第99回
最低賃金1,500円時代の到来~中小企業経営者が知っておくべき「生き残りの方程式」
一般社団法人パーソナル雇用普及協会 萩原 京二
はじめに
「また最低賃金が上がった...」多くの中小企業経営者がこの秋、ため息をついたことでしょう。2025年10月から全国平均1,118円となった最低賃金は、過去最大の63円引き上げを記録しました。しかし、これで終わりではありません。むしろ、これは序章に過ぎないのです。
政府は「2029年度までに全国平均1,500円」という野心的な目標を掲げており、今後4年間で年平均95.5円、実に7.6%もの引き上げが必要となります。これは従来の常識を大きく覆す規模であり、中小企業にとってはまさに「生きるか死ぬか」の分岐点となりそうです。
筆者は長年、中小企業の経営コンサルティングに携わってきましたが、これほど構造的で継続的な変化に直面するケースは珍しく、多くの経営者が「どこから手をつければよいのか分からない」という状況に陥っていることを目の当たりにしています。
目先の対応だけでは、この激流を乗り切ることはできません。今求められているのは、2030年を見据えた戦略的な思考と行動なのです。このコラムでは、そうした長期的視点に立った具体的な対応策について、詳しく解説していきたいと思います。
1.数字が語る厳しい現実
まず、この問題の深刻さを具体的な数字で見てみましょう。厚生労働省のデータによると、従業員数30人未満の事業所における最低賃金の影響率は、令和3年度の16.2%から令和6年度には23.2%まで急上昇しています。つまり、中小企業では従業員の4人に1人の賃金を、短期間で引き上げる必要があったということです。
この数字の背景には、中小企業特有の賃金構造があります。大企業では管理職や専門職の割合が高く、最低賃金の直接的な影響を受ける従業員の比率は相対的に低くなります。一方、中小企業では現場作業者やパート・アルバイトの比率が高く、最低賃金の影響をより強く受ける構造になっているのです。
これを具体的な経営への影響で考えてみると、従業員20人の中小企業であれば、5人程度の社員の賃金を引き上げる必要があります。年間労働時間を2,000時間として計算すると、1人当たり年間約12万円の人件費増となり、5人で60万円の負担増です。さらに4年後の1,500円達成時には、追加で年間約200万円の負担が生じることになります。
しかし、影響はこれだけにとどまりません。最低賃金の引き上げは「賃金の底上げ効果」を生み、最低賃金より高い給与を受け取っている従業員についても、相対的な処遇バランスを保つため昇給が必要になるケースが多いのです。つまり、実際の人件費増加は、最低賃金対象者だけの計算よりもさらに大きくなる可能性があります。
特に深刻なのは、中小企業の労働分配率が約8割(大企業は約5割)という構造的な問題です。売上高に占める人件費の割合が高いため、賃上げ原資の確保が本質的に困難なのです。実際、日本商工会議所の調査では、中小企業の7割が現在の最低賃金を「負担」と感じているのが現状です。
2.政府目標の現実味と経済的背景
では、政府が掲げる「2029年度1,500円」という目標は本当に実現するのでしょうか。この問題を理解するためには、まず過去の推移を振り返る必要があります。
過去10年間の最低賃金引き上げ率の平均は約3.5%でした。これは比較的安定した経済成長期における「穏やかな調整」の範囲内といえるものでした。最も高かった2024年度でも5.1%、2025年度の6.0%が史上最高です。ところが、目標達成には年7.6%の引き上げが必要で、これは過去最大の1.3倍に相当する数字です。
この急激な変化の背景には、複数の要因があります。第一に、長期にわたる日本の賃金停滞に対する政治的な危機感があります。OECD諸国の中で日本の賃金水準は相対的に低下しており、特に先進国との格差が問題視されています。第二に、労働力不足の深刻化により、賃金引き上げによる労働力確保の必要性が高まっていることです。第三に、消費拡大による経済成長の実現という政策目標があります。
