企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第15回
「地域×テレワーク」──地方創生ローカル・テレワーク 〜地域企業と地域人材のハブとなる地域リーダーの創出〜
株式会社aubeBiz 酒井 晶子
前回は「コミュニティ型組織づくり」をテーマに、組織内のつながりについてお話ししました。
今回は視点を広げ、「地域」という舞台で私たちが目指す未来についてお伝えします。
「人がいない」問題に潜む、「人を活かしきれていない」現状
人口減少や、若年層の流出により地域経済が疲弊するなかで、どうしても「人がいない」という課題だけが着目されています。
しかし、実際には「せっかくいる人を活かしきれていない」ことの方が問題の根幹ではないかと感じます。
実際に過疎化地域と呼ばれる場所を訪れた際に、いつも感じることは、どの地域にも、素晴らしいスキルや経験を持ち、「この町で働き、暮らしたい」「この地域を元気にしたい」という強い想いを抱く人々が多数いらっしゃるということです。
せっかく「想い」のある素晴らしい人材がいるのに、「ここにいても活躍できない」という状況が、さらに人口流出に拍車をかけるのではないでしょうか。
人がいないという問題だけではなく、「地域に根差す人々の潜在的な力を十分に引き出せていない」ことも大きな課題なのです。
この非常にもったいない現状を打破する鍵こそ、私たちが提唱する「ローカル・テレワーク」です。
1. 地域が抱える厳しい現実
地方では、多くの中小企業や基幹産業である農業・観光業が、慢性的な人材不足に直面しています。若者の都市部流出が止まらず、地域の未来を担う人材の育成が困難な状況です。さらに、DX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れも深刻です。これにより、新たな販路開拓、効果的な情報発信、採用活動において、都市部の企業との格差が拡大する一方です。このままでは、地域の魅力や価値ある産品が埋もれてしまう恐れがあります。
2. 私たちが目指す、一歩先のテレワーク「ローカル・テレワーク」
「テレワーク」と聞いて多くの方がイメージされるのは、都市部の企業に勤める方が、満員電車を避けたり、感染症対策のために週に数回自宅で働くスタイルではないでしょうか。
コロナ禍を経て、都市部の「テレワーク導入企業」においては、この働き方は一般的になりつつあります。
また、内閣府が推進する「プロフェッショナル人材事業」では、都市部の大企業に在籍する人材が、出向や副業・兼業の形で地域企業の仕事に従事したり、経営課題解決を支援したりする仕組みがあります。
これを活用することで、地域企業はテレワークを通して都市部の優秀な人材の力を借りることも可能になります。
ITやWeb系のベンチャー企業やスタートアップ企業では、若い経営者を中心にテレワークが当たり前という企業も増加していますし、まだ少なくはありますが、「都市部の企業が、地方の優秀な人材をリモートで採用する」という動きも現れ始めています。
これらの動きは、働き方の選択肢を広げる素晴らしい一歩です。
しかし、これだけでは真の意味での「地方創生」にはまだ不十分だと私たちは考えます。なぜなら、仕事や利益や人材が都市部に集中したままでは、地域の企業が活力を持ち、地域全体で持続的な経済循環を生み出すことにつながりにくいからです。
私たちが提唱するのは、そのもう一歩先。
「地域の企業」が、同じ地域に暮らす「地域の人材」の力を借りて、共に成長していくこと。
これこそが、私たちが目指す「ローカル・テレワーク」です。
例えば、
・子育てや介護でフルタイム勤務が難しいお母さん
・長年の経験と知恵を持つシニア世代
・仕事さえあれば地元に残りたい学生
・新しい視点を持つ移住者の方
・本業や家業があるけれど副業をしたい方
このような方々が「大好きな地域を元気にしたい」という思いを持ちながら、テレワークを通じて地域の企業の「担い手」として活躍できる。
テレワークは難しいと感じていた企業も、「いざとなったら会える・顔が見える地元のテレワーカーとなら、地域活性化のために導入してみよう」と動き出す。
これにより、地域内で仕事と人材が繋がり、経済が循環し始める。
これこそが、地域に根差した持続可能なモデルであると私たちは考えています。
3. 自治体や企業が気づくべきポイント
地方創生テレワークを成功させるためには、自治体、地域企業、そして弊社のような外部企業が、それぞれの役割とメリット・課題を深く認識し、意識改革を進めていくことが重要だと考えています。
・自治体:人手不足や地域格差、女性活躍といった社会課題の解決や地方創生に直結するテレワークの可能性を理解していただくとともに、自治体が主体的に取り組むことが極めて重要であると感じています。
地域住民が抱く不安を払拭し、テレワークを成功させる鍵は、自治体による「安心感」の提供が不可欠です。
テレワーク講座や企業とのマッチングなどの取り組みは、単発で終わらせず、スキル習得後の就業支援やコミュニティ形成を含む、長期的なサポート体制を地域の実情に合わせて構築していくことが重要です。
その結果、「テレワークで仕事ができる地域」として、人々が移住・定住したくなるようなまちづくりを目指していただけると考えます。
• 地域企業:テレワークの導入は、人材確保、業務効率化、コスト削減、離職率低下、BCP対策、社会貢献など、多岐にわたるメリットをもたらします。一方で、導入へのハードルや、遠隔地に住む人材への業務委託に不安を感じる方も少なくありません。
その点、「毎日出勤は難しいものの、週1回や必要に応じて出社できる」そんな地域のテレワーカーは、より安心して業務を任せられるのではないでしょうか。ローカル・テレワークは、人材不足解消と地域貢献を両立させる有効な手段となります。
•外部企業:都心部の企業、とくに弊社のような人材活用ビジネスを展開する企業にとっても、地域の潜在労働力はとても魅力的です。
