中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第118回

維新議員『国保逃れ』事件から学ぶ-社会保険適用の『実態要件』を無視した節税スキームの落とし穴

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

はじめに──年間100万円の保険料削減、その代償

個人事業主の皆さまは、毎月の国民健康保険料負担の重さを日々実感されていることでしょう。所得に応じて大きく膨らむ国民健康保険料は、年間で数十万円から100万円を超えることも珍しくありません。

「法人を作って社会保険に加入すれば、もっと安くなるのでは」「でも、法人設立は手間もコストもかかる」──そんな悩みを抱える個人事業主の方も多いはずです。

そんな中、2024年末から2025年初頭にかけて、日本維新の会の地方議員による「国保逃れ」疑惑が大きな話題となりました。年収1000万円を超える議員が、一般社団法人の理事という名目を利用して、わずか月額1万円程度の報酬で社会保険に加入し、国民健康保険料の負担を大幅に軽減していたというのです。

ここで重要なポイントがあります。法人の役員として社会保険に加入すると、国民健康保険からは抜けることになります。つまり、役員報酬の額に応じた社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)を支払えば、それまで払っていた高額な国民健康保険料は支払わなくてよくなるのです。

この事件は、一見すると「賢い節税テクニック」のように見えるかもしれません。しかし実際には、社会保険制度の本質を無視した危険なスキームであり、最終的には政治倫理問題にまで発展しました。

本コラムでは、この事件の詳細を紐解きながら、社会保険適用の本当のルール、過去の類似事例、そして個人事業主が陥りがちな落とし穴について、分かりやすく解説していきます。保険料負担を適正に最適化するための、実践的なアドバイスもお届けします。



1.事件の全貌──「理事報酬1万1700円」のカラクリ


<スキームの構造>

事件の舞台となったのは、京都市に本拠を置く一般社団法人「栄響連盟」です。この法人は、高額な国民健康保険料に悩む個人事業主や議員などに対して、次のような仕組みを提供していました。

まず、加入希望者はこの法人の「理事」として名を連ねます。そして月額1万1700円程度という極めて少額の理事報酬を受け取ることになります。この報酬額を基準として、協会けんぽ(会社員などが加入する健康保険)と厚生年金に加入するのです。

ここで重要なのは、社会保険の保険料は報酬額に応じて決まるという点です。月額1万1700円の報酬であれば、健康保険料も厚生年金保険料も最低ランクの金額になります。そして、法人の役員として社会保険に加入すれば、国民健康保険からは脱退することになります。

つまり、本来なら年収1000万円の人が支払うべき年間100万円近い国民健康保険料の負担から逃れ、わずか数万円の社会保険料負担で済んでしまうというわけです。


<金銭の流れ>

では、法人側はどうやって運営しているのでしょうか。加入者は法人に対して月額3万円から5万円程度の「会費」を支払います。この会費の一部が、理事報酬や社会保険料の事業主負担分(会社側が払う保険料)として使われるのです。

つまり、加入者は会費として3万円を払い、そこから1万1700円程度を報酬として受け取り、差額は保険料の事業主負担などに充てられるという構図です。一見すると合理的なビジネスモデルに見えますが、実質的には「お金をぐるぐる回しているだけ」と言えるでしょう。


<業務実態の欠如>

では、理事としてどんな仕事をするのか。報道によれば、業務内容は月に2回程度のアンケートに回答する程度だったとされています。経営方針の決定や重要な意思決定への参加といった、本来理事が担うべき責任ある業務はほとんど存在しませんでした。

さらに驚くべきは、この法人の理事が700人以上にも膨れ上がっていたという点です。通常、一般社団法人で700人もの理事を抱えることは考えられません。それぞれが実質的な経営判断を行うことなど、物理的にも不可能でしょう。


<政治問題への発展>

この法人は「維新議員も利用している」「国保料が大幅に削減できる」といった文句で加入者を募っていました。維新の会の内部調査により、兵庫県議ら少なくとも4人の議員がこのスキームを利用していたことが判明しました。

