現場発「ものづくりイノベーション」最前線

第10回

ユーザーの悩みに向き合うごとに、製品ラインナップが広がっていく――三井メディカルジャパン 三井桂子社長②

イノベーションズアイ編集局  ジャーナリスト 加賀谷 貢樹

 

日常生活やスポーツでも、じつは頻発している女性の尿トラブル

前回記事で、女性の5~10%、なかでも50代以上の女性の約3割が罹患する骨盤臓器脱の症状や背景を紹介するとともに、その治療に役立つ画期的な医療機器「フェミクッション」はどのように開発されたのかを紹介した。

加齢や出産などで骨盤底筋の働きが弱り、ゆるみが生じることが、骨盤臓器脱の原因だ。骨盤臓器脱になるほど重症ではなくても、骨盤底筋がゆるむことで、日常生活のさまざまな場面で尿漏れや頻尿などの尿トラブルが起きやすくなる。

じつに、出産を経験した女性の2人に1人が尿漏れを経験している。咳やくしゃみ、スポーツをしただけで、腹圧がかかって尿が漏れてしまうことがあるという。

「フェミクッション」の開発・販売を手がける三井メディカルジャパン(本社・東京都中央区)は、月1回以上ゴルフを行う全国のアクティブな30〜60代女性92名を対象に、「『ゴルフ時の尿トラブル』に関する実態調査」(調査期間:2025年12月25日~2026年1月9日)を実施した。

同調査によると、ゴルフのプレー中または練習中に尿漏れや頻尿などの不安・トラブルを感じた人は62%。ゴルフ中に尿漏れが起きる具体的なシーンとしては、「スイング時(腹圧がかかった時)」と答えた人が59.6%と最も多かった。

また同社では、マラソン大会(ハーフマラソン、フルマラソン)に参加または参加予定の全国の女性ランナー300名(30~60代)にも、競技中の尿トラブルについて調査を行っている(調査期間:2026年2月13~15日)。

調査の結果、マラソン競技中に「トイレが気になり集中できなかった」と回答した女性が36%で、「急な尿意に困った」という回答も34%。競技中に尿漏れを経験した女性が23.3%いることが明らかになった。大会中にトイレを意識して水分摂取を控えたことがある人も、65%に上っている。

興味深いのは女性ゴルフプレーヤー、女性ランナーともに半数を超える人が尿トラブルの悩みを、1人で抱えていることだ。先のゴルフプレーヤーへの調査では67%、女性ランナーへの調査では58.7%が、プレー中または競技中の尿トラブルについて、誰にも相談したことがないと答えている。

「ある研究では、水泳以外のスポーツは尿漏れが起きるという報告があります。20代の若い方でも尿漏を体験している方も少なくありません。私も出産を3回経験しており、20代のときから尿トラブルがありました。ですから今後、加齢とともに、50代になる頃にはもっとひどい状態になるだろうと、当時から予想していました。骨盤臓器脱などには絶対になりたくないという思いから、骨盤底筋を鍛える骨盤底筋トレーニングも欠かさず行ってきましたが、一定の効果はあるとはいえ、尿トラブルを完全に防げるものではありません」(三井メディカルジャパン 三井桂子社長)

骨盤底筋トレーニングを欠かさず行っても尿トラブルは完全には防げない。「では、どうしたら防ぐことができるのか」と、三井社長は30代の頃から、その解決策を模索し続けた。

そして10数年にわたる試行錯誤を経て、2025年9月に発売されたのが「フェミクッションハピネス」(「骨盤底筋サポート着衣」の名称で特許取得済み)だ。

デリケートゾーンを下から優しく支え、骨盤底筋のゆるみを予防・改善する「フェミクッションハピネス」。2025年9月に発売され、同年12月にモデルチェンジした。ベージュ(写真)とブラックの2色を用意。普通の下着として日常的に身につけながら、将来的な骨盤臓器脱の予防を視野に入れた「新しい骨盤ケア習慣」をサポートする(公式サイト:https://urogyne.jp/femicushion-happiness/

普通の下着として履ける、手軽な「骨盤底筋サポーター」

「フェミクッションハピネス」は、日常的に下着として履きながら、骨盤底筋のゆるみを予防・改善するという、これまでになかった製品だ。デリケートゾーンに触れる柔らかい凸部(立体構造のクッション部)が、腹圧によって生じる下方向への力を優しく受け止め、骨盤底筋を支えるので、尿トラブルへの不安軽減にもつながることが期待される。

前回記事で紹介したように、骨盤臓器脱の治療を目的とする「フェミクッション」は、デリケートゾーンに直接触れる「クッション」を「ホルダー」にセットし、下着のような外観をした「サポーター」に固定して身につけるものだった。

これに対して「フェミクッションハピネス」は、クッション部分がサポーターと一体になっている。そのため、普通の下着のように履くだけで自然なサポート感が得られ、歩行時や運動時など、腹圧がかかるときの不安が解消される。

