中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第115回

助成金を活用したAI研修の落とし穴~営業トークに騙されない方法

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

はじめに

「AI研修なら助成金が使えますよ!」──最近、こんな営業トークを耳にする機会が増えていませんか?

確かに、生成AIの急速な普及により、多くの企業が「AI人材の育成」を経営課題として認識し始めています。そして、2026年2月から人材開発支援助成金の対象範囲が拡大されることも事実です。研修会社や人材サービス会社からの「今がチャンス」という提案に、関心を持たれている経営者の方も多いのではないでしょうか。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。「AI研修なら何でも助成金の対象になる」というのは明確な誤解です。実際には、制度の本質を理解せずに安易に申請してしまうと、研修終了後に「助成金が支給されない」という事態に陥るケースが少なくありません。せっかく時間とコストをかけて研修を実施したのに、期待していた助成金が受け取れなかったら、企業にとって大きな損失です。

本コラムでは、助成金制度の正しい理解と、悪質な業者に惑わされないためのポイントを、中小企業経営者の皆様にわかりやすくお伝えします。



1. 助成金の本質を理解する:「AI研修」は要件ではない


<人材開発支援助成金の本当の目的とは>

まず、人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)が何を目的とした制度なのかを正しく理解することが重要です。

この助成金は、雇用保険法に基づき、企業が生産性向上のために行う計画的な人材育成を支援することを目的としています。つまり、単に「従業員に研修を受けさせたから助成金をください」という性質のものではなく、企業の経営戦略に基づいた、目的のある人材育成に対して支援するという制度設計になっています。

ここで重要なポイントが2つあります。


(1)職務に直接関連した専門的なスキルであること

助成対象となるのは、従業員の「特定の職務」に直結する専門的な知識・技能を習得するための訓練です。法令上も「その職務に関連した専門的な知識及び技能の習得をさせるための職業訓練」と定義されており、「職務関連性」が最も重要な要件となっています。

逆に言えば、以下のような訓練は明確に対象外とされています。

・接遇・マナー研修

・一般的なパソコン操作

・日常会話レベルの語学研修

・意識改革やモチベーション向上を目的とした研修

・趣味・教養レベルの内容

これらは「職業人として広く一般に必要とされる知識・スキル」であり、「特定の職務に専門的に必要な知識・技能」ではないため、助成対象にはなりません。

つまり、「AIを学ぶこと」自体が助成要件なのではなく、「その従業員の職務において、AIに関する専門的スキルが本当に必要かどうか」が問われるのです。


(2)企業の計画に基づいた訓練であること

助成金を受けるためには、「事業内職業能力開発計画」という社内の人材育成計画を作成し、その計画に沿った訓練を実施する必要があります。この計画は、企業の経営戦略と連動し、「どの部門の」「どの職務に従事する従業員に」「どのようなスキルを」「いつまでに習得させるのか」を明確にしたものでなければなりません。

つまり、「面白そうな研修があったから参加させてみよう」という場当たり的な研修参加では、助成対象にはならないということです。企業としての明確な人材育成方針があり、その一環としての訓練であることが求められます。


<2026年2月改正のポイント:本質は変わらない>

2026年2月から施行される改正では、助成対象が「将来従事予定の職務」に関する訓練にも拡大されます。これまでは「新規事業の立ち上げ」や「業態転換」など、すでに決定している事業展開に関連する訓練が中心でしたが、今後は「3年以内の人事構想・育成計画に基づく、将来の職務に必要なスキル」も対象となります。

一見すると対象が大幅に広がるように見えますが、ここに誤解があります。「将来の職務」が対象になるからといって、「何でもOKになる」わけではありません。

改正後も、以下の本質的な要件は全く変わりません。

・職務関連性:訓練内容が、特定の職務に直接関連していること

・専門性:一般教養レベルではなく、専門的な知識・技能であること

・計画性:企業の人事構想・育成計画に基づいていること

つまり、「3年以内に従事予定の職務」であることを説明できなければならず、さらにその職務において専門的に必要なスキルであることを証明する必要があります。「いつか役に立つかもしれない」という漠然とした理由では認められません。

研修会社の中には「2月から対象が広がるので、AI研修なら何でも使えるようになります」と説明するところもあるようですが、これは制度の本質を理解していない、あるいは意図的に誤解を招く説明です。経営者の皆様は、こうした安易な説明に惑わされないよう注意が必要です。



