企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第38回
企業×地域×学校──共創型キャリア教育モデル ~地元の若者たちに「世界と繋がる選択肢」を届ける~
株式会社aubeBiz 酒井 晶子
将来の進路を考える時に、必ず出てくる問いが、
「どんな仕事をするか(What)」
「どこで働くか(Where)」
「どんな働き方をするか(How)」
です。
とくに地方で育つ子どもたちや学生にとっては、
「どこで働くか(Where)」=「地元に残るか、外に出るか」
という根本的な問題の比重が、都心の若者と比べて大きいと言えるのではないでしょうか。
地方の過疎化と中央集中という二極化が進む日本において、若者の地方離れの問題は常に深刻ですが、よく耳を傾けてみると、心から望んで都会へ出ていく若者ばかりではないようです。
地元は好きだけれど、自分のやりたい仕事があるだろうか。
あるいは、都会で刺激を受けながら働いてみたいけれど、いずれは戻ってきたい。
そんな揺れ動く気持ちを抱えながら、多くの若者が「働く場所」を求めて地域を離れていく現実があります。
これまで、キャリア教育の現場では「地元企業を知ること」や「都会の大企業を目指すこと」が主な選択肢として示されてきました。
しかし、今の時代には「第3の選択肢」があるはずです。
それは、大好きな地元にいながらにして、オンラインというインフラを使い、日本中、あるいは世界中の企業と肩を並べて働くという生き方です。
私たちaubeBizは「物理的な距離に縛られず、好きな場所にいながら、やりたい仕事に挑戦できる」という新たな働き方の選択肢を、教育の早い段階から若者たちに提供したいと考えています。
単にITスキルを習得するだけでなく、新しい働き方に関する知識、情報、そして事例を知る機会を通じて、若者たちが自らの人生を主体的に切り拓く力を身につけることを願っています。
地域で感じる若者たちの「本音と渇望」
これまで、いくつかの地域で、学生や若者を対象とした講演会や講座に登壇させていただきました。
講演では、テレワークの現状と将来性、具体的な仕事内容、誠実な連携を支えるオンラインコミュニケーションなどを中心にお話しすることが多いのですが、参加される若い方々の意欲の高さには、いつも感銘を受けます。
「本当に、ここにいたまま東京の仕事ができるんですか?」
「今からどんなことを学んでおけばいいですか?」
具体的な質問が出るのは、それだけ自分ごととして、真剣に選択肢の一つとして考えている証です。
彼らの問いかけの奥にあるのは、「地元で暮らし続けたい、でも自分の可能性も試したい」という切実な思いや希望、そして不安、渇望です。
その想いを受け止め、彼らの大きな選択をサポートするための機関や仕組みが必要だと感じています。
インターンシップで体験する「プロとしての空気感」
こうした実感をもとに、aubeBizでは2025年に「リモートではたらく」を体感する1週間のインターンシップを実施しました。
このプログラムにおいて、私たちは単に『パソコンの使い方を教える』時間は一分も使いませんでした。
業務に必要なツールやアカウントについては、全て事前に動画マニュアルや手順書を渡し、自分たちで「仕事ができる環境」を整えてから参加してもらいましたが、誰1人つまずくことなく、しっかり準備した上で参加してもらうことが出来ました。
これは、私たちが普段からテレワークに必要な
・その通りにやれば誰でもできる手順書のようなマニュアル
・分かりやすいショート動画マニュアル
などを活用しているためですが、学生の方も、いえむしろ若い世代だからこそ、難なくクリアしてくれたと感じています。
インターンシップ期間中に私たちが大切にしたのは、実際の業務の流れの中に身を置いてもらうことです。
アバター動画の編集や、デザインツール「Canva」を用いた画像制作、さらにはExcelでのリサーチ業務。
これらを、すべてチャットツールを通じた指示と報告で進めてもらいました。
