企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第27回

ダイバーシティとテレワーク──多様性が生むイノベーション 〜“働きづらさ”を“戦力化”へ変える、新時代の仕事づくり〜

株式会社aubeBiz  酒井 晶子

 

1. はじめに──「多様性」は“生き残るための戦略”

テレワークが普及して、一番良かったことは何でしょうか。
「家で仕事ができるようになったこと」──もちろんそれも大きな変化ですが、私が現場で強く感じるのは、「社会に参加できる人の入り口が、ぐっと広がったこと」です。

子育て、介護、病気、障がい、地方在住……。
これまでは「だから働けない」と諦めざるを得なかった事情が、テレワークによって、「これなら働けるかもしれない」という希望に変わり、さらには企業にとっての“新しい価値”へと変わりつつあります。
多様な人材を受け入れることは、もはや企業のCSRやイメージアップ戦略ではありません。
人口減少が待ったなしで進むこの国で、企業が持続的に成長していくための、きわめて現実的な戦略だと、私は考えています。

2. 人口減少時代、なぜ“多様性”が最強の武器になるのか?

人口減少が叫ばれる日本において、本当に注視するべきなのは「生産年齢人口(国の生産活動の中心的担い手となる15歳~64歳の人口)」の減少です。日本の「働き手」は、ものすごいスピードで減っているのです。今、企業が本当に向き合わなければならない相手は、ライバル企業だけでなく、生産年齢人口減少という構造的な変化そのものです。
経営者や人事の方からは、

「採用をかけても、なかなか応募が来ない」
「来ても、すぐに辞めてしまう」

そんな声を、日常的に耳にします。
けれど、視点を少し変えてみるとどうでしょうか。
テレワークを前提にすれば、採用のフィールドは「通勤できる範囲」から、全国、さらには海外にまで広がります。
また、子育て中の方や、副業・複業・兼業人材など、「毎日出社を前提としなければ働ける優秀な人材」は数多く存在します。
そして、私が何より強調したいのは、組織としての“強さ”そのものが変わるという点です。
同じような価値観や属性の人だけで固まった組織は、阿吽の呼吸で物事を進めるのは得意ですが、環境の変化には弱いものです。
 一方で、多様なバックグラウンドや視点を持つメンバーがいるチームは、時には意見がぶつかることがあっても、そこから

「その見方は思いつかなかった!」

という“気づき”が生まれ続けます。
これまで「弱み」だと思われていた“普通とは違う視点”が、 新しい商品やサービス、働き方を生み出すイノベーションの源泉になっていく可能性があるのです。

3. “働きづらさ”を抱えていた人たちが、企業の“救世主”に

では、実際にどのような人たちが、テレワークをきっかけに企業の現場で輝き始めているのでしょうか。
私が実際に目にしてきた心強い「戦力」として活躍されている方々の事例をご紹介します。

子育て世代(ママ・パパ) ──「短時間 × テキパキ」のプロ
1日3時間しか働けなくても、その3時間の集中力は非常に高く、返信の速さや丁寧さが高評価。SNSの投稿や事務作業など、短い時間で成果を出す仕事が得意です。

シニア世代(60〜70代) ── チームの「守り神」
長年の経験は貴重な資産です。戦略立案のアドバイスや中間管理職の相談役など、経営層にとって頼もしい存在になってくれます。また、オンライン会議の進行や、契約書のチェック、丁寧なお客様対応など、実務においても若手にはない安心感で会社を支えます。

障がいのある方 ── 特定分野の「職人」
 通勤の満員電車は難しくて、高いスキルを持ち、驚くべき集中力を発揮する方もいます。データ入力やチェック業務、専門スキルを活かしたクリエイティブなど、専門性を発揮する戦力として活躍されています。

副業ワーカー── 地方企業の「助っ人参謀」
都市部でフルタイム雇用するのは難しいような高度専門人材も、副業・兼業という形であれば、地方企業を支える“オンライン参謀”になってくれます。週に数時間の関わりでも、マーケティングや業務改善の方向性がガラッと変わることも珍しくありません。

不登校などの経験がある若者 ── 「デジタルネイティブ」の新しい力
学校の教室には馴染めなかったけれど、オンラインの世界では自分の居場所を見つけている──そんな若者もいます。
動画編集やSNS運用、コミュニティ運営など、デジタルの感覚を活かした仕事では、すでに立派な“先輩”であることも多いのです。

こうした人たちは決して、「助けてあげる対象」ではありません。
企業がこれまで出会えなかった、“眠れる資産”であり、未来をともにつくるパートナーなのだと、私は思っています。

