中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第52回

令和7年度 賃上げ支援助成金パッケージ:企業の成長と持続的な労働環境改善に向けて

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

令和7年度の概算要求において、厚生労働省は「賃上げ」を推進するための助成金制度を大幅に拡充する方針を打ち出しました。この助成金パッケージは、企業の生産性向上、正規・非正規の格差是正、そしてより高い処遇への労働移動を促進することで、労働市場全体の賃金向上を支援することを目的としています。これにより、中小企業をはじめとする事業主が従業員の待遇を改善し、持続可能な経営を実現するための強力な後押しとなります。


<生産性向上への支援:設備投資・人材投資による労働環境の改善>

・業務改善助成金

 この助成金は、事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げ、かつ生産性向上に資する設備投資を行った場合、その投資にかかった費用の一部を助成するものです。地域ごとの賃金格差にも配慮し、地域ごとの助成率区分を再編することで、各地域のニーズに応じた柔軟な支援が行われます。支援のタイミングや対象も見直され、さらに重点化される予定です。

・働き方改革推進支援助成金

 労働時間削減を目指し、外部の専門家によるコンサルティングや、生産性向上のための設備・機器の導入を行った企業に対して支援が行われます。この助成金では、現行の賃上げ率3%と5%に加え、7%以上の賃上げを実現した場合の支援が強化される予定です。これにより、さらなる賃金引き上げを行いやすい環境を整え、企業の働き方改革の推進を後押しします。

・人材開発支援助成金

 従業員のスキル向上を目的に、職業訓練や専門的な知識・技能を習得させるための研修を実施した企業に対し、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。訓練終了後、一定の賃上げを実現した場合には、賃金助成額が引き上げられ、企業が従業員の成長を促進しつつ、賃金向上を実現するための支援が強化されます。これにより、訓練によるスキルアップと賃金のベースアップが連動し、企業と従業員双方にとっての利益となります。

・人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)

 企業が雇用管理制度を改善するために、労働協約の締結や就業規則の作成・変更を行い、賃金規定や諸手当制度、人事評価制度などを導入し、離職率の低下を実現した場合に支給される助成金です。この助成金は、令和7年度から再開される予定であり、再開時には「人事評価改善等助成コース」と統合されます。さらに、賃上げを5%以上実現した企業には、加算措置も導入され、企業が賃金改善に取り組むインセンティブが高まります。


<正規・非正規の格差是正への支援>

・キャリアアップ助成金(正社員化コース)

 非正規雇用労働者を正社員へ転換し、従前よりも3%以上の賃上げを行った企業に対して支援が行われます。この制度は、非正規労働者の処遇改善と正規雇用への移行を促進し、労働市場における格差是正を目指しています。

・キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)

 非正規雇用労働者の基本給を3%以上増額改定し、その規定を適用した場合に助成される制度です。令和7年度からは、賃上げ率の区分が2区分から4区分へと細分化され、特に賃上げ率が6%以上の場合の助成額がさらに引き上げられる予定です。さらに、昇給制度を新たに設けた企業に対しては、1事業所あたり20万円(大企業の場合は15万円)の加算措置が創設され、従業員のキャリアアップと賃金改善が促進されます。


<まとめ>

これらの拡充された助成金制度は、企業が従業員の賃金を引き上げるための強力なサポートとなるとともに、正規・非正規の雇用格差を縮小し、より公平な労働環境の実現を目指しています。設備投資やスキルアップへの投資が直接的に賃上げに結びつき、企業の持続的な成長と従業員の満足度向上を促進するこの施策は、企業経営者にとって大きなメリットとなるでしょう。中小企業をはじめ、多くの企業がこれらの助成金を積極的に活用し、安定した労働環境を提供できるよう、早期の対応が求められます。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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