企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第31回
“全国採用”の時代──人材不足を突破する採用戦略 〜「求職者が来ない」から「選ばれる会社」へ、発想を切り替える〜
株式会社aubeBiz 酒井 晶子
はじめに──「人がいない」のではなく、「出会い方を間違えている」
「求人を出しても、まったく応募が来ない」 「やっと採用しても、すぐに辞めてしまう」 「地方だから人がいないのは仕方ない、と半ば諦めている」
最近、企業の規模や業種を問わず、こうした切実なご相談を受けます。
確かに、人口減少は事実ですし、人手不足が深刻なのも間違いありません。
しかし、こうした声を耳にする度に、私は少し違和感を覚えます。
採用がうまくいかない本当の原因は、「人がいなくなった」ことだけでしょうか?
そうではなく、「採用の土俵」が少しズレていることが原因であるケースも多いのではないかと考えています。
事実、現在も「良い人材をしっかり採用できている」という企業も多数存在します。
このズレに気づかないまま、同じ求人票、同じ条件、同じ採用手法を繰り返していても、結果が変わらないのは、ある意味当然です。
「採用のズレ」の正体は多岐に渡りますが、このコラムの視点から言えば、主に以下のような壁が挙げられます。
・理念発信の不足(想いはあっても、伝わっていない)
・成長機会の不透明さ(入社後のキャリアが見えない)
・雇用形態の壁(正規雇用にこだわりすぎている)
・勤務時間の壁(フルタイム勤務にこだわりすぎている)
・通勤圏の壁(通勤可能な人材にこだわりすぎている)
採用がうまくいっている企業は、必ずここが明確であったり、柔軟であったりします。
今回はその中でも、「通勤圏」という見えない壁を取り払い、日本全国に眠る素晴らしい人材と出会うための道筋=「新しい採用の地図」についてお話しします。
採用市場はすでに「全国・複線型」に変わっている
テレワークが普及した今、働く人々の意識は劇的に変化しました。
「どこに住んでいるか」よりも「どう働けるか」が重視され、副業や複業も当たり前になりつつあります。
これは企業にとって、ピンチではなく最大のチャンスと捉えられます。
なぜなら、「通勤できる距離」という制限を取り払い、求人の母数を劇的に増やすことができるからです。
実は、全国にはこんなプロ人材がたくさん眠っています。
・配偶者の転勤で地方に移ったけれど、キャリアを活かしたい経理のプロ
・親の介護で地元に戻ったものの、空いた時間で働きたい元トップセールス
・リタイヤ後もまだまだ活躍できる、元大手企業のエンジニア
・子育て中でフルタイムは難しいけれど、午前中なら集中できる事務のエキスパート
・強い人脈と高いノウハウを持つ、大手企業の元役員シニア層
北海道の経理担当が、沖縄の企業の決算を支える。
介護中の元トップ営業マンが、自宅から東京の企業の商談をサポートする。
経験豊かなエンジニアが、定年後の隙間時間に技術を提供する。
そんなことが、今の日本では日常的に起きています。
採用はもう、「近くから人を集める」ものではなく、「全国に向けてドアを開く」ものになったのです。
「全国採用」がうまくいかない会社の共通点
とはいえ、 「会ったこともない人に仕事を任せるのは不安」「リモート採用なんて、やったことがない」そう不安になるのも無理はありません。
実は、全国採用に挑戦してもうまくいかない会社には、はっきりした共通点があります。
それは、「仕事がブラックボックスのまま」だということです。
「とりあえず出社して、電話対応しながらこの書類も作って」という曖昧な指示
「空気」を読んで動くことを求める暗黙のルール
前回のコラム(第30回)でも触れた「業務の棚卸し」や「スモールDX」は、実はこの“全国採用”とも深くつながっています。
採用の問題は、実は業務設計の問題でもある。
この視点を持てるかどうかが、大きな分かれ道になります。
成功のカギは、「スーパーマン」を探さないこと
全国採用を成功させるために必要なのは、高額な求人広告費ではありません。
「仕事を定義する力」です。
多くの企業が、「何でもできるスーパーマン」を正社員で探そうとする。
だから、見つからないのです。
発想を逆転させましょう。
「人を採ってから仕事を割り振る」のではなく、「仕事を切り出し、そこに人を割り当てる」。
例えば、 「週5日フルタイムで、経理も総務も電話対応もできて、残業も可能」 ──こんな人材は、都市部でも地方でも、ほとんど存在しませんよね。
しかし、「経理の仕訳入力だけを、月30時間正確に処理してくれる人」ならどうでしょう?