石破政権は、前政権が「2030年代半ば」としていた目標を「2029年度まで」に前倒しすることで、より強いメッセージを発信しています。これは単なる数値目標ではなく、日本経済の構造転換を促す政策的意図が込められているといえるでしょう。
経済界の反応は厳しく、経営側は「実現不可能」と明言しています。日本経済団体連合会(経団連)は、「生産性向上が追いつかない中での急激な賃上げは、かえって雇用の減少や企業の競争力低下を招く」と警告しています。一方で、連合などの労働組合側は「働く人の生活向上のために必要不可欠」として支持を表明しており、労使の見解は大きく分かれています。
しかし、政府は「賃金向上推進5カ年計画」を策定し、最低賃金引き上げの影響を大きく受ける12業種について業種別の生産性向上目標を設定するなど、目標実現に向けた強い意志を示しています。また、中小企業支援策の拡充、デジタル化推進、省力化投資への助成など、「政策総動員」による支援体制の構築を進めています。
目標の実現可能性に疑問があるとはいえ、引き上げ圧力は確実に2030年まで続くでしょう。仮に目標が修正されたとしても、年5〜6%程度の引き上げは継続すると予想されます。中小企業経営者にとって重要なのは、この「新常態」を前提とした経営戦略の構築なのです。
3.従来の対応策では限界
これまで多くの中小企業が最低賃金引き上げに対して取ってきた対応策を振り返ってみましょう。
<価格転嫁の困難さ>
価格転嫁の試みは、下請構造や激しい競争により思うように進まないのが現実です。特にBtoB企業では、発注元企業との力関係で価格交渉が困難なケースが多く見られます。筆者の経験では、「人件費上昇分の価格転嫁を要請しても、『他の業者はそんなことを言ってこない』と断られることが多い」という相談を頻繁に受けます。
この背景には、日本特有の長期継続的な取引関係があります。価格よりも信頼関係を重視する商習慣は、一方では安定した事業基盤を提供しますが、他方では価格交渉力の弱さにもつながっています。特に、製造業の下請企業や小売業では、この傾向が顕著に現れています。
<効率化の限界>
業務効率化についても、無駄の削減や作業手順の見直しなど、できることはすでに多くの企業が実施済みです。「5S活動」「カイゼン」といった日本企業の得意分野は、すでに相当程度やり尽くされているのが実情です。これ以上の効率化には限界があり、根本的な解決策にはなりません。
実際、多くの中小企業では「もう削るところがない」「これ以上効率化しようとすると、品質やサービスに影響が出る」という声が聞かれます。従来型の効率化は、いわば「乾いたタオルを絞る」状態に達しており、新たなアプローチが必要な段階にきているのです。
<助成金依存の危険性>
業務改善助成金などの活用は確かに有効ですが、一時的な延命策に過ぎません。毎年の大幅引き上げに対して、継続的に対応できる本質的な解決策ではないのです。また、助成金には申請手続きの煩雑さや採択の不確実性もあり、経営戦略の柱とするには不安定すぎる面があります。
重要なのは、最低賃金の大幅引き上げが一過性の現象ではないということです。さらに、最低賃金の引き上げは人材確保競争を激化させ、優秀な人材を確保するためには最低賃金を上回る水準での処遇が必要になり、企業全体の人件費押し上げ要因となります。
4.新たな経営環境への適応戦略
このような状況下で求められるのは、従来の延長線上ではない、新たな発想に基づく経営戦略です。成功している企業の事例を見ると、共通していくつかの特徴が見られます。
<デジタル技術の戦略的活用>
成功企業の多くは、デジタル技術を単なるコスト削減手段ではなく、事業価値創造の手段として活用しています。例えば、ある地方の製造業では、IoTセンサーを活用した品質管理システムの導入により、不良品の発生率を従来の10分の1に削減しました。これにより、検査工程の人員を削減できただけでなく、品質向上による顧客満足度の向上と単価アップも実現しています。
また、飲食業界では、モバイル注文システムや配膳ロボットの導入により、ピーク時の人員不足を解消しながら、顧客の待ち時間短縮という付加価値も提供している事例があります。重要なのは、技術導入の目的を明確にし、単なる人員削減ではなく、サービス価値の向上と結びつけることです。
<ビジネスモデルの転換>