吉村洋文代表(大阪府知事)は記者会見で「国民皆保険制度における応能負担の趣旨を逸脱した脱法的行為であり、受け入れがたい」と厳しく批判。関与した議員に対する処分を検討する方針を示しました。

高額な収入を得ている公人が、本来なら低所得者が負担する程度の保険料しか払っていなかったという事実は、社会的公平性の観点から大きな問題となったのです。



2.何が問題だったのか──低報酬ではなく「要件不備」


<誤解されやすいポイント>

この事件について、「低い報酬で社会保険に加入したのが問題だ」と理解されている方が多いかもしれません。しかし、それは正確ではありません。

本当の問題は、社会保険の加入要件を満たしていない人を加入させたことです。これは極めて重要なポイントです。

もし実際に法人の経営に参加し、理事としての責任を果たしている人が、事業規模に応じた適切な報酬を受け取っているのであれば、その報酬額が結果的に低めであったとしても、それ自体は問題ありません。小規模な法人であれば、役員報酬が月数万円ということもあり得ます。

しかし今回のケースでは、700人もの理事が存在し、業務内容はアンケート回答程度という、明らかに「理事としての実態」を欠いていました。つまり、そもそも社会保険に加入できる立場ではない人たちを、形式だけ整えて加入させていたのです。


<脱法スキームの本質>

実は、個人事業主を対象に、SNSなどで違法な社会保険加入を勧める業者は以前から存在しています。「自分で法人を作らなくても社会保険に入れます」「国保料を大幅削減できます」といった謳い文句で、個人事業主を勧誘するのです。

こうした業者が適法か違法かを判断するためには、法律の規定を正しく理解した上で、その業者における働き方の実態をしっかり確認することが不可欠です。


<法律上の大原則>

まず、法律の原則を押さえておきましょう。厚生年金保険法第9条および健康保険法第3条によれば、「適用事業所に使用される」70歳未満(健康保険は原則75歳未満)の人は、一定の除外事由に該当しない限り、厚生年金保険・健康保険の被保険者となります。

つまり、個人事業主であっても、一定の要件を満たせば、法人の役員や従業員として社会保険に加入すること自体は可能なのです。

実際、個人事業の売上や所得が一定以上になった段階で、自分で法人を設立し、その法人の代表者として社会保険に加入するのは、ごく一般的な方法です。これは完全に適法です。


<適法に加入できる2つのケース>

では、どういう場合なら適法に社会保険に加入できるのでしょうか。大きく分けて2つのケースがあります。


ケース1:法人役員として加入する場合

次の要件をすべて満たす必要があります。

・役員として法人の経営に実際に従事している

・その法人から、労働の対価として役員報酬を受け取っている

ここで重要なのは「経営に実際に従事している」という点です。単に登記簿に名前があるだけ、理事という肩書だけあるという状態では不十分です。取締役会や理事会に出席し、経営方針の決定に関与し、法人の事業活動に責任を持って関わっているという実態が求められます。

また、報酬は「労働の対価」でなければなりません。その役員が法人にもたらす価値や貢献度、責任の重さに見合った金額である必要があります。


ケース2:従業員として加入する場合

次の要件をすべて満たす必要があります。

・厚生年金保険・健康保険の適用事業所の従業員として、実際に勤務している

・所定労働時間および所定労働日数が、同じ事業所の通常の従業員の4分の3以上である(または、従業員数51人以上の企業において、週20時間以上等の要件を満たしている)

・その事業所から、労働の対価として給与を受け取っている

ここでも「実際に勤務している」という実態が不可欠です。会社の指揮命令に従って働き、定められた時間・場所で業務を行い、その対価として給与を受け取るという、通常の雇用関係が必要なのです。


<今回の事件が脱法とされた理由>

維新議員のケースを、この基準に照らし合わせてみましょう。

加入者たちは「理事」という肩書を得ていましたので、「ケース1:法人役員として加入」に該当するはずです。しかし実態を見ると、どうでしょうか。

・理事が700人以上もいる(通常の法人経営としてあり得ない)

