第39回
グローバル化で変化した“国産”
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA

安全保障の観点から、中国製の電子機器を日本製などに切り替えるべきだとの議論がある。実際に、社用の携帯端末やパソコンを日本メーカー製に切り替えた、という企業も少なくない。
しかし、日本メーカー製とはいえ、日本製は極めて少ない。もはや日本は、自国で使用する電子機器でさえ十分に国内生産できていないということになる。もっとも、スマートフォンやドローンなどは中国が全世界生産の7割以上を占めている。輸入品だらけだという状態は世界共通だろう。こうした話は統計からも読みとれるため、認識している人も多い。
まあ、個人的に使うものは、機能すればよし、便利ならよし、価格が安ければなおよし…という選択をするのは当然であり、日本も高度経済成長期には同様の展開で多くの市場を席巻していた。
国際的にみれば人件費も中途半端に高く、人口減少で市場は縮小するし、十分な人手の確保も難しくなってきた。大規模なモノづくりを行うには、厳しい環境だということだろうか。
でも、日本メーカーは海外に工場を移し、生産活動を続けている。企業として成長しているところも多い。円安だということもあるが、大規模製造業者の業績は悪くない。
反面で、自国での生産が少ないことから、円安は物価高につながりやすい。これを機に国産回帰というのもいいが、人手不足は大きな障壁。AIやロボットによる自動化はできても、世界が自国優先主義化する中で輸出はリスクにもなる。
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とはいえ、よく探しても日本製があまりない現状は心情的には複雑だ。以前から輸入に頼ってきた食材や食品、燃料などのエネルギー資源はまだわかるのだが、調べてみると〝こんなものまで?〟という分野がたくさんある。
例えば、仏壇は輸入品が7割以上とも8割以上ともいわれる。輸入元は約半分が中国とか。神事に欠かせない榊に至っては国内で流通しているものの9割程度が中国からの輸入だという。
食品だと産地を気にする人も多いが、こうしたものはそもそも表示がないことも多い。試しにスーパーの店頭にあった榊の産地を聞いてみたが、店員は「わからない」とのことだった。後日、スーパーの経営者に会った際に聞くと「静岡市葵区産」とのこと。かなり貴重な国産だったが、これは静岡のような産地ならではのことだろう。
こうした産地の話は、掘り下げるとますます悩ましい。農業分野には肥料が欠かせない。その肥料の三大要素とされる窒素,リン、カリウムは、大半を輸入に頼っている。国産の比率が高い産品でも、種や農薬まで国産にこだわるともはや見つからないのではないか。
日本は牛乳の自給率が100%だ。でも、エサの自給率は全体では25%とされる。粗飼料と呼ばれる牧草類などは8割近く自給できているが、トウモロコシや大豆を原料とする濃厚飼料は9割を輸入に頼っている。国産といってもいろいろあるのだ。
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先日、静岡県焼津市にある水産加工会社の経営者に話を聞いた。ここにも〝国産〟をめぐる異変があった。
焼津といったらカツオやマグロ、その他の魚も豊富だ。焼津港は国内有数の巨大漁港で、水揚げ量も国内最大級。おのずと、それらの加工品産業が発展している。鰹節や練り物、ツナ缶…。市内にはさまざまな加工工場が立地する。生産品には和食に欠かせないものが多い。焼津で水揚げされ、焼津で加工された産品は高価だが、消費者の人気も高い。
反面で、そうした商品の生産現場は極度の人手不足に見舞われている。かつては中心的労働力だった〝地元のおばちゃん〟は姿を消し、かわって現場を支えているのは技能実習生や特定技能の外国人。話を聞いた企業では、工場の作業員の半数が外国人とのことだった。
同社の商品は、焼津にあがったカツオを焼津で加工した純焼津産で、商品も典型的な和食。ただ、作っている人の半分は日本人ではない。
鮮度を保つ技術が高まり、魚の捌き方も変わった。依然として手作業が多く熟練を要する現場だが、部分的には機械も活用しており、伝統的な加工技術が試されることもないとか。現場をみて、イメージしていたものとのあまりの違いに驚かされた。
〝国産〟といっても、実にいろいろある。同時に、日本のモノづくりの現場は一様に苦労している。こまったことだ。
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