企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第52回
孤独を防ぐデジタル・オアシス──リモート環境での「帰属意識」の作り方
株式会社aubeBiz 酒井晶子
人材不足が続く日本において、今、労働人口が僅かながら増えているというデータがあります。
その理由は、女性とシニアの活躍や、副業兼業人材の活躍です。
テレワークや業務委託、外部人材という形で、これまで「働けなかった」人たちが働ける環境が整いつつある。
これは、第48回から続いてきたこのシリーズで一貫してお伝えしてきたことと、直接つながっています。
その一方で、特にシニア層からよく聞かれるのが「リモートだとコミュニケーションが取れるか不安」という声です。
ITに不慣れなことへの懸念もありますが、それ以上に「実際に会わないで相互理解ができるか?」「仲間の一員でいられるか?」という人としての根本的な不安です。
労働力不足に対するもう一つの解決策である「AIの活用」には、シニアの経験値、実践知、判断力、決断力、人脈が非常に役にたつと考えます。
これからの時代の大事な戦力となるシニアの方々、そして女性、副業兼業人材の方々が安心できるリモート環境の構築は非常に大切なテーマだと考えます。
リモート環境でのコミュニケーションの不安は、設計で解消できます。
第48回から続いてきた「人的資本とウェルビーイング編」の最終回として、リモート環境で「ここが自分の居場所だ」という感覚をどう設計するか、を考えます。
孤独を感じない環境は、集中できる環境でもある
「リモート=孤独」という懸念は、就業形態の問題ではなく、設計の問題だと私たちは考えています。
孤独を感じない環境とは、「常に誰かと常につながっている」ような息苦しい環境のことではありません。
「必要なときに、いつでも誰かがそこにいる」という安心感がある環境のことです。
「孤独を防ぐ」と「集中できる環境をつくる」は、トレードオフではありません。
「今、聞いても大丈夫だろうか」という小さな不安がなくなるだけで、思考の質は変わります。
この安心感という土台があるからこそ、メンバーは目の前の業務に深く没頭できる。
適切なつながりの設計は、個人の生産性を最大化するための条件でもあるのです。
帰属意識は「偶然」ではなく「設計」で生まれる
対面で働く場合、組織への帰属意識はどこから生まれるのでしょうか。
廊下ですれ違いざまに交わす一言、ランチの席での他愛のない雑談、会議の前後のちょっとした目配せ。
こうした「偶発的なつながり」の積み重ねが、帰属意識の土台となります。
リモート環境では、この偶発性が自然には起きません。
意図しなければ業務上のやりとりだけが積み重なり、「仕事はしているけれど、ここに自分の居場所がある感じがしない」という状態が生まれやすくなります。
だからこそ、設計が必要になります。
偶然に任せていたものを、意図的に場として用意する。
たんにオンラインの会議を増やすというような「時間を取る」ものではなく、日常の導線の中に小さな接点を埋め込んでいくという、地道な積み重ねです。
aubeBizが実践してきた「つながりの設計」
私たちが長年のフルリモート運営の中で実践してきた日常の仕組みをご紹介します。
特別なイベントを単発で開くことよりも、日常の中にある「小さなつながりの設計」を継続することの方が、はるかに帰属意識が育ます。
業務外チャンネルの常設:chatworkやSlackなどのチャットツールに「#おはようございます」「#今日のひとこと」といった、業務に関係のない雑談を歓迎するチャンネルを設けています。
投稿は義務ではありません。
「そこに場がある」という状態をつくるだけで、自然にメンバーの日常や声が集まりはじめます。
週次の短い全体共有:成果報告の場ではなく、各メンバーが「今週よかったこと・気になっていること・困っていること」をカジュアルに一言ずつ話す時間を設けています。
議事録には残さず、話したら終わり。
この程よい緩さが、かえって本音を引き出しやすくします。
個別の近況確認(1on1):必要に応じて、キャリアサポート部や上司、先輩と近況を雑談形式で話す時間を設けています。
評価面談とは切り離し、ただ「最近どうですか」と聞くだけの場です。
この一対一の対話が、「自分のことを見ていてもらえている」という感覚につながっています。
これらはすべて、第46回でお伝えした「安心提供力」、第49回の「かも」が飛び交う場、第51回の「お互い様」の文化と地続きです。
帰属意識という土台の上に、これらすべての心理的安全性が成り立っています。
「誰かが見ていてくれる」「聞ける場所がある」という感覚は、テキストの一言でも、週一回の短い対話でも、十分に届けることができます。
デジタル・オアシスという発想
