第34回
地域でもめるメガソーラー建設計画
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
メガソーラーと呼ばれる大規模な太陽光発電所の建設計画がもめている。
計画地となった地域では地元住民とのトラブル事例もよく耳にするようになった。市民が建設に反対し、自治体が対応しようにも、ベースとなる規制法のような法律がないため、強制力のある条例等も作れない。観光地などでは、メガソーラーができることで景観が台無しになるといったケースもあるだろう。しかし、国はそんなこと知ったこっちゃない感じだ。地域や地元との調整など、設置条件を求める声もあるが、そうした対応は今のところ自治体に丸投げされている。
そんなメガソーラーだが、この種の再生可能エネルギーなどと呼ばれるものの多くは、脱炭素に向けた火力への依存抑制や東日本大震災に伴う福島第一原発事故後の原子力依存の低下もあり、なんなら将来の主力電源にでもする勢いで増えてきた。このエネルギー安全保障というか、エネルギー選択の議論もまたソーラーを含む再生可能エネルギーにはつきものだ。
ただ、そうした一次エネルギーの選択の問題と、全国各地で起きているメガソーラー問題には一見すると接点は見えない。
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しかし、各地にメガソーラーの建設が計画された背景には、再生可能エネルギーの利用を拡大しようという基本計画や、その実現を促すための再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)が大きく関わっている。
学歴詐称問題で揺れる伊東市の田久保真紀市長の発言にも度々登場する静岡県伊東市の「伊豆高原メガソーラー計画」も、再エネ賦課金が投入して発電した電力を固定価格で買い取る「FIT制度」をあてにした事業を目指している。
この計画は、現市長の田久保氏も参加していた市民グループの強い反対運動に端を発し、田久保氏の前の市長の時代に1000平方メートル以上の太陽光発電所を設置する際に市長の同意を必要とする市条例も制定している。
とはいえ、規制法のようなベースとなる法律等がないため、条例には罰則規定を設けることができなかった。つまり、この条例では市民や市長の反対があってもメガソーラーの建設を実効的に防ぐことはできない。それでも建設計画が事実上停止しているのは、計画地に資材を運ぶために必要となる経路の確保や降雨時などの計画地の排水設備ができないためだ。
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計画地の側には川が流れている。事業者は、この川に橋や排水口を設置しようと市に河川法上の河川占用の許可を申請。対する市は、河川法には裁量の余地があることから不許可とした。これを不服とした事業者は、不許可の取り消しを求めて市を提訴。一審で市は敗訴した。控訴審(二審)でも市の主張は棄却されたが、河川の占用許可については「裁量権の範囲の逸脱又はこれを濫用した違法はない」との判断が示され、実質的には市が勝訴した形になった。
伊豆高原のメガソーラー計画は、この本筋ではない河川法上の規制で停止することになったのだった。河川占用が不許可になっていることに伴い、計画地の排水ができないことから森林開発の許可も下りないということで、計画は停止の状態が続いている。
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事業者は、この事実上の“歯止め”となっている河川占用の不許可の取り消しを求めて提訴しており、裁判が続いている。なんともスッキリしない状況もあり、市の関係者からは国が適切な規制を設けるべきだとの声が聞かれる。これは伊東に限らず、全国のメガソーラー問題を抱える自治体に共通した声だ。
伊東市の関係者はFIT制度の「事業計画認定」にも注目している。市は、メガソーラー計画が条例に違反している旨を関東経済産業局に通知。これを受けた経済産業省は、事業者にFIT法に基づく改善命令を出した。現在は、係争中の案件もあることからこの命令は取り消されているが、メガソーラー問題ではこのFIT制度上の認定や指導に期待する声が強い。認定が取り消されると、作り出した電力を固定価格で買い取ってもらえなくなる。自家用や制度外での売電という選択肢はあるが、事業の幅は大きく狭められることになる。
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資源に乏しい日本では、エネルギーの多くを海外に依存している。その中核は一次エネルギーの8割以上を占める石油などの化石燃料だ。温室効果ガスの抑制に向け原子力や再エネへのシフトが求められている。
とはいえ、原子力の依存度を上げる取り組みはそう容易ではない。だからこその再エネ促進であり、そのためのFIT制度だが、立地で起きる問題は自治体に丸投げの状態が続く。
整合性のとれた議論のためにも、エネルギーのベストミックスといった安全保障とともに、立地における紛争解決を含めたルールづくりが求められている。そうしたルールづくりが遅れれば、再エネの拡大という選択肢は将来的には大きく狭められることになるだろう。
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