穏やかなることを学べ

第36回

銀行に問う!儲けをもっと国民に還元せよ ~空前の最高益を中小企業や家計支援に~

イノベーションズアイ編集局  編集アドバイザー 鶴田 東洋彦

 

時価総額日本一のからくり

いきなり堅い話で恐縮だが、今月13日の東京株式市場で、三菱UFJフィナンシャルグループの時価総額がトヨタを抜いて日本一になった。その金額は約42兆円超。「歴史的な出来事」「主役交代」のようなニュースの扱いだが、そんなに騒ぐような話だろうか。おそらく、日本株市場で金融株が買われた結果、起きた短期的な出来事に過ぎない。むしろ金融株が過分に物色される背景、つまり金融機関の“もうけ過ぎ”の方を問題視すべきではないかと思う。

確かに、1980年代後半には日本興業銀行や住友銀行、富士銀行といった金融機関の時価総額が上位を独占、以来、約40年振りの事だから、ニュースになるのは分かる。某紙には「自動車や素材、ハイテクなど“モノ作り企業”が長らくトップにいた時代の流れから、金融が主役になる象徴的な転換点だ」とあったが、これは極端すぎるのではないか。

別にトヨタを擁護するわけではないが、トヨタの業績が急激に悪化したわけでもなく、依然として日本を代表する優良企業であることは間違いない。端的に言えば、日本株市場で、製造業よりも「金利の恩恵」を受ける金融株が相対的に物色される傾向が強まって、その結果として順位が、おそらく短期的に入れ替わっただけの話だ。問題は、むしろその「金利の恩恵」の中身について、メディア出身の人間が言うのもおこがましいが、もっと突っ込むべきではないか。

3メガバンクで純利益が5兆円を突破!

2026年3月期決算を見てみよう。すでに報道されている通り、メガバンクと呼ばれる3銀行は全て、過去最高益を更新している。三菱UFJフィナンシャルグループが2兆4272億円と初めて2兆円を突破したのを筆頭に、三井住友フィナンシャルグループが約1兆7000億円、みずほフィナンシャルグループが約1兆5000億円と、3行揃って1兆円を突破している。ちなみにこの水準は2027年3月期にはさらに高まる見通しである。

3行だけで純利益が5兆円を突破するというのも、正直、ちょっと現実離れした数字に映るが、ゼロ金利時代に青息吐息だった地方銀行の方も息を吹き返している。地方銀行協会によると、地銀97行の3月期決算の純利益の合計は約1兆8000億円。前年度の4割増という計算になる。

もちろんその背景には日銀の利上げ効果がある。基本的な話で恐縮だが、この利上げによって、金融機関の貸出金利と預金利回りの差である「利ザヤ」が拡大したからだ。日銀は先月の金融政策決定会合で政策金利の「誘導目標」を0・75%から1%程度に引き上げることを決定した。結果的に政策金利は約31年振りの高水準で推移している。この金利政策が、結果的に金融機関の歴史的とも言える純利益を生み出しているのだ。

低空飛行続く預金金利

これに対して、我々の日々の生活のインフラとも言える預金金利の方はどうだろうか。前述したメガバンク3行の普通預金金利は横並びで0・3%、定期預金は1年間の預金で0・4%、10年物でも0・9%でしかない。地銀やネット銀行では、これに多少上乗せした水準の金融商品を提示しているが、突出した預金金利とは言い難い。メガバンク3行に多少上乗せした水準である。

逆に貸出金利の方は、各金融機関とも引き上げの一方である。例えば住宅ローン。固定金利型の住宅ローンは昨年8月からほぼ毎月近く上昇、今月の10年固定の基準金利は金融機関によって差はあるものの、平均2・5から3・5%にまで跳ね上がっている。「フラット35」など全期間固定の住宅ローンも2%台後半から3%台。これで預貸率を計算したら、銀行は儲かるのが当たり前のことだ。