もう一つの成功パターンは、従来のビジネスモデルから脱却し、新たな価値提供方法を見つけることです。ある印刷会社は、従来の「印刷物の製造販売」から「情報発信のコンサルティング」にビジネスモデルを転換し、顧客企業のマーケティング支援まで手がけるようになりました。これにより、印刷物の単価は変わらなくても、コンサルティング料として高付加価値サービスを提供できるようになったのです。
このような転換には時間がかかりますが、一度確立できれば価格競争に巻き込まれにくい強固な事業基盤を構築できます。
5.戦略的対応への転換
では、どのような対応が必要なのでしょうか。ここでは短期・中期・長期の3つの時間軸で整理して考えてみましょう。
<短期対応:2025年度を乗り切るための緊急措置>
まず短期的には、2025年度を乗り切るための緊急対応が必要です。
取引先との価格交渉において、最低賃金引き上げによるコスト増を明確に提示し、理解を求めることから始めましょう。政府も官公需において最低賃金対応を求めており、民間企業においても理解が得られやすい環境が整いつつあります。価格交渉の際は、感情論ではなく客観的なデータに基づく説明が重要です。人件費増加の具体的な金額、業界全体の動向、政府の方針などを整理し、論理的に説明することで理解を得やすくなります。
同時に、最大600万円が支給される業務改善助成金を積極的に活用し、助成率4/5または3/4という高い補助率で省力化機器の導入や従業員の研修費用を賄うことを検討してください。ただし、助成金の申請には時間がかかるため、早めの準備が必要です。
労働契約書や就業規則の見直しも急務です。2025年10月の発効に向けて、法的な準備を整えると同時に、従業員への説明と理解促進を図ることが重要です。この際、単に「法律で決まったから」ではなく、会社の方針や将来への取り組みについても併せて説明することで、従業員のモチベーション維持にもつながります。
<中期戦略:2027年度までの体質改善>
中期的には、2027年度までにデジタル化・自動化投資の計画的実行が重要となります。単発の機器導入ではなく、3年間の投資計画を策定し、段階的にデジタル化を進めることで、労働生産性を根本的に向上させる必要があります。政府の12業種別支援策も活用しながら、業種特性に応じた自動化を推進しましょう。
投資計画の策定にあたっては、ROI(投資利益率)の明確な計算が不可欠です。導入コスト、維持費用、人件費削減効果、生産性向上効果などを具体的に数値化し、投資判断の根拠を明確にすることが重要です。また、技術の進歩は早いため、5年後には陳腐化する可能性も考慮に入れる必要があります。
同時に、付加価値向上による収益性改善にも取り組むべきです。同じ労働時間でより高い付加価値を生み出すサービスや商品の開発により、顧客のニーズを深く理解し、価格競争から価値競争への転換を図ることが重要です。これには市場調査、顧客ヒアリング、競合分析などの地道な活動が必要ですが、中長期的な競争力の源泉となります。
人材育成と多能工化の推進により、従業員一人ひとりのスキル向上を図り、少ない人数でより多くの業務をこなせる体制を構築することも欠かせません。これは単に人件費を抑制するだけでなく、従業員の満足度向上や離職率の改善にもつながります。多能工化により、従業員のキャリアパスが広がり、やりがいを感じられる職場環境を創造することができるのです。
<長期戦略:2030年代に向けた事業転換>
2030年代を見据えると、根本的な事業モデルの転換も検討が必要です。人手に依存するビジネスモデルから、技術やノウハウを活用したビジネスモデルへの転換は時間がかかりますが、持続可能な成長のためには不可欠です。
この転換を考える際の基本的な視点は、「時間単価の向上」です。同じ1時間の労働でも、より高い価値を顧客に提供できれば、高い対価を得ることができます。単純作業やサービスから、専門性の高いコンサルティングやカスタマイズサービスへの転換により、時間単価の向上を目指すことが重要です。
また、単独では困難な投資や事業転換を、業界内での連携や統合により実現することも重要な選択肢となるでしょう。M&Aや業務提携により、規模の経済を活かしたり、技術やノウハウを共有したりすることで、個社では実現困難な変革を可能にすることができます。