4. 魔法の杖は「業務の切り出し(Job Decomposition)」

「多様な人を活かしたい気持ちはあるけれど、現場でどう仕事を渡せばいいか分からない」
 そんな企業の方に、私が一番お伝えしているのが、

仕事を“丸ごと”ではなく、“一口サイズ”にして渡すこと

です。
うまくいかないケースの多くは、仕事が大きな塊のままになっています。

「SNS担当、全部お願いね。慣れたら企画もレポートもお願い」
これは、OJTを受けたフルタイム社員ならまだしも、すぐそばにいる誰かに質問できない、相手の反応や会社の状況がリアルタイムで分からないテレワーカー人材、複業兼業人材にとっては、非常にハードルの高い業務依頼方法です。
一方で、うまくいっている企業は、仕事を「マイクロタスク」に分解して渡しています。
SNS投稿用の画像をつくる人
投稿文章の下書きをする人
投稿後のコメントに返信する人
といった具合に、「ひとつの役割」を小さく分けるのです。

必要なのは、特別なケアや対応ではなく、誰でも成果が出しやすいように仕事を設計する“業務設計力”。
ここが整うと、多様な人材が驚くほどいきいきと動き始めます。

5. 成功している企業が大切にしている“3つの仕組み”

多様なメンバーが活躍している企業には、必ずと言っていいほど共通する「仕組み」があります。

① マニュアルやノウハウの“見える化・動画化”
 「見て盗んで」は、テレワークには通用しません。
業務手順をテキストや動画で共有し、「誰が入ってきても、同じレベルでスタートできる」状態をつくっている企業ほど、戦力化のスピードが速いと感じます。

② ダブルチェック体制(Wチェック)
 「ミスをしたら終わり」の職場では、人は萎縮してしまいます。
 「誰かが必ず見てくれる」「最終チェックは別の人が担う」という前提があると、安心してチャレンジできるようになります。品質も安定し、教育にもつながります。

③ “お互い様”を前提にした運用
 子どもの発熱、親の介護、自分の体調…。
 誰にでも起こりうる事情を前提に、「万が一、急に抜けても、チームでカバーできる仕組み」を整えておくこと。 これこそが、ダイバーシティ経営を“かたち”として支える土台になります。

6. 多様性がもたらす、企業への“ギフト”

多様な人材を受け入れることは、人手不足の解消以上のものを企業にもたらします。

新しいアイデアが生まれる
 異なる経験値や価値観がぶつかり合うことで、「その手があったか!」という企画や改善案が生まれます。

採用の選択肢が広がる
 競合が集中する「フルタイムの即戦力」だけでなく、「働きたくても働けなかった優秀な人」に出会うことができます。

定着率が上がる
 「事情を理解し合える会社」「続けていける働き方」を提供できる組織には、人が定着します。結果として、採用コストの削減にもつながります。

地域からの信頼が高まる
 地域の中で「多様な人の活躍の場をつくる会社」として認知されることで、ファンや応援者が増えます。

これらはすべて、企業の持続可能な成長に直結する“ギフト”だと感じています。

7. “多様性を支える仕組み”をつくる行政の役割

こうした変化を一社だけで起こすのは難しくても、地域ぐるみで取り組めば、現実味がぐっと増します。
そこで大切なのが、行政の協力です。
もちろん行政がすべての運営を担う必要はありません。
むしろ、「場を開き、つなぎ、支える側」としての関わりが重要です。
たとえば、次のような支援です。

成功事例の周知・啓発
 「こんな働き方・受け入れ方がある」という実例を発信し、企業や地域の思い込みを少しずつほぐしていく。

“仕事のバラし方”を伝える研修
 多様な人材を活かしたい企業向けに、「業務の切り出し」「マイクロタスク化」のノウハウを提供する。

短時間仕事のマッチング支援
 フルタイム前提の求人ではなく、「週3〜8時間でできる仕事」を集めたマッチングの場をつくる。

企業と人をつなぐ“推進ハブ(中間支援団体)”への投資
 企業とワーカーの不安を受け止め、調整と伴走を担うハブの運営を、政策として支える。

こうした支援を通じて、多様な人が働き続けられる“地域の仕組み”は、少しずつ形になっていきます。

8. おわりに──多様性は「社会を強くするインフラ」

テレワークは、単なる便利なツールではありません。
それは、場所や時間に制約を受けず、必要な人材と出会うための手段であり、さらには「誰も排除しない社会」を実現していくための力強いインフラだと感じています。
多様な人材が活躍することは、地域経済を元気にし、企業を強くし、そして何より、働く人一人ひとりの自信を取り戻すことにつながります。
多様性は、社会の“優しさ”ではなく、未来を切り拓くための“強さ”です。 テレワークを柔軟に活用し、その強さを、皆さんの地域や企業でも大きく広げていきませんか。

次回は、「BPOアワードから見えた未来──“外注”ではなく“共創”が、人材不足を超えていく」
優れた取り組みを表彰する「BPOアワード」の受賞企業をご紹介。
「人・仕組み・経営」のどこを変えればうまくいったのか? 成功のヒントを分かりやすく解説します。


 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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