2. 不支給となるAI研修の典型例

それでは、具体的にどのようなAI研修が助成対象外となるのか、そして逆にどのような場合が対象となるのかを見ていきましょう。


<対象外となるケース>

ケース①:全社員向け「AI入門セミナー」

「全従業員にAIの基礎知識を身につけてもらいたい」という目的で、全社一斉に「生成AIとは何か」「ChatGPTの基本的な使い方」といった入門セミナーを実施するケースです。

→ 不支給の理由:特定の職務に紐付いていない一般教養レベルの研修です。「AI時代に対応できる人材」という意識改革や啓発目的の研修は、助成金の対象外とされています。全従業員が一律に受講するという時点で、「特定の職務に専門的に必要」という要件を満たしていないと判断されます。


ケース②:汎用的な「ChatGPT活用術」研修

「業務効率化のために、ChatGPTを使えるようにしたい」という目的で、一般的なプロンプトの書き方や活用事例を学ぶ研修です。

→ 不支給の理由:ChatGPTのような汎用ツールの基本的な使い方は、「誰でも使える一般的なツールの操作方法」であり、専門的スキルとは見なされません。これは「一般的なパソコン操作」と同じカテゴリーと判断されます。職務に関わらず広く必要とされる汎用スキルは対象外です。


ケース③:経理部門の従業員が「AI画像生成」を学ぶ

「これからはAIの時代だから」という理由で、経理担当者にAI画像生成ツールの使い方を学ばせるケースです。

→ 不支給の理由:経理業務と画像生成技術の間に職務関連性がありません。「将来、広報部門に異動するかもしれない」といった曖昧な理由では、職務関連性の証明にはなりません。現在の職務、または明確に予定されている将来の職務に直接関連していることが必要です。


ケース④:「AI時代のビジネススキル」といったテーマの研修

「AI時代に求められるビジネスパーソンのマインドセット」「AIと共存する働き方」といった、ビジネススキル全般をテーマにした研修です。

→ 不支給の理由:これは意識改革やマインドセット形成を目的とした研修であり、具体的な職務遂行能力の向上を目的とした訓練ではありません。こうした研修は明確に対象外とされています。


<対象となるケース>

では、どのような場合が助成対象となるのでしょうか。


ケース①:生産管理部門の従業員が「AI予測モデル構築技術」を学ぶ

製造業の企業が、生産工程の自動化・最適化を目的としたDX推進を計画しており、生産管理担当者が需要予測や在庫最適化のためのAI予測モデルを構築する技術を学ぶケースです。

→ 対象となる理由:生産工程の自動化というDX推進(事業展開)が明確であり、生産管理という特定の職務において、AI予測モデル構築という専門的スキルが必要であることが証明できます。これは一般的なAI知識ではなく、その職務で実際に使う専門技術です。


ケース②:営業部門が「AIデータ分析による営業戦略立案」を学ぶ

営業戦略の高度化を図るため、営業データを分析し、顧客セグメンテーションや売上予測をAIで行うスキルを、営業企画担当者が習得するケースです。

→ 対象となる理由:営業戦略の高度化という事業展開が明確であり、営業企画という職務において、AIを活用したデータ分析という専門的スキルが必要であることが説明できます。単なる「データの見方」ではなく、AI技術を用いた高度な分析手法という専門性があります。


ケース③:カスタマーサポート部門が「自然言語処理を活用したチャットボット設計」を学ぶ

顧客対応業務の効率化・高度化のため、カスタマーサポート担当者が、自然言語処理技術を活用したチャットボットの設計・運用スキルを習得するケースです。

→ 対象となる理由:顧客対応のDX化という事業展開が明確で、カスタマーサポートという職務において、自然言語処理という専門的AI技術が必要です。単なるチャットツールの使い方ではなく、AIの仕組みを理解して設計・運用するという専門性があります。


