第29回
政府の“地域金融強化プラン”で試される地銀・信金の真価 ~22年ぶりの包括的政策、地方再生の牽引車になり得るのか~
イノベーションズアイ編集局 編集アドバイザー 鶴田 東洋彦

“金利のある世界”で問われる地域金融機関の在り方
毎年、松の内が明けるこの時期になると脳裏に浮かぶのは1996年から始まった金融不安のことだ。個人向け住宅ローンを専門に扱うために金融機関が設立した住宅金融専門会社(住専)が過剰な不動産融資を抱えて相次いで破綻、連鎖して銀行や証券会社などがドミノ的に崩壊した時代である。金融や財界担当の記者として年末年始も忘れ、銀行や証券会社が崩壊していくのを這いずり回るように取材した記憶は今でも消えない。
それからほぼ30年が経過、再び経済社会には「金利のある世界」が戻った。だが加速する人口減少や高齢化の波が否応なく金融機関にのしかかっている。デジタル化の加速で金融市場の変化の著しい中で、とりわけ厳しい立場に置かれるのは、いわゆるメガバンクと比較して事業領域も限られ、資本力にも限界がある地方銀行、信用金庫といった「地域金融」であろう。
すでに自治体を越えての広域合併や提携なども加速、抜本的な収益構造の改革や地域課題の解決施策の増強が待ったなしの状況である。一方で、政府の掲げる地方再生の牽引役としての役割も求められている。そうした状況の中で金融庁が昨年末に打ち出した「地域金融強化プラン」の先行きに注目している。
地銀や信金、信組のリスクテイクを確保
振り返れば、地域金融機関向けに包括的政策が打ち出されたのは、2003年以来となる。前述した住専破綻に伴う金融危機の後遺症を地銀や信金が引きずり、地域金融の機能が損なわれた時以来、実に22年ぶりのことだ。地銀や信金が十分なリスクテイクを確保できるように、合併や統合などに資金供与する申請期限を延長出来ることや、上限額を50億円まで拡大するなど内容も濃い。
さらに注目すべきなのは地銀や信金など地域金融機関が抱える有価証券の評価損拡大に対するモニタリング制度の実施と公的資金の活用が可能となった事だ。金融機関自らが合併や経営統合に踏み切らなくても公的資金を受けられる点について「金融規律が曖昧になる」との批判もあるようだが今後の“地方創生への貢献”を考慮すれば、その指摘は当たらないのではないか。むしろ高市早苗政権が打ち出した地域金融強化の具体策として、迅速に打ち出されたと実感している。
西武信金の髙橋理事長「現場感覚に委ねた目標を」

ただ、これを受け止める地域金融機関の責任も重大である。地方創生を促し、地域経済の灯を消さないための“地域金融力”が試されることになるからだ。そうした状況下で西武信用金庫の髙橋一朗理事長による12日付日本経済新聞での発言が興味深い。「中小企業の融資に注力する一方で、事業計画に一切の数値目標を設けずに現場裁量に任せる」と言うのだ。担当者が現場感覚で自分自身の目標を課していくというのである。金融機関の常識を覆す「規模を追わない」経営である。
もう20年近く前だろうか。金融庁の長官を退官したばかりの五味廣文氏と懇談した際に「やみくもな金融機関のアセット(資産)拡大に手を貸した責任はメディアにもある。預金獲得競争の背中を押すべきではない。預貸率にも配慮し、自らの裁量で動いてる現場担当者の動きにも目を配るべきだ」と諭されたことがある。その言葉に、この髙橋理事長の発言が重なった。
確かに振り返ると、この「失われた30年」と言われる時代を作ってしまった要因はメディアの側にもある。当時の大蔵省(現・財務省)が高騰する土地価格を抑制するために「土地関連融資の抑制について」いわゆる“総量規制”を通達、日銀が金融引き締めに動いた1990年3月の時点でも、護送船団方式による金融機関の指導に対して真正面から批判することもなく、金融機関の預金獲得競争を煽り住専の崩壊に繋がっていった。