灼熱の砂漠を歩くとき、「次のオアシスまでたどり着ける」という確信があるからこそ、人は安心して歩き続けられます。
リモート環境におけるつながりの設計も、まさにこれと同じです。
デジタル空間の中に「ここに来れば誰かがいる」「ここにいると自分らしくいられる」とホッと一息つける場所を意図的につくる。
それが「デジタル・オアシス」という発想です。
形はなんでもいい。
チャットのチャンネルでも、週次のビデオ通話でも、マネージャーとの短い対話でも。
大切なのは、「必要なときに誰かがいる」という安心感が、日常の中に確かに存在していることです。
その安心感が、リモートチームの孤独を防ぎ、メンバーの深い集中力と、のびのびとした創造性を引き出す土台となります。
「人的資本とウェルビーイング編」を終えて
第48回からスタートした「人的資本とウェルビーイング編」も、今回で一つの区切りとなります。
第48回:場所の解放 = 物理的な制約を超えた、自由な働き方の実現
第49回:ウェルビーイングと生産性 = 心身の健康と、高いパフォーマンスの両立
第50回:シニア活躍 = 経験豊かな人材が、年齢に関わらず輝ける環境
第51回:ライフイベントとの共存 = 人生の転機(育児・介護等)をみんなで支え合う文化
第52回:帰属意識(今回) = デジタル上の居場所が生む、確かな安心感
一見バラバラに見えるテーマかもしれませんが、こうして振り返ってみると、すべてが次のステップへと繋がり、一つの問いに向かっていたように感じます。
「人が安心して、長く、自分らしく働ける組織を、どうつくるか」
この問いに、たった一つの絶対的な正解はないのかもしれません。
しかし、意図的に「設計」することはできます。
仕組みをつくり、文化を育て、小さな接点を日常に積み重ねていく。
そうした地道な営みの先に、ふと気づけば「ここが自分の居場所だ」と感じているメンバーが増えていること、それが私たちの願いです。
リモートワークは単なる効率化の手段ではなく、ウェルビーイングな組織をつくるための土台になり得ます。
次回からは新シリーズ【地域・越境・新キャリア編】へ突入します。
最初のテーマは、「複業」が地域企業を強くする──外部人材をチームに招き入れる極意
自社の枠を超え、外部の多様な才能を巻き込みながら組織を強くしていく、新しい時代のチームビルディングについて考えます。
プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
【著書】
『地域循環が生まれ、関係人口が育まれる ローカル・テレワーク®︎』
「働きたいのに、働けない」という原体験から生まれた本書は、移住・観光に依存しない新しい地域との関わり方を提唱。テレワークを活用して人と仕事をつなぎ直す「ローカル・テレワーク」を、15年以上の実践と下関市でのモデル構築をもとに体系化。自治体・企業・地域リーダーに向けた、再現性ある地域づくりの実務書です。Amazonランキング10部門で1位を獲得。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
- 第52回 孤独を防ぐデジタル・オアシス──リモート環境での「帰属意識」の作り方
- 第51回 「更年期・介護・病気」を隠さなくていい組織──ライフイベントを味方につける
- 第50回 AI活用とリスキリングでシニア人材が活躍できる組織へ──働き続けられる環境をつくる
- 第49回 ウェルビーイングを数字にする──「かも」が生産性を高めるエビデンス
- 第48回 人的資本経営の第一歩は「働く場所の解放」から始まる ──テレワークを福利厚生で終わらせない
- 第47回 経営者の右腕としてのAIとリモートチーム──「任せられる体制」は設計から始まる
- 第46回 AIに代替されない「安心提供力」の磨き方──オンライン時代の人間力
- 第45回 思考の余白をどう使うか ── AIによって生まれた時間を「関係性」に投資する
- 第44回 AI時代のマネジメント ──「管理」を捨て、「信頼」を設計する
- 第43回 マニュアル化はAI活用の鍵──仕組み化がAI活用の最短ルートである理由
- 第42回 「AI×テレワーク」で変わる、これからのBPO──スピードと「想い」の両立
- 第41回 生成AIは「作業」を奪い、「創造」を解き放つ──AI時代の共創パートナーシップ
- 第40回 未来を変える働き方──テレワークが導く「次の社会像」 ~自分らしく豊かに生きるための、新しい「組織」と「個人」のあり方~
- 第39回 持続可能な地域経済圏──テレワークでつくる共創エコシステム ~「外注」から「共創」へ。地域を動かす新しい経済の循環~
- 第38回 企業×地域×学校──共創型キャリア教育モデル ~地元の若者たちに「世界と繋がる選択肢」を届ける~
- 第37回 二拠点生活(デュアルライフ)とテレワーク──移住・関係人口の新しい形