・業務内容は月2回のアンケート回答程度(経営参加の実態なし)

・報酬は一律で極端に低額(労働対価としての合理性なし)

・加入者の多くは他に主たる収入がある(この法人での活動が主業務ではない)

これらの事実から、「役員として法人の経営に実際に従事している」という要件を満たしていないことは明白です。したがって、そもそも社会保険に加入できる立場ではなかったのです。


<「従業員」としても要件を満たさない>

では、「理事」ではなく「従業員」として扱えば良かったのでしょうか。それも不可能です。

月2回のアンケート回答という業務では、週20時間はおろか、週数時間の労働時間すら確保できません。通常の従業員の4分の3以上という基準も、到底満たせません。

つまり、このスキームは「役員」としても「従業員」としても、社会保険の加入要件を満たしていなかったのです。


<類似業者への警鐘>

繰り返しになりますが、こうした脱法スキームを提供する業者は、今回の維新議員の事件以前から存在していました。そして今も、SNSや怪しげなセミナーで個人事業主を勧誘し続けています。

「手軽に社会保険に入れる」「国保料が激減する」という甘い言葉の裏には、実態要件を満たさない違法な加入があります。後で資格を取り消され、多額の追徴金を請求されるのは、加入した個人事業主自身です。

業者が「大丈夫です」「他にもたくさん加入者がいます」と言ったとしても、それは何の保証にもなりません。違法性を問われるのは、加入した本人なのです。



3.社会保険適用の本当のルール──形式より実態が重要


<「使用される者」とは何か>

ここで、社会保険制度の基本的な考え方をもう少し掘り下げましょう。厚生年金保険法や健康保険法では、「適用事業所に使用される者」が加入対象と定められています。この「使用される」という言葉がキーポイントです。

単に名目上の契約があればいい、書類上で従業員や役員になっていればいい、というものではありません。実際に会社に雇われて働いている、あるいは会社の経営に実質的に関与しているという「実態」が求められるのです。


<役員報酬の相当性>

役員として社会保険に加入する場合、報酬額そのものよりも、「その報酬が労働の対価として合理的か」という点が重視されます。

例えば、年商500万円の小規模法人で、代表者が月額10万円の報酬を受け取っているというケースを考えてみましょう。報酬額としては決して高くありませんが、事業規模を考えれば妥当な範囲です。そして代表者として実際に経営判断を行い、事業活動を主導しているのであれば、これは完全に適法です。

一方、今回の維新議員のケースはどうでしょうか。議員としての年収が1000万円を超える人が、月額1万1700円の報酬で「理事」を名乗る。しかも業務はアンケート回答程度。これは明らかに、労働の対価としての合理性を欠いています。


<なぜ「実態」が重視されるのか>

社会保険制度は、実際に働いている人たちが相互に支え合う仕組みです。形だけ整えて保険料負担を逃れる行為を放置すれば、制度全体が崩壊してしまいます。だからこそ、行政や裁判所は「形式」ではなく「実態」を厳しくチェックするのです。

特に国民健康保険は「応能負担」、つまり所得が高い人ほど多く負担するという考え方で設計されています。年収1000万円の人が低所得者並みの保険料しか払わないのは、この理念に真っ向から反する行為なのです。

昭和24年の厚生省保険局長通知(保発第74号)でも、法人の代表者や役員が社会保険に加入できるのは、実際に法人の業務に従事し、労働の対価として報酬を受け取っている場合に限られることが明確にされています。形式だけでは不十分なのです。



4.過去の類似事例──89名が一斉に資格取消になった前例


<給与計算代行業者による大量加入事件>

今回の維新議員の事件は、実は過去にも似たような事例がありました。平成15年(2003年)に社会保険審査会が下した裁決例です。これは現在でも、保険料削減スキームのリスクを示す重要な判例として参照されています。