もちろん3メガをはじめ金融機関側にも言い分はある。ゼロ金利時代が長期に続いたことで、支店やATMの統廃合が進んだことも確かだし、窓口業務圧縮によるネット、アプリなどへの移行で人員削減や早期退職募集を余儀なくされた銀行も多々ある。利息収入だけで人件費や店舗コストを賄えない実情、投資信託や保険などの販売手数料で食いつないできた現実も理解は出来る。

ただ、そうした状況を踏まえても“金利のある時代”に戻った今、預金金利は低すぎるのではないか。3メガは来月8月から日銀の利上げを受けて普通預金の金利を0・1%引き上げて0・4%にすると発表しているが、兆円単位の純利益を計上している状況を踏まえると、あまりにも低すぎないか。

貸出金の原資が不足気味に

むしろ預金金利の水準を抑え過ぎていることで、貸し出しの“原資”となる預金が集まらず、3メガなどは貸出金が預金を上回る勢いで伸びて「貸したくても貸せない」状況に陥りつつあるという。すでに2024年に新NISA(少額投資非課税制度)が始まったのを契機に「貯蓄から投資へ」という動きも加速し、金融機関が市中から預金を集める環境も激化しているのだ。

現在、日本の家計の金融資産残高は約2300兆円(日銀・資金循環統計による)の水準に達している。来月から普通預金金利が0・4%に引き上げられても、家計のプラスとなる金額はわずか9兆2000億円にしかならない。もちろん乱暴な計算ではあることは承知しているが、物価上昇に悩んでいる国民にとっては砂漠に水を撒くのに等しい。

この先、おそらく日銀は更なる利上げに踏み込まざるを得ないだろう。数度の介入が為替市場に見透かされている以上は、史上最悪とも言える円安の状況にブレーキをかけるには利上げしかない。そうなると利ザヤはさらに拡大、銀行の純利益は増え続ける。6月の日銀の利上げは3メガの利益を3000億円以上押し上げる効果があるという試算もある。

国民への還元は責務だ

もちろん、株式市場を金融株が押し上げるのは悪い事ではない。金融セクターが全体相場を形作っていけば、景気全体にとっても好循環だ。ただ、足元で物価高に苦慮している国民に目を向けるのも国のインフラとしての金融機関の役割である。

90年代のバブル崩壊後、不良債権塗れになった金融機関を救済したのは公的資金であり、国民の税金だ。バブル崩壊で金融機関の不良債権問題が深刻化、金融システム不安を払拭するため、当時の大手民間銀行21行に約1兆8000億円の公的資金が優先株などの形で投入されたのが1998年3月。「銀行のモラルハザードをなぜ国民の税金で救うのか」。当時、記者として日銀を担当していた身として、その思いは今でも拭い去れない。

青臭い言い方であることは百も承知している。その上で敢えて言いたいのは、だからこそ兆円単位の利益を何らかの形で物価高に苦しむ国民に還元するのが責務と思う。極論すれば、貸出金が預金を上回った結果、貸したくても貸せない状況は「身から出た錆び」のようなものだ。金融庁も座視することなく、今こそ中堅・中小企業や個人を含めた預金者全体への還元に金融機関を誘導すべきではないか。

 

プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集アドバイザー
鶴田 東洋彦

山梨県甲府市出身。1979年3月立教大学卒業。

産経新聞社編集局経済本部長、編集長、取締役西部代表、常務取締役を歴任。サンケイ総合印刷社長、日本工業新聞(フジサンケイビジネスアイ)社長、産経新聞社コンプライアンス・アドバイザーを経て2024年7月よりイノベーションズアイ編集局編集アドバイザー。立教大学、國學院大學などで「メディア論」「企業の危機管理論」などを講義、講演。現在は主に企業を対象に講演活動を行う。ウイーン国際音楽文化協会理事、山梨県観光大使などを務める。趣味はフライ・フィッシング、音楽鑑賞など。

著書は「天然ガス新時代~基幹エネルギーへ浮上~」(にっかん書房)「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)「記者会見の方法」(FCG総合研究所)など多数。

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