井上達也の誰も言わないIT・DX裏の話

第13回

間違った決算書ができてしまうシステムの誘惑

株式会社フリーウェイジャパン  井上達也

 

 起業家向けの動画(※)を始めて一年が経ちました。その中で起業したい人やフリーランスの人の悩みや困ったことにアドバイスを行ってきました。その様々な質問の中には「えっ!?それはダメでしょ」というものがいくつか含まれています。

 それは「便利な会計ソフト」です。

本題に入る前に「会計システム業界」の区分についてお話します。

会計システム業界を大雑把にわけますと「主に税理士向け」「主に企業向け」に分かれます。主に税理士向けと言われるメーカーが、TKC・フリーウェイジャパン・JDL・MJS他といった会社です。その他は、主に企業向けのシステムです。

 ここで問題にしたいのは企業向けの中でも「スマホで撮るだけで経理が出来ます」という会社のシステムです。起業家やフリーランスの中にはCMを鵜呑みにして写真だけ撮って経理ができるのだと思い込んでいる人もいます。ある税理士の所に、起業したての社長が来たそうです。社長は「経理は自分でやっているので、申告だけやってください」と言います。では早速、と言って税理士は決算書を見て驚きました。なんと売上がないのです。社長に確認すると「えっ経理ってレシートをシャメで撮ったらデータ化されると聞いたんですけど、それじゃダメなんですか。試算表も元帳も作れましたよ」と社長から聞き返されたそうです。会計ソフトは入れたデータを忠実に試算表、決算書にします。間違っていてもデータが足りなくてもこうした帳票が印刷されます。そして、あたかも正しいもののように出来上がるのです。


 この税理士は、売上や支払い、銀行通帳からようやく決算書を作りました。その時に、嫌な予感がしました。もしかしたらレシートのデータも間違っているかもしれない。社長からレシートを預かり一枚一枚チェックしていくと、コンビニで買った食べ物やボールベンが「荷造包装費」になっていたり、金額が間違っていたりとメチャクチャです。結局全て入力し直して、ようやく税務申告が完了したそうです。

 今やAIが発達し、OCR画像を読み取って領収書やレシートをきちんとデータ化できる時代になったとお思いでしょうが、なかなか上手く行かないのが実情です。レシートの真ん中にハンコが押されていたり、ボールペンで書き込みされていたりするものもあります。加えてインボイス番号という新たに間違えやすい数字も書かれています。画像データから100%間違わずにデータを読み取るということは、将来的にも難しいでしょう。


 さて、ここで言いたいのは、こういう「誰でも簡単にできる」という謳い文句や「間違った決算書を作れてしまうシステム」は排除せよ。という事ではありません。私の知り合いの社長に、こういうソフトはダメなんですよ。と言っても「社員が便利だって言うし」と使い続ける社長もいます。実際のところ、小さな個人事業主の所に税務調査はほとんど来ませんし、間違っていると言っても何十万円も間違っているわけでもありません。たとえ会議費が通信費になっていても税金は変わりません。全部のデータをチェックすれば(その方が時間はかかると思いますが)こういった「簡単に誰でもできる会計ソフト」でも正しい決算書が作れるのは事実です。

 全く結論も落ちもない話で恐縮ですが、ユーザーが喜ぶのであれば、ここまでひどいものでなければ、こういうソフトを作ってもありなのかもしれないな。と思う今日この頃です。自分自身で申告するなら自己責任ですし。悩ましいところです。

※起業を考えたら必ず読む本:動画版

https://www.youtube.com/@%E8%B5%B7%E6%A5%AD%E3%82%92%E8%80%83%E3%81%88%E3%81%9F%E3%82%89%E5%BF%85%E3%81%9A%E8%AA%AD%E3%82%80%E6%9C%AC


 

プロフィール

株式会社フリーウェイジャパン
代表取締役 井上 達也

株式会社フリーウェイジャパン代表取締役。クラウドシステムの会社としてユーザー数は34万社を超える。著書に「小さな会社の社長の戦い方」「起業を考えたら必ず読む本」などがある。


Webサイト:株式会社フリーウェイジャパン

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