- 第36回 BCPとBPO──災害に強い企業の新常識
- 第35回 働き方とウェルビーイング──幸せが生産性を高める理由
- 第34回 人材流動化の時代に「選ばれている会社」は何をしているのか? 〜給与でも制度でもない、“最後に見られているもの”〜
- 第33回 地域リーダーが拓く未来──ローカル・テレワーク・パートナーの力 〜企業と地域をつなぐ「新しいハブ人材」という選択肢〜
- 第32回 生成AIとBPOの未来──AI時代の“人と組織”の役割とは? 〜AIが当たり前になる時代に、企業やビジネスパーソンは何を強みにするのか〜
- 第31回 “全国採用”の時代──人材不足を突破する採用戦略 〜「求職者が来ない」から「選ばれる会社」へ、発想を切り替える〜
- 第30回 中小企業のDXとテレワーク──小さな一歩からの業務改革 〜属人化をほどき、手の届く範囲から未来志向の仕組みづくりへ〜
- 第29回 観光とワーケーション──“訪れる人”を“関わり続ける人”へ 〜テレワークだからできる、新しい関係人口づくり〜
- 第28回 BPOアワードから見えた未来──“外注”ではなく“共創”が、人材不足を超えていく~受賞社の取り組みが示す、これからのBPO活用の正解~
- 第27回 ダイバーシティとテレワーク──多様性が生むイノベーション 〜“働きづらさ”を“戦力化”へ変える、新時代の仕事づくり〜
- 第26回 自治体の挑戦──テレワーク推進政策の最前線 〜「施策」を現場で回す“仕組み”の作り方〜
- 第25回 教育とテレワーク──地域で育てる次世代キャリア 〜「地元で働きたい」を仕組みにする、教育×テレワーク〜
- 第24回 農業×テレワーク──デジタルで広がる“第六次産業化”の可能性 〜“つくる”と“伝える”をつなぐ、新しい地域のかたち〜
- 第23回 地方と企業をつなぐ“BPOモデル”の進化 ──自走型チームが地域経済を動かす 〜“任せる”から“共に創る”へ。地域BPOが生み出す新しい共創のかたち〜
- 第22回 「地方創生テレワーク」の進化形──自治体×企業×住民で生み出す『ローカル・テレワーク』 〜地域の人・企業・文化が輝く、循環型の“しごと生成エコシステム”〜
- 第21回 自治体・企業・住民でつくる 地方創生テレワーク推進モデル 〜“点”で終わらせない、持続可能な三者連携とは?〜
- 第20回 「“よくわからない”を乗り越える──テレワーク導入Q&A」 〜不安を解消し、最初の一歩を踏み出すために〜
- 第19回 「“社会貢献企業”としてのテレワーク導入」 〜採用力とブランド力を高める組織戦略〜
- 第18回 「“自走できる人材”を育てるマインドと環境づくり」 〜指示待ち型から“目的を理解し、動ける人材”へ〜
- 第17回 「“信頼される会社”の条件──テレワーク時代の組織文化とリーダーシップ」 〜制度や仕組みを超えて“信頼”を築く組織の土台とは〜
- 第16回 生成AIとテレワーク ──中小企業が直面する“AI格差”を乗り越えるには?
- 第15回 「地域×テレワーク」──地方創生ローカル・テレワーク 〜地域企業と地域人材のハブとなる地域リーダーの創出〜
- 第14回 「“個の力”を最大化するチームづくり──テレワークでも成長・定着する組織のつくり方」 〜孤独・疎外感を防ぐコミュニティ型組織づくりの工夫〜
- 第13回 「“副業・複業人材”を活かす!兼業社会における新しい雇用戦略」 ── 多様なキャリアが交わる“パラレルワーカー”活用の可能性
- 第12回 「“スキマ時間”を活かす働き方──ワークシェアリングという選択肢」
- 第11回 「成功するテレワーク採用」 〜離れていても成果を出す組織づくりのヒント〜
- 第10回 「“全国から採用する時代”へ!採用戦略の発想を切り替えるヒント」 〜テレワークが生み出す“新しい雇用のかたち”〜
- 第9回 「BPOとBCP」―― 有事の際の事業継続に備える新常識
- 第8回 ーDX化の第一歩となる業務改革ー「属人化を防ぐ仕事の仕組み化」
- 第7回 完全テレワークでも離職率5%未満を実現するチームづくりの秘訣 〜組織の土台を支える“仕組み”と“信頼文化”のつくり方〜
- 第6回 成長戦略としてのBPO活用法 〜“外注”にとどまらない、企業の柔軟性と競争力を高める選択肢〜
- 第5回 「テレワークは難しい?」──よくある誤解と“うまくいかない理由”を解きほぐす
- 第4回 地域で働く、地域を支える──「ローカル・テレワーク」という新しい仕組み
- 第3回 地方に眠るチカラを活かす!「地方創生テレワーク」の可能性
- 第2回 眠れる働くチカラ 「働きたいけれど働けない」潜在労働力を社会へ
- 第1回 これからの時代に選ばれる働き方とは? ― 少子高齢化・人材不足を乗り越える組織づくりのヒント