最初は「承知しました」の一言だけだった返信が、数日経つと「承知いたしました。本日15時までに仕上げ、共有させていただきます」といった、相手の状況を先回りして安心を届ける言葉に変わり始める。
その小さな変化の中に、一人のプロとしての責任感が宿り始める瞬間を、私たちは何度も目にしてきました。
「どこにいても、自分はチームの役に立てる」
この手応えこそが、キャリア教育における最大の成果ではないでしょうか。
スキルは努力次第で向上させることができます。
しかし、「自分ならできる」という自己効力感は、実際の業務経験を通して他者から評価されることによって育まれるものなのです。
地域・企業・学校の「共創」による循環
こうした取り組みは、経営の視点から見れば、一見すると手間のかかる社会貢献活動のように映るかもしれません。
しかし、私たちはこれを、極めて戦略的な「共創」の形だと捉えています。
学校は新しい働き方の視点を提供し、自治体はテレワークを推進するインフラを整え、企業は実務を通じた育成を担う。
この三者が手を取り合うことで育ったデジタルリテラシーの高い若者たちは、卒業後、多様な形で地域の力となっていきます。
都会での経験を経て地元の良さを再発見する「Uターン人材」となる人。
自ら「起業」して、新しい価値を地域に生み出す人。
そして、「公務員」となり、行政の内側から地域の未来を支えていく人。
進む道は三者三様ですが、彼らの中には「場所にとらわれず、どこにいても誰かの役に立てる」という、確かな手応えが共通して息づいています。
特に、行政組織において彼らが果たす役割には、大きな期待を寄せています。
それは決して、今ある仕組みを否定することではありません。
これまでの歴史の中で地域が積み上げてきた信頼の上に、新しい時代の知恵をそっと重ねていく。
そんなしなやかな変革の担い手になってほしいのです。
「地元を捨てなくても、世界と繋がって仕事は変えられる」
それを実体験として知っている人が地域に点在している状態こそが、私たちが描きたい持続可能な地域の循環です。
子どもたちが「選べる」社会の実現
私たちが目指すのは「10万人の仕事創出」と、それによって子どもたちが笑顔になれる社会です。「ここには仕事がない。だから出ていかなければいけない。」という諦めにも似た覚悟ではなく、「ここにいたいから、この場所で世界と繋がる」という前向きな意志を持って進路を選べること。
その選択肢が一つ増えて欲しいと思っています。
教育という名の「種まき」を地域と共に進めることは、巡り巡って、私たちの組織そのもの、さらには日本を豊かにしてくれます。
経営者として、これほど手応えのある投資は他にないのではないでしょうか。
たとえ将来、彼らがどのような立場になったとしても、このインターンシップで得た「自分はどこにいても、自律して誰かに貢献できる」という自信は、変化の激しい時代を生き抜くための一生ものの財産になると信じています。
次回は持続可能な地域経済圏──テレワークでつくる共創エコシステム
教育で育った人材が、いかに地域経済を回していくのか。 自治体・企業・住民が相互に価値を生み出し続ける、循環型の「地域共創エコシステム」の形について深掘りします。
プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
- 第38回 企業×地域×学校──共創型キャリア教育モデル ~地元の若者たちに「世界と繋がる選択肢」を届ける~
- 第37回 二拠点生活(デュアルライフ)とテレワーク──移住・関係人口の新しい形
- 第36回 BCPとBPO──災害に強い企業の新常識
- 第35回 働き方とウェルビーイング──幸せが生産性を高める理由
- 第34回 人材流動化の時代に「選ばれている会社」は何をしているのか? 〜給与でも制度でもない、“最後に見られているもの”〜
- 第33回 地域リーダーが拓く未来──ローカル・テレワーク・パートナーの力 〜企業と地域をつなぐ「新しいハブ人材」という選択肢〜
- 第32回 生成AIとBPOの未来──AI時代の“人と組織”の役割とは? 〜AIが当たり前になる時代に、企業やビジネスパーソンは何を強みにするのか〜
