中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第133回

2026年7月から変わる「障害者雇用率」~中小企業の経営者が今すぐ押さえるポイントと、賢い対応法

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原京二 氏

 

はじめに――「うちには関係ない」では済まない時代に


2026年7月から、障害者を雇うルールが大きく変わります。

これまで「自分の会社には関係ない」と思っていた経営者の方も、社員の数が38人を超えるあたりから、急に当事者になります。具体的には、社員数が「37.5人以上」の会社は、最低でも1人の障害者を雇うことが義務となるからです。

国の決まりでは、これを「法定雇用率」と呼びます。会社全体の社員数のうち、何%を障害者の方に割り当てるかという数字です。これまでは2.5%でしたが、2026年7月に2.7%へと引き上げられます。

数字だけを見ると、たった0.2%の違いに見えるかもしれません。けれども、対象になる会社の幅が「40人以上」から「37.5人以上」に広がるため、これまで対象外だった会社が一気に巻き込まれることになります。社員が38人、39人といった、ちょうど中規模になりかけの会社こそ、もっとも影響を受けるのです。

このコラムでは、難しい言葉をできるだけ使わずに、制度の中身と、中小企業が今からやっておくべき準備を、順を追って解説していきます。



そもそも「法定雇用率2.7%」とはどういう意味か


法定雇用率という言葉は耳慣れないかもしれませんが、考え方はシンプルです。「会社の社員のうち、何%を障害者で埋めるか」という割合のことです。

これまでの2.5%というのは、「40人雇うごとに1人」という計算でした。社員が100人なら、100×2.5%=2.5人なので、実務上は3人雇用が必要、という形で運用されてきました(小数点以下は切り捨てのため、義務人数は2人。ただし2.5人を切り上げて3人に近づけるよう促される運用が一般的です)。

ここに2.7%が適用されると、計算式は「37.5人ごとに1人」となります。社員100人の会社なら、100×2.7%=2.7人なので、義務として最低2人、運用上は3人を意識する形になります。

ポイントは、この「37.5人」というラインです。これ以上の社員を雇っている会社は、最低でも1人の障害者を雇う義務が発生します。これまでの「40人」というラインから、わずかに下がっただけのように見えますが、社員数が30人台後半の中小企業にとっては「ついに自分たちの番が回ってきた」という大きな変化です。



注意したい「タイミングのズレ」


ここで一つ、見落としやすい点をお伝えします。

「2026年7月から2.7%」と聞くと、その日からいきなり高い基準で判定されるように感じますが、実際は少し違います。毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告する仕組みがあり、2026年6月1日時点の報告では、まだ古い基準である2.5%で判定されます。新しい2.7%の基準で判定されるのは、その翌年、2027年6月1日時点の報告からです。

つまり、2026年7月から制度は変わるものの、最初の本格的な判定は2027年6月です。とはいえ、これは「来年でいいや」という話ではありません。むしろ、この1年弱の準備期間を、いかに使うかが勝負になります。慌てて採用しても、現場が受け入れ切れずにすぐ離職してしまう、という失敗事例は数えきれません。



中小企業が直面する「実務面のリアル」


中小企業の現場は、少人数で回しています。1人の採用が、会社全体の働き方に直結するのが特徴です。だからこそ、障害者を雇うときには「どの仕事を任せるか」「誰がフォロー役になるか」という設計が、何より大事になります。

最初に取り組みたいのが、業務の「切り出し」です。これは、いま会社の中で行われている仕事を一つひとつ分解し、「これは反復作業」「これはお客様対応」「これは判断業務」と仕分けていく作業です。受付、データ入力、書類の仕分け、在庫チェックといった、決まった手順で進められる仕事を抜き出すと、障害のある方にも安心して任せられる業務が見えてきます。

次に取り組みたいのが、マニュアルの整備です。中小企業ではよく「ベテラン社員の頭の中だけにノウハウがある」という状態が起きています。新しく障害者の方を迎え入れるためには、その手順を文書化しなければなりません。これは一見、面倒な作業ですが、結果的に「誰が辞めても回る会社」をつくる第一歩になります。

そしてもう一つ、見落としがちなのが、社内コミュニケーションの変化です。障害のある方が職場に加わると、自然と社員同士の説明が丁寧になります。「これくらい言わなくても分かるだろう」という曖昧さが減り、結果として新入社員教育の質も上がる、というのは、すでに多くの企業で実感されている効果です。



「100人未満」と「100人超」で扱いが大きく変わる


中小企業の経営者から特に多い質問が「うちは納付金を払わなければいけない会社なのか」というものです。これは制度を理解するうえで重要なポイントなので、整理しておきましょう。