<対象・対象外の判断基準>

これらの事例から見えてくる判断基準を整理すると、以下のようになります。


・対象者について

対象外となるのは、全社員一律で受講させる研修です。一方、対象となるのは、特定の職務に従事する従業員に限定した研修です。

・訓練内容について

対象外となるのは、AI入門や一般的な使い方を学ぶレベルの研修です。一方、対象となるのは、その職務に特化した専門技術を習得する研修です。

・事業との関連について

対象外となるのは、漠然とした「AI時代への対応」といった抽象的な目的の研修です。一方、対象となるのは、明確な事業展開計画に紐付いた研修です。

・職務関連性について

対象外となるのは、職務との関連が不明確または間接的な研修です。一方、対象となるのは、職務との関連が直接的かつ具体的に説明できる研修です。

・専門性について

対象外となるのは、一般教養レベルの知識を学ぶ研修です。一方、対象となるのは、専門的な知識・技能を習得する研修です。

重要なポイントは、単に「AI」という言葉が研修名についていればよいのではなく、「誰が」「どの職務で」「どのAI技術を」「どう使うのか」が具体的に説明できることです。



3. 悪質業者に騙されないためのチェックポイント

助成金を餌に、不適切な研修を売り込む業者が残念ながら存在します。特に、助成金制度の改正時期には、制度の詳細が確定していないことを利用して、誤解を招く営業活動が活発化する傾向があります。以下のような業者には十分な注意が必要です。


<こんな業者は要注意>

(1)職務分析なしに「AI研修なら助成金が使える」と断言する

貴社の事業内容、組織構成、従業員の職務内容を全く確認せずに、「AI研修なら助成金が使えます」「2月から対象が広がるので今がチャンスです」と断言する業者は要注意です。

前述の通り、助成金の要件は「職務関連性」が最も重要です。貴社の職務を理解せずに「使える」と断言することは、制度を理解していないか、意図的に誤解を招こうとしているかのどちらかです。

信頼できる業者であれば、まず貴社の事業内容、今後の事業展開計画、対象となる従業員の職務内容を詳しくヒアリングし、「この職務であれば、このような訓練が助成対象になる可能性があります」という提案をするはずです。


(2)汎用的なパッケージ研修を一律に提案する

多くの企業に対して同じ内容の「AI研修パッケージ」を提案し、企業ごとのカスタマイズがない業者も注意が必要です。

助成金制度は、企業の個別の事業展開や人材育成計画に基づいた訓練を支援するものです。企業A社の営業部門向けに設計された研修と、企業B社の製造部門向けに設計された研修では、当然内容が異なるべきです。

同じパッケージを一律に提案するということは、職務関連性を個別に検討していないということであり、そうした研修は助成対象として認められにくい可能性が高いです。

「弊社のAI研修パッケージは、多くの企業で助成金を活用いただいています」という説明は、一見信頼できそうに聞こえますが、実際には貴社の職務に合っているかどうかは別問題です。


(3)不支給リスクについて説明しない

「簡単に申請できます」「書類作成もサポートします」とメリットばかりを強調し、「どのような場合に不支給になるか」「どのような要件を満たす必要があるか」というリスクや条件について十分に説明しない業者は、非常に危険です。

助成金制度には、満たすべき要件が多数あります。例えば:

・訓練開始前に計画届を提出していること

・訓練時間が10時間以上のOFF-JT(通常業務を離れた訓練)であること

・訓練中も賃金が支払われていること

・出勤簿、賃金台帳などの証拠書類が揃っていること

これらの要件を満たさない場合、訓練を実施しても助成金は支給されません。また、2025年4月の改正により、訓練計画の届け出時点では簡易審査のみが行われ、本格的な支給審査は訓練終了後に行われるようになりました。つまり、「計画が受理された=助成金が確実にもらえる」ではないのです。

こうしたリスクについて誠実に説明せず、「絶対大丈夫です」「他社も皆やっています」といった曖昧な保証しかしない業者は避けるべきです。


(4)「実質無料」「キャッシュバック」などの不透明な条件を提示

「助成金を活用すれば実質無料で研修が受けられます」という説明や、「助成金が下りたら、その一部を弊社に還元してください」といった条件を提示する業者には特に注意が必要です。

助成金制度では、教育訓練機関から企業が何らかの金銭的利益を受け取ることにより、実質的な企業負担が大幅に軽減される場合、助成対象外となる可能性があります。厚生労働省のガイドブックでも、「広告料、紹介料、その他の経済的利益の供与を受けることにより、申請事業主の実質的な経費負担が大幅に軽減される場合は、助成対象とならないことがあります」と明記されています。

