を“恣意的に調整した”など不適切会計の疑惑が指摘され、東証に改善計画を発表したことで一気に表面化したのだ。
突然の引退、株価至上主義で不適切会計の疑惑
その不適切背景にあったのは、永守氏の株価至上主義であり、短期的な利益を最優先して目標未達を許容しない企業風土にあったと、ニデックの現経営陣は説明している。つまり「過度な株価至上主義」「脆弱なガバナンス体制」「業績面のみを重視した人事評価制度」だったというのだ。1月28日の会見では「組織として出来ることは能動的に取り組んで企業体質を変えていく」と発言している。
だが、正直思うのは、革新と成長をけん引してきた“永守経営”をこのタイミングで封印していいのかという率直な疑問である。確かに後任社長に就任した日商岩井(現・双日)出身の吉本浩之氏、日産自動車副社長(COO)の関潤氏を業績未達という理由で相次ぎ2年足らずで辞任に追い込んだ過度な利益重視の姿勢は行き過ぎの面も多々あったと思う。
例えば毎朝5時50分に起きて即座に出社というのも、いわゆる「働き方改革」とは完全に逆な姿勢だろう。今でいうパワハラ的な側面もあったかもしれない。また強引とも言える企業買収に対して周囲に批判の声も大きかったのは事実である。
だが、永守流経営を礼賛し、日本が生んだ新しい経営とはやし立てたのは、辞任した関氏などをのぞけば当時の経営陣、幹部社員であり、彼らもまた「過度な株価至上主義」の背中を永守氏とともに押し続けてきたのではないか。「カリスマ経営者」「経営の革命児」と、永守氏の株価至上主義を評価してきたメディアも批判は免れないだろう。。
今回のニデックの経営改善計画は、東証の特別指定銘柄の指定を受けて提出したものだが、永守氏はまだ8%超の株を保有する大株主である。改善計画をまとめるニデックの現経営陣も、永守氏が大株主の立場にいる以上、内部統制などから全て永守氏の関与を否定するのは難しいだろう。
異能の経営、葬り去っていいのか
確かに資産の評価減を恣意的に調整して株価の下落を防いできた不適切な会計は、ステークホルダーに対する裏切りであり、特に公(おおやけ)の場にある上場企業にとってはあってはならない事態ではある。だが、ニデックの躓きをほくそ笑んでみている経営者たちに言いたい。強引なM&Aなどへの恨みもあるのだろうが、少なくとも企業業績を革新的な推進力で押し上げた功績は誰もが否定できないのではないか。
永守氏について「異能の経営者」とみる向きはまだ多い。だがその異能ぶりを完全に葬り去ってしまうような風土では、もはや日本産業の成長は望めないだろう。日本企業の最大の欠点は、企業と経営者が常に“及第点”を意識することだ。集団としての秩序を守りつつ、ボードメンバーも経営者に対する隷属的な対応で出世という果実を得る。極端に言えば、突飛な状況を避けるその優等生的な経営が米国や韓国、インドなどの後塵を拝してしまったのではないか。
かつて日本の得意芸だった鉄鋼、造船という重厚長大分野は韓国、中国、インドの後塵を拝し、半導体の世界では極端な言い方をすれば台湾のTSMC(積体電路製造)の下請けとなってしまった。人型ロボット先進国の立場も、米エヌビディアの人工知能(AI)向け画像処理装置(GPU)の開発でアッと言うも間に先頭集団から取り残されている。
粉飾的な会計行為は罪である。だが、永守経営に内在していた発想の大胆、斬新さを許容し促す企業風土そして経営者たちが日本以外で多く誕生し、TSMCやエヌビディアを生み、日本産業を凌駕しようとしているのだ。日本人の勤勉性、労働生産力や会社へのロイヤリティなどは、もはや世界基準から遠く離れたものになっているのだ。
それを証明する数字もある。スイスのIMD(国際経営開発研究所)が毎年発表している世界各国の国際競争力の順位だ。1992年まで首位を独走していた順位はその後、継続的に下落し2025年版では35位にまで落ち込んでいる。この調査にはいくつかの部門があるが、企業経営者の能力が如実に現れる「ビジネス効率性」の部門だけで見ると、調査対象国61か国の中で日本は51位と悲惨な現実にある。
日本の企業風土改善のガイドラインにも
現在、衆院選の選挙戦の真っ最中だが、自民党は公約で人工知能(AI)や造船など戦略分野を決めて官民一体で強化する、いわゆるリーディングポリシー(重点戦略)を掲げている。その政策の徹底によって海外勢に引き離されている分野でも日本企業との差を縮めていこうというのだ。確かに主旨はよく分かる。大賛成である。
であるなら、今後なお必要なのは依然として変わっていない”及第点“を意識した日本企業の風土を大胆に変えていくべきではないか。大企業、中小企業といった規模の大小にかかわらず、経営者に求められるのはそこしかない。もちろん、ニデックの行為は許されるものではないが、目指すべきは、必要なのは”脱・永守経営“ではなく、永守経営の中に内在していた異能・異端とも言えるような「斬新性」「革新性」ではないのか。世界の経営者30傑の一人にも選ばれた「永守経営」を今、全否定することだけがすべてではあるまい。
プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集アドバイザー
鶴田 東洋彦
山梨県甲府市出身。1979年3月立教大学卒業。
産経新聞社編集局経済本部長、編集長、取締役西部代表、常務取締役を歴任。サンケイ総合印刷社長、日本工業新聞(フジサンケイビジネスアイ)社長、産経新聞社コンプライアンス・アドバイザーを経て2024年7月よりイノベーションズアイ編集局編集アドバイザー。立教大学、國學院大學などで「メディア論」「企業の危機管理論」などを講義、講演。現在は主に企業を対象に講演活動を行う。ウイーン国際音楽文化協会理事、山梨県観光大使などを務める。趣味はフライ・フィッシング、音楽鑑賞など。
著書は「天然ガス新時代~基幹エネルギーへ浮上~」(にっかん書房)「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)「記者会見の方法」(FCG総合研究所)など多数。
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