結論からお伝えすると、納付金の対象になるのは「常時雇用する社員が100人を超える会社」です。100人未満の会社は、たとえ雇用率を満たしていなくても、納付金を支払う義務はありません。

ただし、ここに大きな誤解が潜んでいます。「100人未満なら何もしなくていい」という意味では決してないのです。

37.5人以上の会社は、雇用義務そのものはあります。さらに、毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークへ報告する義務も負います。雇用率を達成できていない場合は、行政から指導が入ったり、雇入れ計画の作成を求められたりします。それでも改善されないと、最終的には企業名を公表されるリスクすらあります。

一方、社員数が100人を超える会社では、雇用率に届かないと、不足1人につき月額5万円の納付金が発生します。年間に換算すると60万円。仮に2人不足していれば、年間120万円の固定費が増えるイメージです。これは経営に直接効いてくる金額です。

つまり、整理するとこうなります。

37.5人以上100人以下の会社:雇用義務はあるが、納付金はかからない。ただし報告と指導の対象になる。

100人を超える会社:雇用義務に加え、未達分には金銭的な負担が発生する。

「うちは80人だから関係ない」と油断していると、ハローワークからの指導や企業名公表のリスクを見落としてしまいます。



「罰則」という言葉に振り回されないために


「罰則」という言葉を聞くと、罰金や懲役を思い浮かべて身構えてしまう経営者の方がいらっしゃいます。ここで一度、整理しておきましょう。

この制度における経営者へのプレッシャーは、大きく3つの段階に分かれます。

1つめは、納付金です。これは100人超の会社が対象で、雇用率の不足分を金額で負担する仕組みです。法律上の罰金ではなく、「雇用率を達成した会社と、未達成の会社との間で、負担を公平にするための仕組み」と位置づけられています。集まったお金は、障害者を多く雇用する会社への調整金や、職場環境を整備するための助成金の財源として使われます。

2つめは、行政指導と企業名公表です。雇用率が著しく低い状態が続くと、ハローワークから雇入れ計画の作成を命じられます。それでも改善が見られない悪質なケースでは、厚生労働省のホームページで企業名が公表されます。これは、取引先や採用候補者の目に直接触れるため、ブランドへの打撃が非常に大きいリスクです。

3つめは、報告義務違反などへの罰則です。毎年の障害者雇用状況の報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合には、30万円以下の罰金が科される可能性があります。こちらは会社の規模に関係なく適用されるため、対象企業はすべて注意が必要です。

整理すると、罰則は「金銭的な調整(納付金)」「社会的な制裁(企業名公表)」「法律上の罰金(報告違反)」と、性質が異なる3つの仕組みが組み合わさっているということです。



短時間で働く方も「戦力」になる仕組み


ここは少し細かい話ですが、中小企業にとって朗報になる部分なので、ぜひ覚えておいてください。

「フルタイムで雇うのは難しいけれど、短時間なら受け入れられる」という会社も多いと思います。実は、雇用率を計算するときのカウントの仕方は、近年大きく見直されています。

まず、週の労働時間が30時間以上の方は、原則1人として数えます。これは従来どおりです。

次に、週20時間以上30時間未満の方は、原則0.5人としてカウントしますが、精神障害者の方については、当分の間、特例として1人としてカウントできるようになっています。

さらに、2024年4月からは、週10時間以上20時間未満で働く精神障害者・重度身体障害者・重度知的障害者の方も、0.5人として算定できるようになりました。これは、「短時間しか働けないけれど働きたい」という方を雇用しやすくするための、大きな変更です。

中小企業にとっては、いきなりフルタイムの正社員として迎え入れるのではなく、まずは短時間勤務でスタートし、本人と職場の相性を見ながら勤務時間を増やしていく、という現実的な選択肢が広がりました。これを使わない手はありません。



中小企業が今からやるべき「4つのステップ」


では、具体的に何をすればよいのでしょうか。順を追ってお伝えします。

第1のステップは、自社の現状を「数字」で把握することです。常時雇用している社員は何人か、そのうち障害者手帳を持っている方は何人いるか、雇用率を計算するとどれくらいか。この数字を出さないことには、何が足りないのかが見えてきません。週の労働時間ごとに社員を分けて、カウントの仕方をシミュレーションしてみてください。

第2のステップは、任せられる仕事を洗い出すことです。先ほどお伝えした「業務の切り出し」です。重要なのは、「障害者の方が来たら任せる仕事」を新しくつくるのではなく、「いま誰が担当するか曖昧になっている仕事」「忙しさに紛れて後回しになっている仕事」を見つけ出すことです。これらは多くの場合、ルール化されていれば誰でも担当できる仕事であり、雇用の受け皿として理想的です。

