企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第20回
「“よくわからない”を乗り越える──テレワーク導入Q&A」 〜不安を解消し、最初の一歩を踏み出すために〜
株式会社aubeBiz 酒井 晶子
1.あなたの足を止める“よくわからない”という霧の正体
「うちのような中小企業に、テレワークなんて合うのだろうか…」
「情報漏えいが怖い。セキュリティは大丈夫なのか?」
「目の前にいない社員を、どうやって評価すればいいんだ?」
これらは、私が10年以上にわたり全国の経営者の方々から最も多く受けてきた質問です。
けれど実は、その“よくわからない”という霧の正体は、未知への不安にすぎません。 正しい知識という光を灯せば、霧は必ず晴れます。
今回のコラムでは、テレワーク導入時に多くの経営者が抱える“よくわからない”を“わかる”に変えるためのQ&Aをお届けします。
aubeBizがこれまで伴走してきた企業の実践例を交えながら、「不安を希望に変える最初の一歩」を見つけていきましょう。
2.よくある質問Q&A(経営者の「心の声」に答えます)
これまで多くの企業様でテレワーク導入のご相談を受けてきました。ここでは、経営者の皆さまから特によくいただく8つの質問に、Q&A形式でお答えしていきます。
Q1. 何から手をつければ…? どこから切り出せばいい?
A1. 最初は「聖域」に触れない“任せられる業務”から始めましょう。
いきなりコア業務を変える必要はありません。まずは「定型的」で「繰り返し発生する」業務──たとえばデータ入力、請求書発行、議事録作成などからスタートするのがポイントです。これらはテレワークとの相性が良く、成果が見えやすい。つまり「小さな成功体験」を積むための絶好のトレーニングフィールドです。
Q2. セキュリティが心配です。
A2. “危険だから無理”ではなく、“仕組みで守る時代”に。
テレワーク=リスク、ではありません。大切なのは、ルールと仕組みでリスクマネジメントを行うことです。
具体的には、情報へのアクセス制限(権限管理)、機密保持契約(NDA)、クラウド上での安全なファイル共有。
これらのルールを整えるだけで、リスクは十分にコントロール可能です。
むしろ紙の書類を持ち歩くより、クラウドで管理する方が安全なケースも多いのです。
Q3. 姿が見えない社員を、どうやって評価すれば?
A3. 「時間」ではなく「成果+プロセス」で見る。
「隣にいないと、ちゃんと仕事をしているかわからない」という声もよく聞きます。
これを機に、社員の評価軸を「時間」から「成果+プロセス」へとシフトさせてみませんか?
「長い時間会社にいる=頑張っている」という価値観は、もはや過去のものになりました。
テレワークは“見えないからこそ”成果で評価する文化を育てるチャンスです。
これからは「どんな価値を生み出したか」という成果と、そこに至るまでの工夫やチームへの貢献というプロセスで評価する時代です。
日々の進捗はチャットでこまめに報告し、定期的な1on1ミーティングで目標達成に向けたプロセスを共有することで、むしろ社員一人ひとりとの信頼関係は深まります。
Q4. コミュニケーションが減り、オフィスの「雑談」が持たらす空気感が失われるのでは?
A4. 失われるのではなく「意図的につくる」。
テレワークで何もしなければコミュニケーションは減ってしまいます。
コーヒー片手の何気ない会話から、イノベーションの種が生まれる。
その価値は計り知れません。だからこそ、オンラインでもその環境を「仕組み」として創り出します。
ChatworkやSlackで雑談専用チャンネルを設けたり、バーチャル朝礼で顔を合わせたり、感謝を伝え合う場や文化を作るなど。
また私たちaubeBizでは、オンライン会議や朝礼の冒頭で「最近のよかったことシェア」を行うことで、メンバーひとりひとりの近況を共有すると同時に、意識を「良いこと」に向けることを習慣化しています。
心と心の繋がりをデザインすることが、リモートチーム成功の鍵です。
Q5. 社内に抵抗感が強く、古参の社員から「うちは無理だ」と言われます。
A5. 全員一斉導入ではなく、まずは小さく成功をつくる。
新しい変化に対して抵抗感が生まれるのは、ごく自然なことです。
だからこそ、トップダウンでいきなり「全社で導入するぞ!」と旗を振るのではなく、まずは意欲のある部署やチームで「お試し導入」を始めてみましょう。
そこで生まれた「残業が減った」「通勤ストレスから解放された」という生きた成功事例こそが、どんな説明よりも雄弁に社内の空気を変える力を持っています。
当事者の声を共有することで、「うちの会社でもできるかも」という安心感が自然と醸成されていきます。
Q6.コストが心配。結局お金がかかるのでは?