「実質無料」という甘い言葉の裏に、こうした不透明な金銭関係が隠れている場合、後から助成金が不支給になるリスクがあります。


(5)「助成金申請代行」を過度に強調する

「面倒な申請手続きは全て代行します」「書類作成は任せてください」と、申請代行サービスを過度に強調する業者も注意が必要です。

確かに、助成金の申請には多くの書類が必要で、手続きは煩雑です。しかし、申請手続きができることと、訓練内容が助成対象として適切であることは、全く別の問題です。

書類を完璧に作成できても、訓練内容が職務関連性を満たしていなければ不支給になります。申請代行の便利さばかりをアピールし、肝心の「訓練内容が貴社の職務に本当に必要か」という本質的な部分の検討が不十分な業者は、本末転倒です。


<信頼できる業者の見分け方>

では、どのような業者が信頼できるのでしょうか。


(1)貴社の事業展開や職務を詳しくヒアリングする

信頼できる業者は、まず貴社の現状と将来の方向性をしっかりと理解しようとします。

・現在の事業内容と今後の事業計画

・組織構成と各部門の役割

・対象となる従業員の具体的な職務内容

・現在の課題と目指す姿

・人材育成に関する方針

こうした情報を丁寧にヒアリングした上で、「貴社のこの事業展開であれば、この職務の方に、このような訓練が必要ですね」という提案をしてくれます。


(2)カスタマイズされた訓練プランを提示する

貴社の経営戦略や人材育成計画に沿った、オーダーメイドの訓練プランを提案してくれます。既製のパッケージをそのまま当てはめるのではなく、貴社の職務に合わせて内容を調整・カスタマイズする姿勢があります。

例えば、「御社の生産管理部門のDX推進計画に合わせて、需要予測に特化したAI技術の訓練カリキュラムを設計しましょう」といった具体的な提案です。


(3)不支給リスクや要件について誠実に説明する

メリットだけでなく、満たすべき要件や、どのような場合に不支給になるかというリスクについても、誠実に説明してくれます。

「この訓練は助成対象になる可能性が高いですが、最終的な審査は訓練終了後に行われます」「事前に労働局に確認することをお勧めします」といった、慎重かつ誠実なアドバイスがあります。


(4)社会保険労務士などの専門家と連携している

助成金の申請には、労働関連法規の専門知識が必要です。信頼できる業者は、社会保険労務士などの専門家と連携しており、法的に適切なアドバイスができる体制を整えています。

「詳細な要件については、提携している社労士に確認しましょう」といった提案があるのは、信頼できるサインです。


(5)長期的な関係構築を重視する

目先の研修販売だけでなく、貴社の人材育成全体を長期的に支援しようという姿勢があります。「今回の訓練の効果を見て、次のステップを一緒に考えましょう」といった、継続的なパートナーシップを重視する姿勢は、信頼できる証です。



4. 正しい助成金活用のために

助成金は、適切に活用すれば企業の成長を力強く後押ししてくれる有用な「手段」です。しかし、助成金ありきで研修を選ぶのは本末転倒です。本来の目的を見失わないことが重要です。


<まず考えるべきこと>

助成金の活用を検討する前に、まず以下のことを明確にしましょう。


(1)貴社の経営戦略で本当に必要な人材育成は何か?

助成金の有無に関わらず、貴社の成長のために本当に必要なスキルは何でしょうか。

・今後3年間で、どのような事業展開を計画していますか?

・そのために、どの部門の、どの職務に、どのようなスキルが必要ですか?

・現状と目指す姿のギャップは何ですか?

まず、この「本当に必要な人材育成」を明確にすることが最優先です。助成金は、その実現を支援してくれる手段に過ぎません。


(2)その訓練は従業員の職務に直結しているか?

