企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第7回

完全テレワークでも離職率5%未満を実現するチームづくりの秘訣 〜組織の土台を支える“仕組み”と“信頼文化”のつくり方〜

株式会社aubeBiz  酒井 晶子

 

「テレワークだと、メンバーが孤立しやすくて…」
 「チームの一体感が薄れて、皆のやる気が下がっている気がするんです」

経営者仲間やお客様とお話していると、こうしたお声を耳にすることがあります。働く場所が自由になった今、組織のあり方そのものに迷いが生じやすい時期なのかもしれません。
 「テレワークは離職につながりやすい」という見解をお聞きすることもありますが、本当にそうでしょうか?

私たちaubeBizは、前進企業を含め創業から10年以上、全員がフルリモートで事業を続けてきました。
 ありがたいことに、これまでの離職率は5%未満。
 「テレワークだからこそ実現できた」と感じている、定着率の高い組織づくりの工夫をご紹介します。

「辞めさせない」ではなく、「ここにいたい」と思える場所へ

組織の離職率を下げたいと考えたとき、私たちはつい「どうすれば辞めたいと思わなくなるだろうか」という“防止策”に目を向けてしまいがちです。けれど、一番大切なのは、メンバー1人ひとりが「この会社で働き続けたい」と、心から自然に思える環境をつくること。
特に、姿が見えないテレワーク環境では、心理的安全性とエンゲージメントという“見えない土台”が、組織の生命線になります。

心のインフラとしての「心理的安全性」

まず、組織の土台となるのが「心理的安全性」です。
最近よく聞かれるワードですが、言うは易し。組織の「風土」として定着しているかが、本当に重要なポイントです。
「こんな初歩的な質問をしたら、無能だと思われないだろうか」
「反対意見を言ったら、和を乱すとかも」といった、対人関係における不安や恐怖を感じることなく、誰もが安心して自分の意見や素朴な疑問を口にできる状態。オフィスなら、相手の表情や空気感から「今、聞いても大丈夫そう」と判断できますが、テレワーク時のチャットなどでの文字のやり取りでは、相手の感情の機微が分かりづらく、「これで合っているのかな?」と、つい一人で抱え込んでしまうこともありがちです。だからこそ、テレワークにおいて心理的安全性は“心のインフラ”であり、「何を言っても、この組織やチームなら受け止めてくれる」という土壌が、人を孤立させず、前向きな挑戦を後押しする力になります。

組織と個人の“両想い”である「エンゲージメント」

心理的安全性を土台に育つのが、エンゲージメントです。よく「従業員満足度」と混同されがちですが、満足度が“受け身の状態”なのに対して、エンゲージメントは「この組織に貢献したい」と“能動的に関わる姿勢”を指します。これは、会社と社員が互いに期待し合い、影響を与え合う“両想いの関係”と言えるかもしれません。
とくにテレワークでは、このつながりが弱くなると「業務と報酬の交換」というドライな関係に陥り、帰属意識が薄れてしまいます。
誰かに管理されているから仕事をするのではなく、このチームが好きだから、この仕事に誇りを持っているから、自らの意志で、内側から湧き上がる情熱で仕事に向き合う。このエンゲージメントこそが、テレワークにおけるパフォーマンスと創造性の源泉となるのです。心理的安全性という「安心できる土壌」があるからこそ、エンゲージメントという「貢献したいという芽」が力強く育っていく。

この二つは、どちらか一つだけでは機能しません。 安心だけを追求すれば、それは成長のない「ぬるま湯」になってしまうかもしれません。一方で、貢献だけを強要すれば、メンバーは疲弊し、いずれ燃え尽きてしまいます。
“見えない”環境だからこそ、私たちは意識して、この「安心の土台」と「情熱のエンジン」を両輪で育んでいく必要があるのです。では、そのために具体的に何ができるのか、私たちが実践している4つの仕組みについてお話します。

