第14回
アサリを溶かす“恐怖の貝”。実はびっくりの美味! ~脇役のカサゴは白味噌仕立てで~
イノベーションズアイ編集局 編集アドバイザー 鶴田 東洋彦
え、こいつを食べるのか
全国、どこも漁港近くの市場を歩くのは楽しい。地元ならではの珍しい魚貝が並び、見るだけでワクワクする。北海道の尾岱沼(おだいとう)漁港で見たオオノガイ、敦賀湾の深海魚シャチブリなど、この紀行を始めて知った魚介類も多い。ただ、ちょっと驚いたのは「ツメタガイ」。ちょうど桜の花が散り終わる頃、香川県の西端、観音寺漁港近くの市場に並んでいたが「え、これ食べるのか」とびっくり。ということで、まずツメタガイの方をひとくさり説明してから、雑魚釣りということで勘弁願いたい。
実はこの貝、多くの人が海水浴場などで目にしたことがあると思う。殻はつるつるで光沢があり上半分が茶褐色、下半分が白っぽい巻貝で、丸くころんとした形は愛嬌もある。干潟や砂浜で普通に見つかる巻貝で、その光沢が子供には人気で「ああ、あの貝か」と頭に浮かんだ人も多いはずだ。
ところが、実はこいつが厄介者である。アサリやハマグリを襲って食べてしまう凶暴な巻貝で、アサリの養殖業者などからは目の敵(かたき)にされている典型的な“害貝”である。その食べ方が怖い。獲物を殻全体を包むような足で抑え込み、「歯舌」というヤスリ状の尖った歯を差し込んで獲物の殻に穴をあけ、歯先から酸性の液を出して中身を溶かして食べてしまうのだ。殻に直径数ミリの穴が開いたアサリや二枚貝を海岸で見かけたら、その穴がツメタガイに食べられた痕である。

アサリ養殖の“天敵”
そんな食性を知ってはいたが、まさかこの貝が食用になるとは思ってもいなかった。逆に「怖い毒を持つ貝」と思っていたほどである。ところが、漁港から少し離れたスーパーの鮮魚売り場にもこの貝が並んでいる。しかも、殻の直径が5、6センチもあるような大ぶりものが4つか5つほど籠に並んで、値段も300円と驚くほど安い。
売り場のおばちゃんに食べ方を聞くと、砂出しすれば煮ても焼いても美味しいとのこと。しかも、地元の観音寺や三豊市あたりでは「炊き込みご飯」にも入れたりして普通に食べられているらしい。ということで、雑魚釣りの前に早速、こいつを買い込んでクーラーボックスへ。「釣りがボウズでも、こいつがビールの肴になる」と、釣り場に着く前から、すでに半分逃げ腰である。というか気持ちがツメタガイの方に飛んでいる。
観音寺漁港に釣り人の姿なし

案の定、そんな逃げ腰の気持ちが雑魚たちにも伝わったらしい。観音寺の市内を抜けたところにある観音寺漁港には釣り人の姿もなく、妙にがらんとしている。この観音寺は、沖に浮かぶ伊吹島の周辺で採れるイワシを加工した「伊吹いりこ」が名産で、伊吹島行きの定期船乗り場近くの岸壁が釣り場のはずだ。観光案内にも、季節を問わず「カレイやアジ、キス、チヌ(クロダイ)など様々な魚が狙え、釣り人で賑わう」と書いてある。が、どうも勝手が違う。
近くで網の手入れをしていた漁師らしい人に聞いても「今は釣れんなあ。室本の方に行ってみたらどうや」とつれない返事。そこで、その言葉を信じて、車で20分ほどの場所にある観音寺市内の室本漁港に向かう。着いてみると、思った以上に大きな港で、隣にマリーナもあり釣れそうなポイントも結構ありそうだ。長く伸びた波止で、何人かが竿を出している。長めの竿で盛んに撒き餌をしているところを見ると、チヌ狙いらしい。「これはいけそうだ」と言い聞かせて、竿を2本出す。
とは言っても、チヌ専門の長竿や仕掛けは持っていない。小型のイワシに似せたペンシルべイトと言うルアーでも投げてみようかと思ったものの、よほど活性が高くなければチヌは来ないだろうと思い直して、6号のオモリを付けた天秤仕掛けに餌のゴカイを付けて20メートルほど投げて置き竿に。もう一本の竿は、ブラクリ仕掛けで堤防周りのゴロタ石の隙間を狙う。

