企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第37回
二拠点生活(デュアルライフ)とテレワーク──移住・関係人口の新しい形
株式会社aubeBiz 酒井 晶子
~都市と地域の「往復」が、組織と人のウェルビーイングを底上げする~
平日は都会のスピード感の中で刺激を受けながら働き、週末はお気に入りの本や趣味の道具を車に積んで、地方にある「第2の家」へと向かう。
大きなイベントや対面での打ち合わせが落ち着いた時期を見計らって、数週間ほど拠点を移す。
窓から緑が見える静かな環境で集中して資料をまとめ、夕方には地元の直売所で買った野菜で夕食を作り、地元の人と語らう。
こうした「二拠点生活」や「多拠点居住」という言葉を、あちこちで耳にするようになりました。
かつての「移住」といえば、今の仕事や人間関係をすべて手放して飛び込むような、人生をかけた大きな決断だったかもしれません。
でも今は、もっと軽やかに、自分らしく「好きな場所」を複数持って、自由に行き来する暮らしを選ぶ人も増えています。
「そんなのは一部の自由な人だけで、普通の会社員には無理」
「そんな勝手な働き方を許したら、チームがバラバラになってしまう」
とくに経営者やリーダーの方の中にはそう感じる人もいるかもしれません。
しかし、弊社aubeBizが10年以上にわたり、全国に散らばるメンバーとフルリモートで組織を運営してきた経験からみると、この「複数拠点で暮らす・働く」という選択には、実は社員の心に「余白」を生み、結果として仕事の質をグッと高めてくれる効果があると感じています。
「仕事以外の自分」を取り戻すと、仕事への集中力が増す
ひとつの場所に縛られず、複数のコミュニティに身を置くことは、日常の中に意図的に「余白」を作り出し、心身をリセットし、新しいアイデアや共創を生むための貴重なプロセスだと考えています。
都会での仕事は刺激的ですが、気づかぬうちに神経をすり減らしているものです。
そんな時、全く違う時間の流れる「第2のふるさと」へ身を置き、呼吸を整える。
仕事の肩書きを脱ぎ捨てて、一人の隣人として地域の人と接したり、自然に触れたりする時間は、驚くほど心をリフレッシュさせてくれます。
実際に二拠点生活をしているメンバーからは、「地域では、より人間的で、自分らしくなれる」という声をよく聞きます。
役職やキャリアではなく、一人の隣人として雪かきを手伝い、祭りに参加し、土地の旬を味わう。
そうして「仕事以外の自分」が満たされることで、いつの間にか溜め込んでいた疲れや不安が消えたり、仕事に向かった瞬間の集中力が研ぎ澄まされる、という人もいます。
今、社会で注目され弊社でも大切にしている「ウェルビーイング」とは、「身体的、精神的、そして社会的に『満たされた良好な状態』が持続すること」です。
複数拠点で暮らすこと、それ自体はたんに一つの手段ですが、何より「自分にとって心地よい環境を自ら選択できる」という安心感が、仕事への意欲や創造性に繋がり、心身ともに満たされながら生活するための大事な要素ではないでしょうか。
一極集中から「循環」の時代へ
一歩引いて日本の現状を見てみると、地方の過疎化と東京への一極集中という大きな課題があります。
国も「関係人口(移住はしなくても、継続的に地域と関わる人々)」の創出に本腰を入れていますが、これまでの地方創生は、ともすれば自治体同士の「人の奪い合い」になりがちでした。
しかし、二拠点生活者が増えることは、単に人がどこかへ去るのではなく、地域の間を「人が巡り続ける状態」を生み出すことを意味します。
人の移動と共に、経済だけではなく、新しい風や多様な価値観も循環していきます。
私たちaubeBizが関わってきた各地域のプロジェクトでも、外から来た人が持ち込む「驚き」が、地元の方々にとっての「当たり前」を「かけがえのない宝物」へと変え、地域全体に活気をもたらすシーンを何度も見てきました。
地域に溶け込む二拠点生活者は、都市と地方をつなぎ、新しい価値を引き出し合う「循環の装置」のような存在になると確信しています。
組織のあり方:二拠点生活を「選べる」体制をどう作るか
「そんな勝手な働き方を許したら、チームがバラバラになってしまう」
こうした不安を感じる経営者やリーダーの方も多いはずです。