私たちが実践する、“人が定着する組織”の4つの仕組み

それでは、心理的安全性とエンゲージメントを育むために、私たちが実際に取り組んでいる4つの仕組みをご紹介します。

① 信頼の起点は「理念と価値観の共有」
 私たちの組織には、ミッション・ビジョン・バリューを言語化した「クレド(信条)」があります。これをただの飾り言葉にせず、何か判断に迷ったときに立ち返る全員の共通の判断軸、いわば組織の“北極星”のように定義付けています。
これを半年に一度、全員で見直す時間を設け、「この言葉は、今の私たちに合っているかな?」「もっとしっくりくる表現はないかな?」と、皆で言葉を紡いでいく。この時間があるからこそ、理念が私たちの中に深く根付き、自分たちの組織と仕事への静かな誇りが育っていくのを感じています。

② 雑談を“仕組みにする”コミュニケーション設計
オフィスにいれば、給湯室や廊下で「あ、〇〇さん、昨日のドラマ見ました?」なんて、何気ない会話が生まれますよね。テレワークでは、この“偶然の会話”が生まれません。だから、私たちは意識してそれを“設計”します。
・毎朝の「ゆるチャットタイム」
・部署を越えた「オンライン運動&交流タイム」
・毎月開催の「チームミーティングや雑談タイム」
仕事の話をしなくてもいい、という安心感のある場があるからこそ、心の距離をぐっと縮める気軽なつながりが生まれ、相談もしやすくなります。

③ 相談できる“誰か”がいる仕組み
誰にも相談できず一人で悩みを抱えてしまうことは、人が組織を離れる原因の一つだと考えています。そこで私たちが導入しているのが、新入社員に先輩が伴走する「メンター制度」や、職種や担当を超えて気軽に雑談や相談ができる「チーム制度」です。相談相手が明確なことで、「こんなこと誰に聞いていいのかな…」という迷いがなくなります。実際に、この仕組みのおかげで「実は辞めようか悩んでいました」と打ち明けてくれたメンバーが、今ではチームの中心として輝いてくれている、という嬉しい出来事もありました。

④ 成長と評価が“見える”制度づくり
「頑張っているのに、誰にも見てもらえていない気がする」
 そんな不安は、仕事への情熱を静かに冷ましていきます。
aubeBizでは、半期ごとの面談で本人のキャリアプランと会社の方向性をすり合わせ、個人のスキルマップを元にした成長の振り返りを大切にしています。
本人の目標と会社の方向性をすり合わせることや、自分の役割やチームへの貢献がきちんと認識され、評価されているという実感こそが、「もっと頑張ろう」という次への意欲にもつながります。テレワークでもうまくいく組織は、どこでもうまくいくここまで、テレワークを前提にお話してきましたが、実は、これらの取り組みは出社型の組織にもそのまま通用する、普遍的な“信頼文化”のつくり方だと考えています。

毎日出社して、オフィスで顔を合わせていても「心の距離」があれば、人は孤立します。物理的に離れているテレワークだからこそ、信頼関係づくりの“ごまかし”は効きません。
だからこそ、テレワーク組織で育てた文化や仕組みは、どんな職場にも応用可能で、普遍的な強さを持っていると感じています。テレワークで辞めるのではない、「定着の工夫」があるかどうかテレワークだから辞めるのではなく、**「人が定着するための工夫が、まだ足りないだけ」**かもしれません。
離職率の低さは、偶然の産物ではなく、日々の小さな仕組みと文化づくりの積み重ねです。

今、あなたの組織には、安心して話せる仕組みや、誰かと一緒に成長できる仕組みがありますか?
このコラムが、自社らしい“信頼でつながる組織”を育むための小さなヒントになれば幸いです。


次回は、ーDX化の第一歩となる業務改革ー「属人化を防ぐ仕事の仕組み化」についてお伝えします。



※地方創生テレワークについての小冊子を無料配布しております。
ご関心のある方は以下よりダウンロード下さい。

https://drive.google.com/file/d/18rwP34IfHBxwDcaBZ2J71QK7SXVO1FjU/view

 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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