ショーツの上から着用できるので、誰にも気づかれずに使えるというのも大きなメリット。洗濯用ネットに入れて毎日洗えるなど、使い勝手もいい。

「骨盤底筋のゆるみによって起こる尿トラブルなどの症状は、やがて骨盤臓器脱へと進行する可能性があります。骨盤底筋がゆるまないように、下から支えればいいと思っていましたが、それを実際に作るのは大変でした」と、三井社長は開発当初を振り返る。

骨盤底筋がゆるまないように下から支える――。

発想としてはシンプルだが、これを実現するのが非常に難しかった。通常の下着のように股部分の布面がフラットなままでは、デリケートゾーンに十分にフィットせず、腹圧がかかったときに生じる下方向への負担をしっかり受け止めにくいからだ。

そこで、股部分が身体にしっかりフィットするよう、立体構造のクッション部を取り入れた。肌に直接触れる部分であるため、装着時の違和感をできるだけ抑えながら、一体感のある構造に仕上げる必要があり、製品化には高い技術的ハードルが立ちはだかった。

このハードルを越えるブレイクスルーになったのが、ニット製品一着を、縫い目がなく丸ごと立体的に編み上げることを世界で初めて可能にした島精機(本社・和歌山県和歌山市)の無縫製(*)ニットウェア編機、「ホールガーメント」だった。

(*)縫製とは、布地を糸で縫い合わせることを指す

島精機の「ホールガーメント」は「フェミクッション」の製造にも使われている。この「ホールガーメント」によって、女性のデリケートゾーンの形状にフィットする立体構造のクッション部が現実の形になった。特殊な編み方を採用し、デリケートゾーンを前後に持ち上げる力が加わるようにすることができたのも、「ホールガーメント」の技術によるところが大きい。

ここまでくるのに、10数年の歳月を要した。

「私も『フェミクッションハピネス』を愛用していますが、ゴルフのラウンド中にトイレを探さなくてもすむようになりました。普段使いの下着のように履いても違和感がなく、ゴルフをしているときでも安心です」(三井社長)

日々、骨盤底筋トレーニングを行いながら「フェミクッションハピネス」を履くことで、骨盤底筋のゆるみによって落ち込んでくる膣を引き上げるサポートが可能になるという。「フェミクッションハピネス」を日常的に下着として履きながら、将来的な骨盤臓器脱の予防を見据えた「新しい骨盤ケア習慣」を、同社は提案している。

女性に寄り添い、QOL(生活の質)を高める画期的な製品がまた1つ、ラインナップに加わった。

患者、あるいはユーザーの悩みや困り事に向き合うごとに、製品のバリエーションが広がっていく。

骨盤臓器脱「知らない」が約8割――「フェミクッション電話相談窓口」の対応を強化

最後に、前回記事で紹介した「フェミクッション」に関する最新情報を追記しておきたい。

三井メディカルジャパンが開発した「フェミクッション」は、下着感覚で履くことで、体に負担をかけず手軽に骨盤臓器脱の治療が行える世界初の医療機器(一般医療機器)として、2007年に発売された。

骨盤臓器脱とは、妊娠や出産、加齢などで骨盤底筋が弱り、骨盤内臓器(子宮、膀胱、直腸)の1つまたは複数が下がって膣から出てしまう女性特有の病気。50代以上の女性の約3割が罹患(りかん)するという報告もある。高齢になるほど有病率は高まるが、2、30代で罹患する人もいる。

三井メディカルジャパンは20代~70代以上の女性300人を対象に、「骨盤臓器脱の認知・実態調査」を実施した(調査期間:2026年3月24日~25日)。調査結果のポイントを整理すると下記のようになる。

●「あなたは『骨盤臓器脱』という病気を知っていますか」
・知らなかった:72.3%
・内容まで知っている:12.0%
・聞いたことはあったが、そこまでは知らなかった:15.7%

●「もし自分自身に、骨盤臓器脱につながる可能性のある症状があった場合、家族に相談できると思いますか」
・相談ができない:41.3%
・相談できると思う:37.0%
・わからない:21.7%

●「骨盤臓器脱のような症状 『年齢のせい』『体質のせい』と思って受診を後回しにする人は多いと思いますか」
・そう思う:70%
・そう思わない:15.7%
・わからない:14.3%

前回記事にも記したように、骨盤臓器脱という病気の認知度がまだ低く、多くの女性が誰にも相談できずに1人で悩んでいる状態だ。加えて、気になる症状があっても「歳のせい」などと思い込んで受診が後回しになり、病気が見過ごされがちになっている。

そんな実態が、今回の調査で数字の面からも明らかになった。

三井メディカルジャパンでは専任のコールスタッフを配置した「フェミクッション電話相談窓口」を設け、骨盤臓器脱に関する相談への対応を強化している。

【骨盤臓器脱・子宮脱 電話相談窓口はこちら】
電話での問い合わせ・ご注文の窓口
03-5319-2676

自身の症状が気になる方はもちろん、「家族に気になる症状がある」、「母も骨盤臓器脱かもしれない」といった相談にも対応しているという。

――次回に続く――

 

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