ある給与計算代行業者が、全国の個人事業主89名を自社の「在宅勤務社員」として一斉に社会保険に加入させました。個人事業主たちは本来なら国民健康保険や国民年金に加入すべき立場なのですが、この会社の従業員という形にすることで、保険料を大幅に削減しようとしたのです。


<スキームの仕組み>

具体的な仕組みは以下の通りでした。

まず、加入希望者は業者に「コンサルティング料」として月額11万円を支払います。そして翌月、業者から「給与」として8万5000円を受け取るのですが、そこから社会保険料が控除されます。つまり、実質的には加入者が支払った11万円の一部が、給与という形で還流してくる構造です。

業務内容は月に1枚程度のレポートを提出するだけ。募集も無差別に行われ、特定の技能や経験は問われませんでした。これは明らかに「社員」としての実態を伴わないものです。


<審査会の厳しい判断>

この事案について、社会保険審査会は次のように判断しました。

・使用関係が認められない

月1枚のレポート提出だけでは、会社の指揮命令下で働いているとは言えない。実質的な雇用関係が存在しない。

・保険料節減目的の偽装である

金銭の流れを見れば、保険料を削減することが主目的であり、真っ当な雇用契約ではない。

・結論:資格取得の確認を取り消す

89名全員について、社会保険の加入資格を遡って取り消す。つまり、最初から社会保険に加入していなかったことにするという厳しい判断です。


<維新事件との共通点>

この過去の事例と今回の維新議員の事件には、驚くほど多くの共通点があります。

・名目だけの業務

「レポート1枚」と「アンケート回答」という、実態のほとんどない業務。

・金銭の還流構造

「コンサル料→給与」と「会費→理事報酬」という、お金が循環するだけの仕組み。

・大量の加入者

「89名の在宅社員」と「700人超の理事」という、通常ではありえない人数構成。

・保険料削減が主目的

どちらも、本来の事業活動ではなく、保険料を減らすことが真の目的。

過去の裁決例が示しているのは、こうしたスキームは役員であれ従業員であれ、一律に違法と判断されるということです。形式を整えても、実態が伴わなければ意味がないのです。



5.発覚時のリスク──追徴金だけでは済まない


<資格取消と遡及適用>

もしこうしたスキームが発覚した場合、何が起こるのでしょうか。最も直接的な影響は、社会保険の加入資格が取り消されることです。

しかも、この取消は「遡及適用」されます。つまり、加入時に遡って「最初から加入していなかった」ことにされるのです。すると当然、本来加入すべきだった国民健康保険と国民年金に、遡って加入し直さなければなりません。


<膨大な追徴金額>

過去2年から5年分(悪質な場合はそれ以上)の国民健康保険料を、一括で支払う必要が生じます。年間50万円から100万円の保険料を5年分となれば、250万円から500万円という巨額です。

さらに、納付期限を過ぎているわけですから、延滞金も加算されます。延滞金の利率は年14.6%(一定期間は軽減措置あり)と決して低くありません。本来の保険料に加えて、数十万円の延滞金を支払うことになる可能性もあります。


<行政調査の実際>

行政機関(年金事務所や市区町村の保険担当部署)は、以下のような点を詳しく調査します。

業務の実態

・実際にどんな仕事をしているのか

・勤務時間や勤務場所はどうなっているのか

・業務日誌や成果物はあるのか

・他の役員や従業員と同じように働いているのか

報酬の妥当性

・報酬額は業務内容に見合っているか

・他の収入と比べて極端に少なくないか

・報酬の決定過程は適切か

金銭の流れ

・会費や報酬の支払いはどうなっているか

・実質的に金銭が循環しているだけではないか

・事業主負担分の保険料はどこから出ているか

組織の構成

・役員や従業員の人数は適切か

・実際に事業活動を行っているか

・通常の会社組織として機能しているか

これらの調査には、帳簿類の提出、関係者への聞き取り、場合によっては立ち入り調査なども含まれます。


<信用失墜のダメージ>

金銭的な負担だけではありません。特に今回のように政治家が関与した事件では、報道によって広く知られることになります。

個人事業主がこうした問題に関与していた場合、どうなるでしょうか。

・取引先の離反

「社会保険料を不正に逃れていた」というレッテルは、取引先の信頼を大きく損ないます。特に上場企業や公的機関との取引では、コンプライアンス上の問題として取引停止につながる可能性があります。