A6. 高額な初期投資は不要。無料のクラウドツールで始められます。
「テレワーク=高額なIT投資」というイメージはもう古いかもしれません。今は無料や低コストで使えるクラウドツール(Google Workspace、Chatworkなど)が豊富な時代になりました。
さらに、経理や広報といった業務を外部の専門チームに委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を活用すれば、人件費という固定費を、必要な時に必要なだけ支払う「変動費」に変えることも可能です。不確実な時代ほど、“抱え込まない経営”は強みになります。
Q7. 顧客対応を在宅で任せるのは不安です。
A7. 顧客体験を“進化”させるチャンスです。
会社の代表電話も、電話転送サービスでどこでも受けられる時代です。
よくある質問はチャットボットに任せたり、オンラインの問い合わせ窓口を設けたりすることで、むしろ顧客満足度が向上するケースもあります。
ある自治体では、繁忙期の住民からの問い合わせ窓口を在宅ワーカーチームで運用し、職員の負担軽減と住民サービスの向上を両立させています。
ピンチは、チャンスなのです。
Q8. もし失敗したらどうしよう…?
A8. 「1業務・1人・1ヶ月」から始める。
スモールスタートであれば、大きな失敗にはなりません。
その経験は「失敗」ではなく、「改善点が見つかった」という貴重な経験値というデータです。
なぜうまくいかなかったのかをチームで共有し、次の改善ステップにつなげていく。
その繰り返しこそが、自社にぴったりのテレワークの形を作り上げていくプロセスです。
「まずやってみる」こと自体が、最大の成功です。
3.“よくわからない”を乗り越えた5つの実例
ここでご紹介する5つの企業は、すべて最初は「うちは無理かも」と言っていた会社です。
それでも小さな一歩を踏み出したことで、確かな変化を手に入れました。
【事例1】退職届から始まった、中小製造業のDX革命
長年勤めた経理スタッフの退職を機に、請求書処理などの一部業務を在宅ワーカーへ委託。
クラウド会計ツールを導入し、業務をマニュアル化したことで、スムーズな引き継ぎが実現。
残された社員はコア業務に集中できるようになり、結果的に残業時間も削減されました。
【事例2】求人広告費ゼロ! SNSが起こした採用の奇跡
人手不足で求人を出しても応募が集まらなかった企業が、広報経験のある在宅スタッフにSNS運用を依頼。企業の魅力を伝えるイキイキとした投稿が求職者の目に留まり、応募数が倍増。採用コストの大幅な削減にもつながりました。
【事例3】“何もない”を魅力に変えた観光業
日々の業務に追われ、情報発信が滞りがちだったある宿泊施設が、SNS更新をテレワーカーに委託。
自分たちの目線では「観光の目玉となるものが何もない」と考えていた時期にも、テレワーカー目線では魅力に映る小さな季節のイベントや地元の隠れた名店の情報などを取り上げた結果、ファンが増え、予約件数の増加につながりました。
【事例4】「お役所仕事」を覆した自治体の挑戦
確定申告などの繁忙期に、電話や申請の対応補助を在宅ワーカーがサポート。住民の待ち時間を短縮し、職員はより専門的な相談に集中できるようになり、住民サービスと職員の働きやすさの両方を向上させました。
【事例5】バックヤード業務を効率化し売上アップ
これまで店舗スタッフが手書きで行っていた在庫管理をクラウド化し在宅チームに委託。
販売スタッフは接客という最も大切な業務に集中できるようになったことで、店舗全体の売上アップを実現しました。
4. 小さく始め、仕組みで育て、伴走で続ける
ここまで読んで「少しだけなら、できるかもしれない」と感じていただけたでしょうか。
“よくわからない”を解決し、今日から始められる3つのステップを以下の通りにまとめます。
小さく試す
まずは「1業務・1人・1ヶ月」から。ベビーステップで行うことで、何が課題で、何がうまくいったのかを実証し、体系化していきます。
仕組みに組み込む
属人化せず、誰がやっても同じ成果が出せるようにマニュアルを作成し、情報共有のルールを決めます。この「仕組み化」が、テレワークを定着させる鍵となります。
