第1回
今後も続くか、日本の投資熱
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストH

2024年1月にスタートした新NISA(少額投資非課税制度)で、「タンス預金」が多かった日本人が急速に株式投資に目覚めている。個別株の売買もさることながら、公募投信(投資信託)全体への24年の資金流入額は16兆7856億円と過去最高水準だった。直近10年(15~24年)の平均値が9兆5284億円だったことから、個人投資家が急増し、かつてないほどの投資熱となっている表れだ。
日本証券業協会によると、25年3月末時点のNISA口座数は2647万。NISA口座は一人につき1口座しか持てないため、ざっくりながら、ほぼ日本人の5人に1人、生産年齢人口(16~64歳)換算では3人に1人が口座を持っていることになる。
世界で2番目に大きな株式市場を持ちながら、「先進国で最も投資に消極的」とされてきた日本人を動かしたのは、30年越しに訪れたインフレだ。タンスや銀行に預けたままでは資産が目減りするとの危機意識が生まれた。
日本銀行の資金循環統計によると、日本人が持つ家計の金融資産合計は2200兆円を超える。そのうち銀行預金などを使わず、文字通り自宅で保管しているタンス預金は約103兆円とされている。もちろん企業・金融関係団体などの推計額には多少の幅がある。タンス預金には、株式などへの投資にためらいがある投資保守層もいれば、一部の富裕層による相続税対策もある。
実は、こうした政府が把握できなかったアンダーグラウンドな現金を、NISA口座を通じて白日の下にさらし、政府による将来的な相続税収を確保することが狙いともいわれている。いずれにせよ、ゼロ金利、デフレ下の低成長などでタンス預金でも差し支えなかった30年間から、急速に時代が動き始めたといえる。
そして新NISA元年の24年、日本の投資信託界隈では、世界中の株式に分散投資できる「全世界株式(オールカントリー、通称オルカン)ファンド」と全米の優良企業上位500社を網羅する「全米株式(S&P500)ファンド」が爆売れした。多くの証券会社・信託銀行からこれらの指数をベースにしたインデックスファンドが発売されているが、他を圧倒しているのが三菱UFJアセットマネジメントの「eMAXIS Slim 全世界株式(オルカン)」(以下、三菱オルカン)と「eMAXIS Slim 全米株式(S&P500)」(以下、三菱S&P)である。
新NISAが始まって1年8カ月が経過するが、世界最大の投資大国アメリカに重点投資できる三菱S&Pの純資産総額は8兆円を超え、三菱オルカンも7兆円を超えた。3位以下のファンドはせいぜい3兆円台前後であり、これらの人気ぶりが分かる。とくにトランプ大統領就任後、関税政策や外交姿勢に投資家が斜に構えるようになると、世界に分散投資できるオルカンがS&Pとの差を縮めつつある。
そしてオルカンは、日経トレンディ「24年ヒット商品ベスト30」のランキングで堂々の首位に輝いた。ランキングは、売れ行き・新規性・影響力の3要素をもとに、23年10月〜24年9月の間に発表・発売された商品・サービスを対象に選定。2位だった「大谷翔平」関連の物品販売を大きく上回る高い評価を得た。ちなみにオルカン全世界とはいっても、実質的には米国企業が63%を占める。ただし、日本・欧州・新興国にも加重平均で広く分散しているところに安心感があるのだろう。
野村、大和、日興(9月1日付でアモーヴァに改称)などアセットマネジメント大手、さらには時代とともに急成長したSBI、楽天、マネックスなどネット証券が、これら類似のインデックスファンドを販売している。にもかかわらず三菱UFJに人気が集中するのは、ファンドの純資産がケタ違いに大きく、信託報酬と呼ばれる手数料が安い。そして販売間口の広さなどが挙げられる。楽天証券でも「楽天オルカン」は売れているが、楽天証券でしか買えない。また純資産が多ければ「不採算による償還」などの心配がなくなるなど、投資家にとってのメリットは大きい。
何から何まで値上がりが続くインフレ時代。実は、ネット証券を中心に投資信託の信託報酬は引き下げ競争が進み、その競争に乗ったファンドを中心に販売順位を上げている。運用成績の良い老舗ファンドも一部は生き残っているが、今のトレンドは、売買時の手数料ゼロは当たり前、信託報酬を下げ、さらに解約時にとられる信託財産留保額ナシなどが長期投資では主流である。
いずれにせよ、これら人気上位のインデックスファンドは、相場の上下動にかかわらず「長期間保有する」ことが前提であり、さまざまなニュースに一喜一憂せず、小額な「積み立て」でも市場に居続けることが重要となる。24年8~9月の暴落時、今年4月の「トランプ・ショック」では一時的に投資を中断したり売却したりする投資家も少なくなかった。その多くが、その後の回復で中断・売却を後悔したと聞く。
株式投資で一番儲かった人のランキングの1位は「亡くなっていた人」、2位は「自動積立していたことを忘れている人」なんて笑い話もある。つまり「放置」が大事なのだ。筆者も「ステイマーケット(長期投資)」を貫いているが、それでも日々の価格変動がつい気になって見ちゃうところが煩悩の塊である。
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