- 第31回 “全国採用”の時代──人材不足を突破する採用戦略 〜「求職者が来ない」から「選ばれる会社」へ、発想を切り替える〜
- 第30回 中小企業のDXとテレワーク──小さな一歩からの業務改革 〜属人化をほどき、手の届く範囲から未来志向の仕組みづくりへ〜
- 第29回 観光とワーケーション──“訪れる人”を“関わり続ける人”へ 〜テレワークだからできる、新しい関係人口づくり〜
- 第28回 BPOアワードから見えた未来──“外注”ではなく“共創”が、人材不足を超えていく~受賞社の取り組みが示す、これからのBPO活用の正解~
- 第27回 ダイバーシティとテレワーク──多様性が生むイノベーション 〜“働きづらさ”を“戦力化”へ変える、新時代の仕事づくり〜
- 第26回 自治体の挑戦──テレワーク推進政策の最前線 〜「施策」を現場で回す“仕組み”の作り方〜
- 第25回 教育とテレワーク──地域で育てる次世代キャリア 〜「地元で働きたい」を仕組みにする、教育×テレワーク〜
- 第24回 農業×テレワーク──デジタルで広がる“第六次産業化”の可能性 〜“つくる”と“伝える”をつなぐ、新しい地域のかたち〜
- 第23回 地方と企業をつなぐ“BPOモデル”の進化 ──自走型チームが地域経済を動かす 〜“任せる”から“共に創る”へ。地域BPOが生み出す新しい共創のかたち〜
- 第22回 「地方創生テレワーク」の進化形──自治体×企業×住民で生み出す『ローカル・テレワーク』 〜地域の人・企業・文化が輝く、循環型の“しごと生成エコシステム”〜
- 第21回 自治体・企業・住民でつくる 地方創生テレワーク推進モデル 〜“点”で終わらせない、持続可能な三者連携とは?〜
- 第20回 「“よくわからない”を乗り越える──テレワーク導入Q&A」 〜不安を解消し、最初の一歩を踏み出すために〜
- 第19回 「“社会貢献企業”としてのテレワーク導入」 〜採用力とブランド力を高める組織戦略〜
- 第18回 「“自走できる人材”を育てるマインドと環境づくり」 〜指示待ち型から“目的を理解し、動ける人材”へ〜
- 第17回 「“信頼される会社”の条件──テレワーク時代の組織文化とリーダーシップ」 〜制度や仕組みを超えて“信頼”を築く組織の土台とは〜
- 第16回 生成AIとテレワーク ──中小企業が直面する“AI格差”を乗り越えるには?
- 第15回 「地域×テレワーク」──地方創生ローカル・テレワーク 〜地域企業と地域人材のハブとなる地域リーダーの創出〜
- 第14回 「“個の力”を最大化するチームづくり──テレワークでも成長・定着する組織のつくり方」 〜孤独・疎外感を防ぐコミュニティ型組織づくりの工夫〜
- 第13回 「“副業・複業人材”を活かす!兼業社会における新しい雇用戦略」 ── 多様なキャリアが交わる“パラレルワーカー”活用の可能性
- 第12回 「“スキマ時間”を活かす働き方──ワークシェアリングという選択肢」
- 第11回 「成功するテレワーク採用」 〜離れていても成果を出す組織づくりのヒント〜
- 第10回 「“全国から採用する時代”へ!採用戦略の発想を切り替えるヒント」 〜テレワークが生み出す“新しい雇用のかたち”〜
- 第9回 「BPOとBCP」―― 有事の際の事業継続に備える新常識
- 第8回 ーDX化の第一歩となる業務改革ー「属人化を防ぐ仕事の仕組み化」
- 第7回 完全テレワークでも離職率5%未満を実現するチームづくりの秘訣 〜組織の土台を支える“仕組み”と“信頼文化”のつくり方〜
- 第6回 成長戦略としてのBPO活用法 〜“外注”にとどまらない、企業の柔軟性と競争力を高める選択肢〜
- 第5回 「テレワークは難しい?」──よくある誤解と“うまくいかない理由”を解きほぐす
- 第4回 地域で働く、地域を支える──「ローカル・テレワーク」という新しい仕組み
- 第3回 地方に眠るチカラを活かす!「地方創生テレワーク」の可能性
- 第2回 眠れる働くチカラ 「働きたいけれど働けない」潜在労働力を社会へ
- 第1回 これからの時代に選ばれる働き方とは? ― 少子高齢化・人材不足を乗り越える組織づくりのヒント