検討している研修が、対象となる従業員の職務遂行に本当に必要なものか、冷静に考えてみましょう。

「流行っているから」「他社もやっているから」ではなく、「この人の仕事に本当に必要か」「習得したスキルを実際の業務でどう活かすのか」を具体的にイメージできることが重要です。

もし「何となく役に立ちそう」というレベルであれば、それは助成対象にならない可能性が高いです。


(3)専門家に事前相談する

助成金の活用を検討する際は、必ず事前に専門家に相談することを強くお勧めします。

・最寄りの労働局:

都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)では、助成金に関する相談を受け付けています。訓練計画を立てる前に、「このような訓練は対象になりますか?」と確認することができます。

・社会保険労務士:

助成金申請の専門家である社会保険労務士に相談することも有効です。貴社の状況を踏まえた適切なアドバイスを受けられます。

重要なのは、訓練計画を提出したからといって、助成金が確実にもらえるわけではないという点です。2025年4月の改正により、計画届の受理段階では簡易審査のみが行われ、本格的な支給審査は訓練終了後の支給申請時に行われるようになりました。

つまり、「計画が受理された=助成金確定」ではないのです。だからこそ、事前に専門家の確認を受け、不支給リスクを最小化することが重要です。


<助成金活用の正しいステップ>

正しい助成金活用の流れは、以下のようになります。


・経営戦略の明確化:今後の事業展開を明確にする

・必要スキルの特定:事業展開に必要な職務とスキルを特定する

・人材育成計画の策定:事業内職業能力開発計画を作成する

・訓練内容の検討:必要スキルを習得できる訓練を検討する

・専門家への事前相談:労働局や社労士に要件を確認する

・訓練実施者の選定:信頼できる研修会社を選定する

・計画届の提出:訓練開始前に必要書類を提出する

・訓練の実施:計画通りに訓練を実施し、記録を残す

・支給申請:訓練終了後、必要書類を揃えて申請する

この順序を守り、特に「専門家への事前相談」を省略しないことが、不支給リスクを避ける鍵です。



5.まとめ:助成金は「手段」、本質は「人材育成」

最後に、助成金活用における重要なポイントをまとめます。


<助成金活用の3原則>

(1)制度趣旨を正しく理解する

助成金は「職務に関連した専門的スキルの習得」を支援する制度です。「AI研修なら何でもOK」ではなく、職務関連性・専門性・計画性が本質的な要件であることを理解しましょう。


(2)安易な情報に惑わされない

「2月から対象が広がるので簡単に使えます」「AI研修なら確実です」といった甘い言葉に惑わされず、制度の本質を理解した上で判断しましょう。不確かな情報や誇大な営業トークには、健全な懐疑心を持つことが重要です。


(3)事前相談を徹底する

労働局や社会保険労務士などの専門家に、必ず事前に相談しましょう。「計画届を出したから大丈夫」ではなく、訓練内容が要件を満たしているか、専門家の確認を受けることが不支給リスクを避ける最善の方法です。


<避けるべき3つの落とし穴>

(1)職務との関連性が不明確な汎用研修

全社員向けのAI入門セミナーや、汎用的なChatGPT活用術など、特定の職務に紐付かない一般的な研修は、助成対象になりません。「誰が」「どの職務で」使うのかが明確でなければ、不支給になります。


(2)計画性のない場当たり的な研修参加

「面白そうな研修があったから」「他社もやっているから」という理由での研修参加は、企業の人材育成計画に基づいていないため、助成対象になりません。まず計画ありき、です。


(3)不支給リスクを説明しない業者の甘い言葉

「簡単に使えます」「確実に助成金がもらえます」といった、リスクを説明しない業者の言葉を鵜呑みにすると、後で大きな損失を被る可能性があります。誠実にリスクも説明してくれる業者を選びましょう。



おわりに

2026年2月の改正により、人材開発支援助成金の対象範囲は確かに広がります。これは、企業が将来を見据えた計画的な人材育成に取り組むことを支援するという、制度の趣旨に沿った前向きな改正です。

しかし、対象が広がるからこそ、制度の本質を正しく理解し、戦略的に活用することがより一層重要になります。目先の「助成金が使える」という言葉に飛びつくのではなく、まず貴社の成長に本当に必要な人材育成は何かを考え、その実現手段の一つとして助成金を位置付けることが大切です。

助成金は「目的」ではなく「手段」です。本来の目的である「企業の成長」「従業員のスキルアップ」「生産性の向上」を見失わず、制度を正しく理解し、信頼できるパートナーと共に、戦略的な人材育成に取り組んでください。

皆様の企業が、助成金を適切に活用しながら、持続的な成長を実現されることを心より願っています。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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