第11回
大災害時代、備えは普段から
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
静岡市に住んでちょうど2年。2年ぐらいになると、いろいろとわかることも多い。地理も頭に入るし、慣れもある。それでも依然として気分的に慣れないのが海だ。
人生のほぼすべてを埼玉で過ごしてきたため、海は身近な存在ではなかった。その点、静岡は海と山が近い。
海が嫌いなわけではない。むしろ好きで興味もある。ではなぜか。津波が怖いのだった。
今年8月8日、これからお盆期間に入るというタイミングで日向灘を震源とし、宮崎県南部で最大震度6弱を観測した地震が起きた。この震源地が「南海トラフ」という海底の溝のようなところだったことから、気象庁は同日夜、南海トラフ地震が発生する可能性が平常時より高まっているとして、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を発表した。
南海トラフ地震は知っている。昔から「近いうちに必ずくる」とよくいわれてきた大地震のこと。発生した場合のシミュレーションを基にしたテレビ番組も観たことがある。
この地震が発生した場合、人口規模が大きいこともあるが、静岡は甚大な被害を受けると予測されている。
ただ、臨時情報というのは一体何なのか。もちろん即座に調べ、2017年に制度ができたことや、今回が初の発表であること、いくつかある警戒レベルの中で「注意」は一番下のランクであることが分かった。要は、通常よりも巨大地震が起きる可能性は高いということだ。そこで思うのだが、新しくできた警報の名前がよく分からない。
この2年、静岡は過去最悪クラスの水害に2度も見舞われた。その際にも特別警戒とか避難指示とか、いろいろな警報が発せられた。これもなかなか難しい。
加えて、静岡の市街地では避難指示のエリアが学区で示される。これでは地元の学校に通ったことがあるか、子供が通っているということでもなければわからない。単身赴任者にとっては、その都度「ここは大丈夫なのか」と思う。
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ただ、恐怖感という点では南海トラフ地震である。
普段、近くの漁港でくつろいだり、魚を食べたりしているが、いつも大津波がきたらどうしよう、と考えている。視界には津波避難タワーがいつもある。埼玉県民からすると、その光景自体が物々しいとも感じる。慣れてはきたが、東日本大震災の現場をみたこともあり、やはり根底では落ち着かない。
なにせ、静岡県では近くの漁港あたりでも十数メートル、県内の一部では30メートル級の津波がくるとされる。しかも、到達までの時間はわずか10分程度だ。地震があったらあのタワーに行こう、と考えながら海を楽しむことになる。
その点、地元の人は落ち着いている。というか、麻痺しているのかもしれない。津波浸水域で、高齢者に「子供のころからくるくるといわれてきたが、全然こないよ」といわれることも多い。
南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)は、1週間続けられた。これも不思議な話だ。なぜ1週間なのか。1週間にはなんの科学的根拠もないのだという。
巨大地震が発生する可能性は依然として高い状態なのだろう。少なくとも、日向灘で南海トラフでぶつかり合うプレートの一部がずれ、そのひずみが溜まっているとしたら…
注意喚起は解除されたわけではないのだ。
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南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が出た1週間は、海水浴場を閉鎖した地域もあり、宿泊予約のキャンセルも相次いだ。東海道新幹線も減速運転だった。時を同じくして、台風がきた。折からのコメ不足もあった。このため、スーパーの店頭からはコメはもちろん水などもきれいに姿を消した。
静岡県は、この南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)についての県民意識調査(8月23日から9月10日にかけて実施)結果を発表したが、この中に備蓄についての項目がある。
7日間以上の飲料水を備蓄していた人は、昨年には13.5%だったが、今年初頭の能登地震後には22.1%に向上。しかし、今回(臨時情報時)は15.1%に低下している。
それもそのはずた。そもそも店頭に無いわけだし、ネット通販で購入しても台風その他の事情で届かないのだ。その前に備えておけ、という話ではある。気が付いた時はすでに遅いと痛感した。
ちなみに水は、臨時情報がでた翌日の午前中までは多くの小売店で見かけた。SNSなどで「水がない」という書き込みが増えると、突如取り付け騒ぎとなり、午後にはもうどこにも無い、という状態に。しかも、その後1週間無いままとなった。
「富士山の上に地震雲が出ている」みたいなフェイク情報も合わせ、緊急時のデジタル情報は考えもんだ。とにかく平常時に準備するしかない。今は水もコメも店頭にある。
もっとも、今は平常時というか、今なお可能性は高い状態なのだが。