第29回
「減税か給付か」が最大の争点になる日本の選挙
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
東京都議選が終わり、参院選が近づいてきた。これに伴い、新聞やテレビなどでも選挙に向けた報道を目にする機会が増えてきた。報道の関わり方やSNSの台頭など、新たな話題も多い最近の選挙。しかし半面で投票率の低下は深刻だ。特に若年層の投票率が低く、ただでさえ少ない若者の意見はますます政治に反映されにくいことだろう。そんな中だが、報道を見ていると次期参院選の争点はこのところの物価高騰対策で、具体的には「減税か給付か」といったあたりがクローズアップされている。
ここ数年、エネルギー価格や食料品の価格はだいぶ高くなった印象がある。昨年以降は猛暑や少雨などによる消費者物価指数上は除外されている生鮮食料品なども高騰したため、特にそう感じるのかも知れない。その対策として各政党などが打ち出した公約は、「減税か給付か」といった感じになっている。
というか、近年は地方選挙から国政選挙まで、こうしたタイプの公約が掲げられ、最も注目されるテーマになっているように思う。
ただ、物価高騰対策以外のテーマが争点になりにくいという点はちょっと心配ではある。
例えば静岡県内では、リニア中央新幹線の建設問題でもめた大井川流域市町でも、首長選ではリニア問題が争点になることはないし、中部電力が準備をすすめる浜岡原子力発電所の再稼働についても立地自治体の首長選では争点にならない。地元の理解が深まった結果としてそうなっているのならいいのだが。
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大きなテーマは他にある、というつもりはない。物価等の高騰は確かに大きなテーマだ。それは市民生活上の懸念にとどまらない。
静岡市は、市の文化施設の大規模改修が当初の予算では実現不可能になり、改修は最低限必要なものだけに見直した。同市が計画していた新たな海洋文化施設も、開業時期が遅れるとともに予算内に収まるよう計画の縮小が検討されている。
民間も大変だ。
静岡県は愛知県や大阪府と並ぶ国内トップクラスの“製造業大国”。そんな静岡のとある小規模メーカーの経営者は「年内に計画していた工場の改修を取りやめる」という。当初は、新しい設備を導入して効率化と生産能力拡大を進める考えだったというが、「資材の高騰に加え、中東情勢などもあって市場の先行きが見通せないから」という。海外市場にも製品を供給する同メーカー経営者は“攻め”よりも“守り”のタイミングだと判断したようだ。折からの物価高騰に加え、トランプ関税やイランの問題などもある。業種にもよるが、慎重姿勢はもっともである。
静岡市中心街の飲食店の店主は、店舗やメニューをリニューアルし、これを機に値上げするという構想を延期するという。「お客さんの節約意識が高まっており、今じゃないなと思ったから」だという。「仕入れ価格や人件費が上がりこのままではじり貧だが、金利も上がっていきそうで、借金して投資するのは怖い」とも。こちらも慎重だ。
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そんなことで、物価高騰はいろいろ大変だ。筆者も単身赴任の一人暮らし。食糧費と光熱費の上昇をひしひしと感じる。コメをはじめ、飲料やタマゴ、野菜などいろいろなものの価格が上がっている。収入は一定なので、対抗策はより安いものを買うとか量を減らすといった選択肢しかない。ただ、そういう選択肢をみんなが選ぶようになると、消費とか、さらには景気の先行きも心配だ。収入次第では、そうした選択肢が選べず死活問題になる場合だってある。
そういう意味では、最強の物価高騰対策は物価の上昇を抑えたり、上昇分をどう補填するかではなく、物価上昇を上回る収入を上昇させることだ。そうなのだが、そのための方策がなかなかイメージできない。
石破茂首相は、2040年に名目GDPを1000兆円に、平均所得は現在から5割以上引き上げるとの目標を掲げ、参院選の公約にもするという。その具体策には興味がある。なにかいい案があるのだろうか。というか、「減税か給付か」ではなく、“GDPを1000兆円”かどうかも含め、そうした経済再生の具体策こそこれからの国政選挙の最大の争点になるべきものだと思うのだが。
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