外部とつながる
すべてを自社だけでやろうとせず、BPO企業や専門家など、外部のプロの力を借りることも有効な選択肢です。伴走してくれるパートナーを見つけることで、導入のスピードも成功確率も格段に上がります。
aubeBizもまた、これまで600社以上の企業とともにこの道を歩んできました。
不安を解消しながら少しずつ仕組みを整える──。
それが、変化を「続けられる挑戦」に変える方法です。
5. 未来は、“わからない”の先にある
これからの時代に必要なのは、完璧な計画ではなく「不確実性を抱えながらも動いてみる」という柔軟さと行動力です。
テレワークは、導入するかしないかの二択ではなく、ある日突然“全社導入”するものでもありません。
自社の状況に合わせて“一歩のトライアル”から少しずつ育てていくものです。
今回ご紹介したQ&Aと事例を参考に、ぜひ貴社に合ったテレワークの形を見つける旅を始めてみてください。
その小さな一歩が、会社の未来を大きく変える原動力となるかもしれません。
次回は 「自治体・企業・住民でつくる 地方創生テレワーク推進モデル」 〜“点”で終わらせない、持続可能な三者連携とは?〜
自治体が「場」をつくり、企業が「仕事」を生み出し、そして住民が「担い手」となる──この三者がつながり、相乗効果を生み出す「連携モデル」に迫ります。関係人口づくり、定住支援、地域ブランド強化…。“地域が自ら仕事を生み出す”ローカル・テレワークの最前線をお届けします。
プロフィール
株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
- 第20回 「“よくわからない”を乗り越える──テレワーク導入Q&A」 〜不安を解消し、最初の一歩を踏み出すために〜
- 第19回 「“社会貢献企業”としてのテレワーク導入」 〜採用力とブランド力を高める組織戦略〜
- 第18回 「“自走できる人材”を育てるマインドと環境づくり」 〜指示待ち型から“目的を理解し、動ける人材”へ〜
- 第17回 「“信頼される会社”の条件──テレワーク時代の組織文化とリーダーシップ」 〜制度や仕組みを超えて“信頼”を築く組織の土台とは〜
- 第16回 生成AIとテレワーク ──中小企業が直面する“AI格差”を乗り越えるには?
- 第15回 「地域×テレワーク」──地方創生ローカル・テレワーク 〜地域企業と地域人材のハブとなる地域リーダーの創出〜
- 第14回 「“個の力”を最大化するチームづくり──テレワークでも成長・定着する組織のつくり方」 〜孤独・疎外感を防ぐコミュニティ型組織づくりの工夫〜
- 第13回 「“副業・複業人材”を活かす!兼業社会における新しい雇用戦略」 ── 多様なキャリアが交わる“パラレルワーカー”活用の可能性
- 第12回 「“スキマ時間”を活かす働き方──ワークシェアリングという選択肢」
- 第11回 「成功するテレワーク採用」 〜離れていても成果を出す組織づくりのヒント〜
- 第10回 「“全国から採用する時代”へ!採用戦略の発想を切り替えるヒント」 〜テレワークが生み出す“新しい雇用のかたち”〜
- 第9回 「BPOとBCP」―― 有事の際の事業継続に備える新常識
- 第8回 ーDX化の第一歩となる業務改革ー「属人化を防ぐ仕事の仕組み化」
- 第7回 完全テレワークでも離職率5%未満を実現するチームづくりの秘訣 〜組織の土台を支える“仕組み”と“信頼文化”のつくり方〜
- 第6回 成長戦略としてのBPO活用法 〜“外注”にとどまらない、企業の柔軟性と競争力を高める選択肢〜
- 第5回 「テレワークは難しい?」──よくある誤解と“うまくいかない理由”を解きほぐす
- 第4回 地域で働く、地域を支える──「ローカル・テレワーク」という新しい仕組み
- 第3回 地方に眠るチカラを活かす!「地方創生テレワーク」の可能性
- 第2回 眠れる働くチカラ 「働きたいけれど働けない」潜在労働力を社会へ
- 第1回 これからの時代に選ばれる働き方とは? ― 少子高齢化・人材不足を乗り越える組織づくりのヒント