・金融機関の評価

銀行などの金融機関は、こうした問題を信用力評価において重視します。融資条件の悪化や、新規融資の拒否といった影響も考えられます。

・行政指導や監督強化

一度問題を起こした事業主は、その後も労働基準監督署や年金事務所による定期的な監督を受ける可能性が高まります。

・従業員を雇う際の障害

将来、事業が拡大して従業員を雇う際に、過去の問題が障害になる可能性があります。



6.個人事業主が陥りやすい落とし穴と対策


<「グレーゾーン」への誘惑>

個人事業主の方々と話をしていると、「国民健康保険料の負担が重すぎる」という声を本当によく聞きます。その気持ちは十分に理解できます。

だからこそ、世の中には「合法的に保険料を削減できます」というセミナーやコンサルタントが存在します。一見すると魅力的に見えるこうした提案ですが、多くの場合、今回解説したような「実態の伴わないスキーム」です。

「他の人もやっている」「専門家が大丈夫と言った」という言葉を信じて加入したものの、後になって問題が発覚し、多額の追徴金に苦しむ個人事業主を、私たちは何人も見てきました。


<NG行為のパターン>

以下のようなパターンは、明らかに危険です。

・ペーパー法人への名目上の参加

実態のない法人の役員や従業員という名目だけを用意するもの。今回の維新議員の事件がまさにこのパターンです。

・「保険料削減」をメインに謳うセミナーへの参加

正当なビジネスであれば、事業の内容や価値を前面に出すはずです。保険料削減だけを強調するものは、まず疑ってかかるべきです。

・極端に低額な報酬の設定と金銭の還流

市場価値や業務内容と明らかに釣り合わない低額報酬を設定し、別ルートで金銭を還流させるスキームは、偽装と判断されます。

・無差別募集への参加

特定の資格や経験を問わず、誰でも加入できるというものは、真っ当な雇用関係ではありません。


<推奨される安全な設計パターン>

では、適法に保険料負担を最適化するには、どうすればいいのでしょうか。

・自分で法人を設立し、役員として加入する

これが最も正統で安全な方法です。個人事業の全部を法人化することもできますし、複数の個人事業を行っている場合は、そのうちの一部だけを法人化することも可能です。

法人の代表者として実際に経営に従事し、その対価として役員報酬を受け取れば、適法に社会保険に加入できます。報酬額の設定は、会社の収益状況や事業規模を考慮して決めましょう。

・家族を従業員として雇用する

配偶者や子どもを実際に従業員として雇い、ちゃんと働いてもらって、相応の賃金を支払う。この場合、勤務実態(タイムカードや業務日誌)と給与支払いの記録をきちんと残すことが重要です。

労働時間が通常の従業員の4分の3以上、または週20時間以上(一定規模以上の企業)という要件を満たし、実際に業務に従事していれば、適法に社会保険に加入できます。

・所得分散の検討

法人化した場合、事業で得た利益を、家族従業員への給与として分散することで、全体の税負担や保険料負担を最適化できる場合があります。ただし、これも実際に働いている実態が必要です。