やっとカサゴの姿が
しばらくブラクリでゴロタ石の隙間を狙っていると、置き竿にアタリが。軽いが何かが釣れている。上がってきたのは10センチほどの派手な縦じまのハゼ。指にしきりに噛みついてきた乱暴な性格からみて「イトヒキハゼ」では、と思ったが、食べられる魚ではないので、即、リリース。
その後、投げ竿の方は揺れもしない。ブラクリ釣りの方も、いっこうにアタリもなくあきらめかけていたところで、ようやく強い引き。20センチほどのカサゴである。香川県では関西と同じく「ガシラ」と呼ばれているが、隣の愛媛県での名前は「ホゴ」。何度も書いているが、本当に魚の名前はややこしい。
その後の、同じようなサイズのガシラが立て続けに5匹ほど釣れる。そのうちにイワシの群れが回ってきたので、サビキ釣りでもと思ったが釣具屋までが結構遠い上に、撒き餌のオキアミの処理も面倒くさい。波止を歩き回るのも疲れてきたこともあって「もういいや」ということで納竿。「ガシラは味噌汁か煮付け、ツメタガイも煮付けかな」。帰路に着く車中で思いながら、気持ちはもうビールに傾いている。
ツブ貝やバイ貝に負けぬ美味
ところで話はツメタガイに戻るが、たっぷりと水に浸して10分ほど塩茹でして殻から身を外し、酒、砂糖、醤油にショウガを加えてコトコト煮て食べたが、びっくりするほど美味だった。ツブ貝やバイ貝そっくりの食感で、とくにアサリなどを包み込む足の部分は柔らかく、酒の肴としては最高である。二日に分けて食べてみたが、煮てすぐ食べるよりも、少し時間をおいて二日目に食べた方が身に味が染みて一段と美味だった。
もっとも、この貝を食用にする地域は香川県の西側と、アサリ漁が盛んでこの“害貝”も大量に生息する三重県あたりだけらしいので、潮干狩りや海水浴でこの貝を見つけたら是非、味わって欲しい。あとから調べてみたが「酢味噌和え」や「バター焼き」、エスカルゴのようにオリーブ油とバター、ニンニク、パセリなどを乗せてオーブンで焼いても美味しいという。
ところで、肝心の雑魚釣りの主役であるカサゴの方はすっかり影が薄くなってしまったが、白味噌仕立ての味噌汁で食膳に。このカサゴと言う魚、日本全国で季節を問わずいつでも釣れる魚だが、煮ても焼いても、刺身でもどんな料理にしても本当に美味しいと思う。カサゴの名誉のために記しておく。

謎を秘めた「銭形砂絵」
ところで今回、訪れた観音寺市と言えば琴弾公園の「銭形砂絵・寛永通宝」でお馴染みの場所である。市の北側、有明浜の砂浜に描かれた巨大な寛永通宝の砂絵の大きさは、東西が122メートル、南北が92メートル、周囲がなんと345メートルもあり、一番の観光スポットである。釣りを終えてから、公園内の琴弾山山頂にある銭形展望台に行ってみると、海外を含め多くの観光客見下ろしている。確かに壮大で、一見の価値はある。

この砂絵、実は謎の場所だ。一説には江戸時代の寛永10年(1633年)に当時、藩主としてこの地を収めた生駒隆俊を歓迎するために、一夜で作られたという言い伝えが残されてはいるが、「誰がどのように作ったか」は今でもはっきりしないという。
ちなみに、今、手元にある観光案内を読むと、この銭形砂絵を見た人は「健康で長生きし、一生、お金に不自由することはない」とある。ツメタガイは是非、もう一度味わいたいが、砂絵の恩恵の方は、古希を迎えた今、これからもずっと続くことを願うばかりである。
プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集アドバイザー
鶴田 東洋彦
山梨県甲府市出身。1979年3月立教大学卒業。
産経新聞社編集局経済本部長、編集長、取締役西部代表、常務取締役を歴任。サンケイ総合印刷社長、日本工業新聞(フジサンケイビジネスアイ)社長、産経新聞社コンプライアンス・アドバイザーを経て2024年7月よりイノベーションズアイ編集局編集アドバイザー。立教大学、國學院大學などで「メディア論」「企業の危機管理論」などを講義、講演。現在は主に企業を対象に講演活動を行う。ウイーン国際音楽文化協会理事、山梨県観光大使などを務める。趣味はフライ・フィッシング、音楽鑑賞など。
著書は「天然ガス新時代~機関エネルギーへ浮上~」(にっかん書房)「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)「記者会見の方法」(FCG総合研究所)など多数。
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