大切な人材を奪い合うのではなく、自分たちの持つノウハウや経験値をシェアし、自治体や地域企業とともに人材育成する、そんな時代が来ていると考えています。
ワークシェアリングなど柔軟な働き方を提案し、初心者や短時間就業希望者にも機会を創出することで、各地域課題に寄り添った伴走型支援と自治体連携を強化していくことができるようになり、より多くの人材が活躍できる場を広げることにつながると考えています。
4. 地域に寄り添う「ローカル・テレワーク・パートナー」の役割
「地域×テレワーク」を成功させるには、企業・住民・行政の間に立つ“ハブ”となるポジションが必要不可欠だと考えています。それが「ローカル・テレワーク・パートナー」です。私たちは、「地域を元気にしたい」と願う地域リーダー、経営者、起業家の皆様とパートナー提携を結び、弊社のテレワーカー採用・育成・マネジメント、オンラインBPO事業のノウハウを共有し、共に地域を活性化する取り組みを行なっています。
ローカル・テレワーク・パートナーの主な役割には、以下のようなものがあります。
地域テレワーカーの育成とコミュニティ創生
地域の個性や経験値に合わせたきめ細やかなサポートを行い、パソコン初心者でも安心して取り組める入門講座からスキル研修、そして学びと交流の場となるコミュニティ運営まで、テレワーカーが孤独を感じることなく成長できる環境を提供します。
企業の業務切り出し支援
地域の中小企業や第一次産業従事者が抱えるDX化や人材不足の課題に対し、高価なツールに頼らない「スモールDX」を提唱。業務の洗い出しやマニュアル化、地元テレワーカーによるワークシェアリングでの効率化・コスト削減を支援することで、地域企業が潜在労働力と繋がるきっかけを創出します。
「地元密着の人材活用プラットフォーム」の形成
働き手、企業、自治体、それぞれが抱える異なる悩みを解決し、信頼を軸に連携を強化します。
これにより、地域全体で人材を確保し、育成し、定着させるプラットフォームを築き、関係人口の創出や地域経済の活性化を目指します。
ローカル・テレワーク・パートナーは単なるボランティアではなく、BPO事業を通じて収益を生み出し、地域に貢献する持続可能なビジネスモデルです。
企業と住民、そして行政の間に立って、三者をつなぐ地域の“ハブ”としての役割を担うのです。
5. 私たちの実践と、仲間たちの広がり
私たちaubeBizは、2019年からこの「ローカル・テレワーク」の可能性を信じ、活動を続け、これまで約20名以上の企業や経営者、地域のリーダーの方々に向けて、講座や勉強会を通じて、具体的なノウハウを提供してきました。
今では、私たちの想いに共感してくださった心強い仲間が「ローカル・テレワーク・パートナー」となり、山梨、栃木、富山、長野、下関などで地域のリーダーとして活躍を始めています。
地域に住み、地域をよく知る人材や企業が「ローカル・テレワーク・パートナー」となることで、地元企業からは「長年の課題だった人材不足が解消し、諦めていた業務が進んだ!」と喜びの声が届き、地域で働く方からは「地元でキャリアを築けるのが嬉しい」という笑顔が生まれています。
この一つ一つの繋がりが、私たちの何よりの原動力です。
6. これから描きたい未来
私たちの夢は、全国の各地域にこの「ローカル・テレワーク・パートナー」というハブを育て、仲間としてつながっていくこと。そして、将来的には都市部のプロ人材の知見も借りながら、地域に新しいビジネスの種を蒔き、多様な雇用を生み出すことです。
地域の内と外で、人と仕事が温かく循環していく。そんな未来を、皆さんと一緒に描いていきたいと思っています。
三方よしの仕組みで地方創生の突破口を
地域の課題は、「人がいない」ことではなく、「人を活かす仕組みがない」ことです。ローカル・テレワークは、地域に眠る「人財」を再発見し、企業の力に変えていく持続可能な仕組みです。企業、住民、そして自治体、関わるみんなが笑顔になる「三方よし」のこの輪を広げることこそが、日本の地方創生における大きな突破口になると、私たちは信じています。
次回は「生成AIとテレワーク──中小企業が直面する“AI格差”を乗り越えるには?」
「AIは難しそう…」と感じていませんか? 実はBPOと組み合わせることで、驚くほど業務が効率化できます。中小企業が“AI格差”を乗り越え、人材不足を解消するためのヒントを、最新のBPO事例と共にご紹介します。
プロフィール
株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
- 第15回 「地域×テレワーク」──地方創生ローカル・テレワーク 〜地域企業と地域人材のハブとなる地域リーダーの創出〜
- 第14回 「“個の力”を最大化するチームづくり──テレワークでも成長・定着する組織のつくり方」 〜孤独・疎外感を防ぐコミュニティ型組織づくりの工夫〜
- 第13回 「“副業・複業人材”を活かす!兼業社会における新しい雇用戦略」 ── 多様なキャリアが交わる“パラレルワーカー”活用の可能性
- 第12回 「“スキマ時間”を活かす働き方──ワークシェアリングという選択肢」
- 第11回 「成功するテレワーク採用」 〜離れていても成果を出す組織づくりのヒント〜
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- 第9回 「BPOとBCP」―― 有事の際の事業継続に備える新常識
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- 第5回 「テレワークは難しい?」──よくある誤解と“うまくいかない理由”を解きほぐす
- 第4回 地域で働く、地域を支える──「ローカル・テレワーク」という新しい仕組み
- 第3回 地方に眠るチカラを活かす!「地方創生テレワーク」の可能性
- 第2回 眠れる働くチカラ 「働きたいけれど働けない」潜在労働力を社会へ
- 第1回 これからの時代に選ばれる働き方とは? ― 少子高齢化・人材不足を乗り越える組織づくりのヒント