<法人化のメリット・デメリットを総合判断>

法人化は保険料の観点だけでなく、税務、事業承継、取引先の信用など、様々な面でメリット・デメリットがあります。専門家と相談しながら、総合的に判断しましょう。

・専門家への相談が不可欠

こうした制度設計は、非常に複雑で専門的です。自己判断で進めると、後で大きな問題になりかねません。

・社会保険労務士への相談

社会保険の適用関係や、実態要件を満たす設計については、社会保険労務士が専門家です。自身の状況を詳しく説明し、適法な方法を相談しましょう。

・税理士との連携

保険料だけでなく、税金面での影響も考慮する必要があります。社労士と税理士の両方に相談し、総合的に最適な設計を目指しましょう。

・行政の事前確認制度の活用

年金事務所では、加入前に実態を説明して、適用の可否を確認できる場合があります。不安な点があれば、事前に相談しておくと安心です。


<記録の保存が重要>

万が一、後日調査を受けた際に、実態を証明できるよう、以下のような記録を残しておくことが重要です。

・勤務実態を示すタイムカードや業務日誌

・取締役会議事録や経営会議の記録

・業務の成果物や報告書

・給与や報酬の支払記録(銀行振込など)

・雇用契約書や職務内容の記載された書面

これらの記録は、紙だけでなく電子データとしても保存し、少なくとも5年間は保管しておくことをお勧めします。



まとめ──持続可能な事業のための適法最適化


<「形式論」の限界と「実態要件」の重要性>

今回の維新議員による「国保逃れ」事件は、「形式的には違法ではない」けれども「実態が伴わないスキームは認められない」という、社会保険制度の基本原則を改めて示しました。

理事という名目があっても、700人もいて業務はアンケート程度では、実態を伴う経営参加とは言えません。報酬という形式があっても、わずか1万円で年収1000万円の議員の労働対価とは言えません。

繰り返しになりますが、問題の本質は「低い報酬で社会保険に加入したこと」ではありません。「そもそも社会保険の加入要件を満たしていない人を加入させたこと」が問題なのです。

実態を伴わない形だけのアレンジは、必ず否認されます。そして、その責任を負うのは加入した本人、つまり個人事業主自身です。


<制度の趣旨に沿った最適化を>

保険料負担を適正に最適化することは、決して悪いことではありません。むしろ、事業主として当然考えるべきことです。

ただし、その最適化は社会保険制度の趣旨に沿ったものでなければなりません。実際に経営に参加し、実際に働き、それに見合った報酬を設定する。この大原則を外れた「保険料削減だけが目的のスキーム」は、いずれ破綻します。


<短期的利益と長期的リスクの比較>

月数万円、年間数十万円の保険料削減は、確かに魅力的です。しかし、それが発覚した時のリスクを考えてみてください。

・数百万円の追徴金と延滞金

・取引先からの信用失墜

・金融機関の評価悪化

・行政による継続的な監督

・将来の事業拡大への障害

これらのリスクと、短期的な保険料削減の利益を天秤にかけた時、本当に割に合うでしょうか。


<正攻法こそが最強の戦略>

個人事業において、国民健康保険料は確かに大きな負担です。しかし、それは自分自身の将来の医療保障につながるものでもあります。

適法な範囲での最適化、例えば法人化や所得分散、家族従業員の活用などを、専門家と相談しながら進めること。そして何より、実態を伴った事業活動を行うこと。これが、長期的に見て最も安全で、持続可能な事業戦略です。


<最後に──安易なスキームに飛びつく前に>

今回の維新議員の事件は、政治家という立場にある人たちが関与したことで大きく報じられました。しかし、こうしたスキームの誘惑は、一般の個人事業主にも常にあります。

SNSやセミナーで「簡単に国保料を削減できます」「法人設立不要で社会保険に入れます」という甘い言葉を見かけたら、まず疑ってください。そして、その業者が提供するスキームが、本当に実態要件を満たしているのか、冷静に考えてください。

「他の人もやっている」「専門家のお墨付きがある」という言葉に惑わされず、制度の本質を理解し、実態に基づいた運用をする。当たり前のことを当たり前にやることが、結局は自分自身の事業を守ることにつながります。

国民健康保険料の負担に悩んだ時は、怪しげなスキームに手を出す前に、ぜひ信頼できる社会保険労務士や税理士に相談してください。適法で、実態に即した、そして長期的に持続可能な方法が、必ず見つかるはずです。

皆さまの事業が、健全で持続可能な形で発展されることを心より願っています。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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