子育て中の主婦(夫)、副業人材、専門スキルを持つシニア層など、対象者は一気に広がります。
事例:山間部の建設会社が採用できた理由
ある地方の建設会社様の事例です。
「経理担当が辞めてしまい、ハローワークに出しても半年間応募ゼロ」という状態でした。
そこで、業務を整理し、「完全在宅・月50時間・会計ソフト入力業務」として全国公募しました。
すると、どうでしょう。 わずか1週間で、東京在住のベテラン経理経験者からの応募があったのです。
「地方の山間部にある会社」が、「東京のプロ人材」を採用できた瞬間でした。
「全国採用」は“多様性経営”の入口
全国採用に取り組むということは、単に人を集めることではありません。
それは、「人生の事情を理由に、働くことを諦めなくていい社会」を、企業側からつくる行為だと、私は考えています。
弊社aubeBizでも、全国各地のスタッフが働いています。
彼女・彼らの多くは、「フルタイムで働けなくても、力を発揮したい」という熱い想いと、高い意欲を持っています。
こうした「潜在労働力」とつながることが、人材不足を解決するだけでなく、組織に新しい視点をもたらしてくれます。
全国採用は、人材戦略であると同時に、経営戦略であり、企業に新しい風を入れ、組織を強くする「多様性経営(ダイバーシティ)」への入り口でもあるのです。
おわりに──「採れない会社」から「選ばれる会社」へ
これからの時代、給与の高さや知名度だけで人は動きません。
問われるのは、「どんな関係性で働けるか」です。
「居住地に関係なく、あなたの力を必要としています」
「フルタイムじゃなくても、こんな関わり方ができます」
「人生における大切なことと仕事は両立できます」
そうやってドアを開くことで、御社は「人が来ない会社」から、全国の人材に「選ばれる会社」へと変わります。
まずは、ひとつの業務から。1人の採用から。
通勤圏という古い地図をたたんで、新しい採用の地図を広げてみてください。
次回「生成AIとBPOの未来──AI時代の“人と組織”の役割とは?」
AIの進化に対し「人の仕事が奪われるのではないか」という不安の声もありましたが、今やそうした懸念は過去のものになりつつあります。すでに、AIを活用しない仕事は考えられない時代へと移行しているのです。
次回は、AIに任せること/人が担うべきことを整理しながら、“人 × 仕組み × テクノロジー”で組織を強くする視点をお伝えします。
プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
- 第31回 “全国採用”の時代──人材不足を突破する採用戦略 〜「求職者が来ない」から「選ばれる会社」へ、発想を切り替える〜
- 第30回 中小企業のDXとテレワーク──小さな一歩からの業務改革 〜属人化をほどき、手の届く範囲から未来志向の仕組みづくりへ〜
- 第29回 観光とワーケーション──“訪れる人”を“関わり続ける人”へ 〜テレワークだからできる、新しい関係人口づくり〜
- 第28回 BPOアワードから見えた未来──“外注”ではなく“共創”が、人材不足を超えていく~受賞社の取り組みが示す、これからのBPO活用の正解~
- 第27回 ダイバーシティとテレワーク──多様性が生むイノベーション 〜“働きづらさ”を“戦力化”へ変える、新時代の仕事づくり〜
- 第26回 自治体の挑戦──テレワーク推進政策の最前線 〜「施策」を現場で回す“仕組み”の作り方〜
- 第25回 教育とテレワーク──地域で育てる次世代キャリア 〜「地元で働きたい」を仕組みにする、教育×テレワーク〜
- 第24回 農業×テレワーク──デジタルで広がる“第六次産業化”の可能性 〜“つくる”と“伝える”をつなぐ、新しい地域のかたち〜
- 第23回 地方と企業をつなぐ“BPOモデル”の進化 ──自走型チームが地域経済を動かす 〜“任せる”から“共に創る”へ。地域BPOが生み出す新しい共創のかたち〜
- 第22回 「地方創生テレワーク」の進化形──自治体×企業×住民で生み出す『ローカル・テレワーク』 〜地域の人・企業・文化が輝く、循環型の“しごと生成エコシステム”〜
- 第21回 自治体・企業・住民でつくる 地方創生テレワーク推進モデル 〜“点”で終わらせない、持続可能な三者連携とは?〜
- 第20回 「“よくわからない”を乗り越える──テレワーク導入Q&A」 〜不安を解消し、最初の一歩を踏み出すために〜
- 第19回 「“社会貢献企業”としてのテレワーク導入」 〜採用力とブランド力を高める組織戦略〜
- 第18回 「“自走できる人材”を育てるマインドと環境づくり」 〜指示待ち型から“目的を理解し、動ける人材”へ〜
- 第17回 「“信頼される会社”の条件──テレワーク時代の組織文化とリーダーシップ」 〜制度や仕組みを超えて“信頼”を築く組織の土台とは〜
- 第16回 生成AIとテレワーク ──中小企業が直面する“AI格差”を乗り越えるには?
- 第15回 「地域×テレワーク」──地方創生ローカル・テレワーク 〜地域企業と地域人材のハブとなる地域リーダーの創出〜
- 第14回 「“個の力”を最大化するチームづくり──テレワークでも成長・定着する組織のつくり方」 〜孤独・疎外感を防ぐコミュニティ型組織づくりの工夫〜
- 第13回 「“副業・複業人材”を活かす!兼業社会における新しい雇用戦略」 ── 多様なキャリアが交わる“パラレルワーカー”活用の可能性
- 第12回 「“スキマ時間”を活かす働き方──ワークシェアリングという選択肢」
- 第11回 「成功するテレワーク採用」 〜離れていても成果を出す組織づくりのヒント〜
- 第10回 「“全国から採用する時代”へ!採用戦略の発想を切り替えるヒント」 〜テレワークが生み出す“新しい雇用のかたち”〜
- 第9回 「BPOとBCP」―― 有事の際の事業継続に備える新常識
- 第8回 ーDX化の第一歩となる業務改革ー「属人化を防ぐ仕事の仕組み化」
- 第7回 完全テレワークでも離職率5%未満を実現するチームづくりの秘訣 〜組織の土台を支える“仕組み”と“信頼文化”のつくり方〜
- 第6回 成長戦略としてのBPO活用法 〜“外注”にとどまらない、企業の柔軟性と競争力を高める選択肢〜
- 第5回 「テレワークは難しい?」──よくある誤解と“うまくいかない理由”を解きほぐす
- 第4回 地域で働く、地域を支える──「ローカル・テレワーク」という新しい仕組み
- 第3回 地方に眠るチカラを活かす!「地方創生テレワーク」の可能性
- 第2回 眠れる働くチカラ 「働きたいけれど働けない」潜在労働力を社会へ
- 第1回 これからの時代に選ばれる働き方とは? ― 少子高齢化・人材不足を乗り越える組織づくりのヒント