そこで、私たちaubeBizが100名以上の組織を運営する中で辿り着いた、具体的な体制づくりについてお話しします。
試行錯誤の末に見えてきたのは、管理を強めることではなく、管理が必要ない「土台」を設計することでした。
具体的には、次の3つのポイントを大切にしています。
「この人しかできない」をなくす
誰がどこにいても、あるいは誰かが急に休んでも、業務が止まらないように「共有」、「マニュアル化」を徹底し、チーム制で動きます。
これは代表である私自身を含めた中核人材も同様で、今取り組んでいることやスケジュールを権限ごとに関与者に共有し、必ず誰かがフォロー出来る体制にしています。
監視ではなく「見える化」で信頼を築く
時間を縛るのではなく、何を目指し、今どの段階にいるのかをチャットツール等で共有し合います。
状況を自分から発信する「安心提供力」をメンバー全員が磨くことで、物理的な距離は心理的なつながりを邪魔しなくなります。
「選べる」ことが、採用力になる
今の時代、優秀な人ほど「自分のライフスタイルを犠牲にしない働き方」を求めています。
テレワークや二拠点生活のような選択肢を認める柔軟な姿勢は、それ自体が強力なブランドとなり、離職率を驚異的に下げる要因になります。事実、私たちの組織では離職率5%未満を維持し続けています。
組織が「個人の幸せ」を応援する時代へ
働くことを諦めないだけでなく、「ウェルビーイング」を組織が応援する。
そんな組織こそが、これからの変化の激しい時代に、多様な価値観を糧にしてしなやかに成長していけるのではないかと考えています。
私たちが目指すのは、「誰もが好きな場所で、自分らしく貢献できる」社会です。
テレワークはその実現のための手段の一つであり、私たちはその可能性を最大限に引き出すためのインフラとなることを目指しています。
移住、多拠点生活、ワーケーションといった働き方が、一部の特別な人たちだけのものではなく、日本の各地で当たり前の選択肢となる未来を、私たちは仕組みの力で実現していきます。
次回は企業×地域×学校──共創型キャリア教育モデル
「働くこと」のイメージは、いつ、どのように作られるのでしょうか。
企業が地域や学校と手を取り合い、テレワークを通じて地元の若者たちに「未来の選択肢」を届ける、新しいキャリア教育の形についてお話しします。
プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
- 第37回 二拠点生活(デュアルライフ)とテレワーク──移住・関係人口の新しい形
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- 第23回 地方と企業をつなぐ“BPOモデル”の進化 ──自走型チームが地域経済を動かす 〜“任せる”から“共に創る”へ。地域BPOが生み出す新しい共創のかたち〜
- 第22回 「地方創生テレワーク」の進化形──自治体×企業×住民で生み出す『ローカル・テレワーク』 〜地域の人・企業・文化が輝く、循環型の“しごと生成エコシステム”〜
- 第21回 自治体・企業・住民でつくる 地方創生テレワーク推進モデル 〜“点”で終わらせない、持続可能な三者連携とは?〜
- 第20回 「“よくわからない”を乗り越える──テレワーク導入Q&A」 〜不安を解消し、最初の一歩を踏み出すために〜
- 第19回 「“社会貢献企業”としてのテレワーク導入」 〜採用力とブランド力を高める組織戦略〜
- 第18回 「“自走できる人材”を育てるマインドと環境づくり」 〜指示待ち型から“目的を理解し、動ける人材”へ〜
- 第17回 「“信頼される会社”の条件──テレワーク時代の組織文化とリーダーシップ」 〜制度や仕組みを超えて“信頼”を築く組織の土台とは〜
- 第16回 生成AIとテレワーク ──中小企業が直面する“AI格差”を乗り越えるには?
- 第15回 「地域×テレワーク」──地方創生ローカル・テレワーク 〜地域企業と地域人材のハブとなる地域リーダーの創出〜
- 第14回 「“個の力”を最大化するチームづくり──テレワークでも成長・定着する組織のつくり方」 〜孤独・疎外感を防ぐコミュニティ型組織づくりの工夫〜
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