第3のステップは、採用ルートを確保することです。障害者の採用は、一般の中途採用とは少し違うルートが効果的です。地域のハローワークの専門窓口、就労移行支援事業所、特別支援学校、障害者雇用に詳しい民間紹介会社などが代表的なルートです。一気に決めようとせず、「まずは職場見学を受け入れてみる」「実習として短期間来てもらう」など、小さなステップから始めるのが、結果的に長続きする近道です。

第4のステップは、社内の理解を進めることです。障害者雇用を進めると決めたら、現場の社員に「なぜこれをやるのか」を経営者の言葉で説明することが欠かせません。法律で決まっているから、というだけでは現場は動きません。「業務の見直しのきっかけにしたい」「多様な人がいる職場のほうが結果的に強い」「社員一人ひとりの仕事も整理されて、休みやすくなる」といった、現場にとってのメリットを言葉にして共有してください。



助成金や支援制度を「経営の武器」として使う


障害者を雇用する会社には、さまざまな助成金や支援制度が用意されています。これらを「コスト補填」と捉えるか、「経営の武器」と捉えるかで、活用度合いは大きく変わります。

代表的なものとしては、障害者を採用したときの賃金の一部を補助する制度、職場環境を整える設備投資への助成、ジョブコーチと呼ばれる職場での支援者を派遣してもらえる制度などがあります。さらに、障害者雇用の相談援助を、原則無料で外部の専門事業者から受けられる仕組みも整備されました。

中小企業のなかには、「もにす認定制度」という、障害者雇用に積極的に取り組む優良な中小事業主を厚生労働省が認定する仕組みを活用している会社もあります。認定を受けると、自社のホームページや求人票に認定マークを掲示でき、人材採用や取引先へのアピール材料になります。

これらの制度は、申請に手間がかかると敬遠されがちですが、社労士などの専門家に相談すれば、自社の状況に合った制度を組み合わせて提案してもらえます。「障害者雇用は持ち出しが多い」というイメージとは逆に、うまく組み立てれば、人材確保のコストを下げる手段にもなり得るのです。



「前倒し」が結果的に得をする理由


2026年7月の改正に向けて、できれば2025年のうち、遅くとも2026年前半までに準備を始めることをおすすめします。

その理由は3つあります。

1つめは、採用には時間がかかるからです。障害者の方とのマッチングは、一般の中途採用以上に丁寧なプロセスが必要です。職場見学、実習、面接、試用期間と段階を踏むと、半年から1年はかかると見ておくべきです。

2つめは、業務マニュアルの整備に時間がかかるからです。これは多くの中小企業が後回しにしてきた課題で、いざ取り組んでみると想像以上に手強いことが分かります。けれども、一度仕上げてしまえば、新人教育や産休・育休復帰者の戦力化など、別の場面でも長く役立ちます。

3つめは、行政との関係性をつくっておけるからです。早めにハローワークや支援機関に相談に行くと、地域の状況や使える制度を教えてもらえるだけでなく、「この会社は前向きに取り組んでいる」という認識を持ってもらえます。これは、いざ採用候補を紹介してもらうときに、思いのほか大きな差を生みます。



「義務」ではなく「経営のチャンス」と捉える


最後に、視点を一段引いて考えてみましょう。

人材不足は、中小企業にとって長年の課題です。地方であればなおさら、若い人材は都市部に流れ、求人を出しても応募が来ない、という嘆きをよく耳にします。一方で、働きたいのに働く場所がなかなか見つからない障害者の方は、全国に大勢いらっしゃいます。マッチングが進めば、双方にとってプラスになる関係です。

さらに、障害者雇用に取り組むプロセスそのものが、会社の体質を強くします。業務が見直され、マニュアルが整い、社員同士の伝え方が丁寧になり、休みが取りやすい職場になっていく。これらはすべて、人材定着や生産性向上にもつながる、地味ですが本質的な改善です。

法定雇用率は、今後さらに引き上げられる可能性があります。今のうちに体制を整えた会社は、次の改正にも余裕を持って対応できます。逆に、今回もぎりぎりで対応した会社は、次回も同じ苦労を繰り返すことになります。

2026年7月の改正を、「面倒な義務が増えた」と捉えるのか、「会社を強くするチャンスが来た」と捉えるのか。同じ出来事をどう解釈するかで、5年後の会社の姿は大きく違ってくるはずです。

ぜひ、前向きな解釈で、一歩を踏み出していただければと思います。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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