第37回
EV化で増える電力消費と不安な電力供給
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA

埼玉県内にある一戸建ての自宅を建て直して14年になるのだが、外壁や住設などが古くなり、補修が必要になってきた。そこで、補修を検討してみたのだが、その過程でこの10年そこそこの期間の変化を改めて感じた。
自宅を新築したのが東日本大震災直後の2011年の秋だったということもある。当初は春に完工する予定で進めてきたのだが、震災が起きたことから設計を大幅に修正し、半年間遅れたのだった。震災があった3月には地盤改良や工事躯体などが終わっていたものの、住設などはこれからという段階。当時は復興需要の高まりで資材も高騰していた。
当初はオール電化を軸に設計したのだが、当面はエネルギー源の多様化が必要になると考え、キッチンやバスルーム関係はガス式に変更した。バスルームの暖房・乾燥設備は電気式だが、更衣室の暖房もガス式だ。
福島第一原発の事故に伴い全国的な原発の停止が予想され、電力のひっ迫に伴う先行きの電気料金にも不安があった。ただ、照明は蛍光灯式が中心で、一部に電熱線式も残る。すでにLEDランプは登場していたが、1個あたり数千円と高価で、次期修繕時に変更することにしていた。
その修繕にいよいよ取り組む。
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しかし、この苦肉のドタバタ設計変更のせいで、見た目に反して構造は複雑怪奇なものになっている。しかも、法的には長屋と呼ばれる玄関から2系統になっている二世帯住宅で、親世帯と子世帯は契約する電力会社や電話会社も異なる。
今回の補修は設計士と施工した建築会社が手掛けるために、複雑でもなんとかなりそうだ。とはいえ、将来的なことを考えると、少し整理したほうがいいようにも思える。ただ、依然としてエネルギー源などは絞り切れない状況だ。というのも、将来的な電力事情が予想できない。とりあえず、次期改修まではこの複雑怪奇な状態を続けたほうがいいのだろうか。そんなことを思うのだった。
そんな中で、将来を予見して設備しつつ、まだ一度も活用していない設備があった。駐車場部分の電気自動車用電源だ。
充電ポートなどは設置していないが、次に車を買い替えた際はEVになるかも知れない、と考え200ボルトの配線を立ち上げておいたのだ。ちなみにその後買い替えた車もガソリンエンジン車だ。でも、次はEVかも知れない。ということで、このEV充電に備えた細工はそのまま保全するのだが…
そんな自宅修繕の傍らで、筆者は引き続き静岡に住んでいる。10月から4年目に入った。静岡は埼玉県南部と違って車がないと生活できないエリアが非常に多い。この半年は、伊豆半島東部の伊東市によく行くのだが、こういうところは特にそうだ。
静岡でもたまにEVを見かける。ただ、埼玉に帰った際との感覚的な比較では、静岡のほうがまだまだ少ない。静岡よりも伊東のほうが見かける印象だが、その多くは東京や神奈川のナンバーで、要は観光客なのだろう。
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静岡では、これまでの人生で最も長時間、かつ頻繁に車を使っている。そんな自動車生活だから思うのだが、EVを使う上での最大の不安は電池切れ。というか、バッテリー残量が少なくなった際の充電だ。
コンビニなどにも充電器が置かれていることを考えると、“どこでも充電できる”ようにはなってきた。ただ、その充電に長い時間を要する。ガソリンを給油するようなわけにはいかない。地方にはまだまだ急速充電に対応する設備は少ないと感じる。
でも、EVを使ってみたいとは思う。その理由は最新の運転支援などが安全面でよさそうだし、機能面でも便利そうだからだ。なんなら自動運転がいい。そういう最新機能はEVに限ったものではないが、EVの方が親和性もあり実装されるケースも多いだろうし。
ネックは地方に強力な充電インフラがないことや充電に時間がかかることだ。あと少しして現役を引退したら、EVを使いたい。アクセルとブレーキを間違えても事故にならないような、安全装置があるものにしたいところだ。
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しかし、日本では現在、大半の車が化石燃料で動いている。これらが急速にEVに替わると電力は大丈夫なのだろうか。国内の自動車保有台数は6000万台を超える。「2035年には新車販売をすべてEVに!」という国の目標が実現すると、その後はイヤでも自動車の電動化は加速していくことだろう。そのインパクトは想像以上に大きい。
家庭などでも使われる普通充電器の出力は5~10キロワットだとか。エアコンや電子レンジが1~3キロワットであることを考えると、なかなかの大きさだ。仮に15年後、保有台数の5%にあたる300万台程度がEVになるとどうなるのだろう。
5キロワットが300万台あるとしたら、なんと1500万キロワット。これらを同時に充電することはないとしても、普通充電は8時間以上はかかるというから、均等に分散していたとしても同時に3分の1程度が充電している計算だ。だとしても500万キロワット。これは原発5基分にあたる大きさだ。
原発20基以上の廃炉が決まるなか、今後15年の間に新設される電源はどれほどになるのか。省エネも進むし、人口も減る。それにしても計算は合わない。
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