1996年の相次ぐ住専の破綻に連鎖して翌年には三洋証券、北海道拓殖銀行、そして山一證券と破綻が相次ぎ、さらに98年には日本の長期金融の担い手でもあった日本長期信用銀行(長銀)、日本債券信用銀行(日債銀)の崩壊で、金融システムそのものが大きく揺らいだ。その後も地域金融機関の破綻や再編が相次ぎ、大手都市銀行も三菱UFJ、三井住友、みずほの3つのメガバンクに集約したのは周知のとおりである。
預貸ビジネス、フィンテック企業も巻き込み激化
では「金利がある時代」に戻った昨今の金融機関の姿勢はどうだろうか。日銀の段階的な利上げに伴って、金融機関にとって預金は「コスト」から「収益源」に戻った。中核の預貸ビジネスも改善、コアの業務純益は順調に改善している。余資運用(銀行による資産運用)の収益環境も、国債利回りの上昇などで改善している。外部環境は好転している。
ただ「金利のある世界」に戻った途端の預貸ビジネスの動きは激化している。貸出の積極化は当然として、預金の獲得を狙った金利競争などの激化ぶりは正直、想像の範囲を超えている。デジタル技術の発展や普及によってネットバンクや金融とテクノロジーを融合させたフィンテック企業の急成長がその背景にあるのだろう。
さらにはネットバンクなどが提供するプラットフォームを活用して、一定のブランド力のある企業が自らの事業やサービスに金融を組み込む事例が増えるなど、金融の「担い手」が多様化していることも大きい。こうした預貸ビジネスの熱狂ぶりは、極端な言い方かもしれないが、かつての住専をも巻き込んだ金融機関の狂乱的な不動産融資競争にも重なって映る。
投資機能の研鑽も急務に
こうした時代だけに、地域金融機関の果たすべき役割は重要と思う。少なくとも「地域金融強化プラン」に沿って公的資金の投入を受けることも可能という点を考慮すれば、地域金融の灯を消さないための地域金融の“公的な担い手”の役割も果たしていかねばならないからだ。
地域の中堅・中小企業の事業性評価、融資時の審査力を研鑽することは当然として、投資機能も拡充する必要があると思う。M&Aを通じての事業転換の仲介、幅広い分野の企業に対するDX(デジタルトランスフォーメーション)の支援など果たすべき役割も多々ある。
経済社会に金利が戻り、高市政権の積極財政によって平均株価が史上初の高値水準を付けて始まった2026年。「地域金融は人口が減少し少子高齢化が進む中で地域経済と共に生き残らねばならない。高市政権とは一心同体だ」というこの片山さつき財務大臣の発言をどこまで真摯に受け止めていくか。
「変化に対応するには、これまで当たり前だったことにも“違う”と言える組織にするしかない」と髙橋理事長は言う。組織風土を変え“地域金融力”をどこまで高めていくのか、地銀や信金、信組という地域金融機関にとっては、言い古された表現かもしれないが、これからが「勝負の時」ではないかと考えている。
プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集アドバイザー
鶴田 東洋彦
山梨県甲府市出身。1979年3月立教大学卒業。
産経新聞社編集局経済本部長、編集長、取締役西部代表、常務取締役を歴任。サンケイ総合印刷社長、日本工業新聞(フジサンケイビジネスアイ)社長、産経新聞社コンプライアンス・アドバイザーを経て2024年7月よりイノベーションズアイ編集局編集アドバイザー。立教大学、國學院大學などで「メディア論」「企業の危機管理論」などを講義、講演。現在は主に企業を対象に講演活動を行う。ウイーン国際音楽文化協会理事、山梨県観光大使などを務める。趣味はフライ・フィッシング、音楽鑑賞など。
著書は「天然ガス新時代~基幹エネルギーへ浮上~」(にっかん書房)「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)「記者会見の方法」(FCG総合研究所)など多数。
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