第19回
人材の確保・定着に活用できる助成金その4
一般社団法人パーソナル雇用普及協会 萩原 京二
これまでのコラムでは、雇用関連の助成金の概要と助成金を活用した具体的な人材戦略の構築方法として、「キャリアアップ助成金」や「特定求職者雇用開発助成金」の活用方法についてご紹介をして参りました。
本日は、「トライアル雇用助成金」について解説をします。
<トライアル雇用とは?>
トライアル雇用とは、安定的な就職が困難な求職者を、ハローワークなどの職業紹介事業者を経由して企業が3か月間試用雇用する制度です。企業は、助成金を受け取りながら求職者の適性や能力を見極められ、企業と求職者の双方が同意すれば、試用雇用から常用雇用に移行できます。
トライアル雇用制度は、雇用機会の創出や、早期就職の実現を図ることを目的として政府が行っている「雇用安定事業」の1つです。試用雇用の期間は3か月と定められているため、まず企業とトライアル雇用対象者が3か月の有期雇用契約を結びます。そして、雇用期間終了後に両者の合意があれば、期間の定めのない雇用である「常時雇用契約」を結ぶ仕組みとなっています。
<トライアル雇用助成金の概要>
トライアル雇用助成金には「一般トライアルコース」と「障害者トライアルコース」の2種類があり、受給条件や受け取れる助成金の額が異なります。ここでは、「一般トライアルコース」について解説します。一般トライアルコースの対象となるのは、以下の条件のいずれかに当てはまる人です。
・紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や退職を繰り返している人
・紹介日の前日時点で、離職している期間が1年を超えている人
・妊娠や出産、育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で、安定した職業に就いていない期間が1年を超えている人
・生年月日が1968(昭和43)年4月2日以降で、かつ安定した職業に就いておらず、 ハローワーク等において担当者制による個別支援を受けている
・紹介日時点で、就職の援助を行うに当たって、特別な配慮を要する人(特別な配慮を要する人とは、生活保護受給者、母子家庭の母等、父子家庭の 父、日雇労働者、季節労働者、中国残留邦人等永住帰国者、ホームレス、住所喪失不安定就労者、生活困窮者をいいます)
企業はトライアル雇用の条件を満たす人を試用雇用することで、1人につき毎月4万円の雇用助成金(母子家庭の母または父子家庭の父の場合は1人につき毎月5万円)を受け取れます。
<トライアル雇用助成金を受給する流れ>
企業がトライアル雇用制度を利用するためには、ハローワークなどの職業紹介事業者とのやりとりが不可欠で、以下のような手続きになります。
(1)トライアル雇用である旨を記載した求人票をハローワークなど職業紹介事業者に提出する
(2)雇用が決まった場合は、トライアル雇用開始日から2週間以内に「トライアル雇用実施計画書」を作成し、対象者を紹介したハローワークに提出する
(3)トライアル雇用期間終了日の翌日から2か月以内に「トライアル雇用結果報告書」「トライアル雇用奨励金支給申請書」を労働局に申請
(4)トライアル雇用期間が終了したあとに、トライアル雇用奨励金が一括で支給される
なお、トライアル雇用の途中で常時雇用契約に移行したり、自己都合で離職したような場合も、ハローワークに連絡する必要があります。また、トライアル雇用助成金を受け取るためには、トライアル雇用終了日の翌日から起算して2か月以内に、事務所を管轄するハローワークまたは労働局に、支給証明書を提出することとなっています。
<まとめ>
トライアル雇用助成金とは、就職が難しいと思われる人を3か月試用雇用することで、企業が受け取れる助成金を言います。トライアル雇用制度を活用すると、企業は助成金を受け取りながら自社に合う人材を探すことが可能になります。なお、トライアル雇用をして助成金を受給しても、トライアル雇用期間終了後に雇用をする義務はないことを補足しておきます。そういう意味では、人材不足で悩む企業にとっては、検討に値する制度ではないかと思います。
プロフィール
一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二
1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。
Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会
- 第33回 経営課題は「現在」「3 年後」「5 年後」のすべてで「人材の強化」が最多
- 第32回 退職代行サービスの増加と入社後すぐ辞める若手社員への対応
- 第31回 中小企業の新たな人材活用戦略:フリーランスの活用と法律対応
- 第30回 「ホワイト」から「プラチナ」へ:働き方改革の未来像
- 第29回 初任給高騰時代に企業が目指すべき人材投資戦略
- 第28回 心理的安全性の力:優秀な人材を定着させる中小企業の秘訣
- 第27回 賃上げラッシュに中小企業はどのように対応すべきか?
- 第26回 若者の間で「あえて非正規」が拡大。その解決策は?
- 第25回 「年収の壁」支援強化パッケージって何?
- 第24回 4月からの法改正によって労務管理はどう変わる?
- 第23回 4月からの法改正によって募集・採用はどう変わる?
- 第22回 人材の確保・定着に活用できる助成金その7
- 第21回 人材の確保・定着に活用できる助成金その6
- 第20回 人材の確保・定着に活用できる助成金その5
- 第19回 人材の確保・定着に活用できる助成金その4
- 第18回 人材の確保・定着に活用できる助成金その3
- 第17回 人材の確保・定着に活用できる助成金その2
- 第16回 人材の確保・定着に活用できる助成金その1
- 第15回 リモートワークと採用戦略の進化
- 第14回 「社員」の概念再考 - 人材シェアの新時代
- 第13回 企業と労働市場の変化の中で
- 第12回 その他大勢の「抽象企業」から脱却する方法
- 第11回 Z世代から選ばれる会社だけが生き残る
- 第10回 9割の中小企業が知らない「すごいハローワーク採用」のやり方(後編)
- 第9回 9割の中小企業が知らない「すごいハローワーク採用」のやり方(前編)
- 第8回 中小企業のための「集めない採用」~ まだ穴のあいたバケツに水を入れ続けますか?
- 第7回 そもそも「正社員」って何ですか? - 新たな雇用形態を模索する時代へ
- 第6回 成功事例から学ぶ!パーソナル雇用制度を導入した企業の変革と成果
- 第5回 大手企業でも「パーソナル雇用制度」導入の流れ?
- 第4回 中小企業の採用は「働きやすさ」で勝負する時代
- 第3回 プロ野球選手の年俸更改を参考にしたパーソナル雇用制度
- 第2回 パーソナル雇用制度とは? 未来を切り開く働き方の提案
- 第1回 「労働供給制約社会」がやってくる!