6.業種別の具体的アプローチ
業種によって効果的なアプローチは異なります。ここでは代表的な業種について、具体的な対応策を詳しく見ていきましょう。
<飲食・小売・宿泊業:省力化とサービス変革>
飲食・小売・宿泊業など労働集約型業種では、セルフレジ、自動調理機器、清掃ロボットなど効果の高い省力化機器への投資を優先的に実行し、政府の支援策を活用しながら投資回収期間を短縮することがポイントです。
例えば、回転寿司チェーンでは、タッチパネル注文システムと搬送レーンの組み合わせにより、接客スタッフの大幅削減を実現しています。また、ホテル業界では、チェックイン・チェックアウトの自動化、清掃ロボットの導入、AI による需要予測システムなどにより、労働生産性の向上を図っています。
しかし、単に機械に置き換えるだけでは競争力は向上しません。重要なのは、省力化により生み出された時間とコストを、より高付加価値なサービスに振り向けることです。例えば、セルフレジの導入により削減された人員を、顧客対応やコンサルティング業務に配置転換することで、サービス品質の向上と差別化を図ることができます。
また、従来の人手に依存するサービス形態から、セルフサービスやデジタル活用による効率化を前提とした業態への転換も検討すべきでしょう。ただし、この場合は顧客の受容性を慎重に見極める必要があります。
<介護・保育業:公定価格制約下での工夫>
介護・保育業など公定価格が設定されている業種では、政府が約束している公定価格の引き上げスケジュールと自社の賃上げタイミングを調整し、収益性を維持することが重要です。これらの業種では、価格設定の自由度が限られるため、コスト管理と効率化がより重要になります。
介護業界では、ICTやロボット技術の活用により業務効率化を図る取り組みが進んでいます。見守りセンサーによる夜間業務の効率化、記録業務のデジタル化による事務負担の軽減、移乗支援機器による職員の身体的負担軽減などが実用化されています。
公定価格の制約の中でも、サービスの質向上や地域との連携により、利用者満足度を高め、安定的な経営基盤を構築することが可能です。口コミや評判による利用者確保、職員の定着率向上による採用コストの削減、効率化による間接費用の削減などにより、限られた収入の中でも収益性を改善することができます。
<製造業・建設業:技術力と効率化の両立>
製造業・建設業では、技術力や品質の向上により取引先に対する交渉力を高め、適正な価格での取引を実現することが効果的です。これらの業種では、技術的な差別化要素が価格決定力に直結するため、研究開発や技術者育成への投資が重要になります。
IoTやAIを活用した生産効率の向上、品質管理の自動化などにより、労働生産性を根本的に改善することも重要な戦略となります。例えば、精密部品メーカーでは、AI による画像検査システムの導入により、検査精度の向上と検査時間の短縮を同時に実現している事例があります。
建設業界では、BIM(Building Information Modeling)の活用により設計から施工まで一貫したデジタル化を進め、無駄の削減と品質向上を実現している企業が増えています。また、プレファブ化や工場生産の拡大により、現場作業の効率化を図る取り組みも進んでいます。
7.支援制度の積極活用と戦略的利用
この変革を支援する制度も充実してきています。これらの制度を戦略的に活用することで、変革のコストを大幅に軽減することができます。
<国の支援制度の詳細>
業務改善助成金は生産性向上のための設備投資や研修に対して最大600万円まで支給され、助成率は事業場規模により4/5または3/4と高い水準になっています。この助成金の特徴は、最低賃金の引き上げと直接連動していることで、他の助成金と比較して採択率が高いとされています。
申請にあたっては、生産性向上の具体的な計画と効果測定方法を明確にすることが重要です。単に「機械を導入する」だけでなく、「この機械により、どの業務がどの程度効率化され、結果としてどの程度の生産性向上が見込めるか」を定量的に示す必要があります。
政府が策定した「賃金向上推進5カ年計画」では、業種別の具体的な支援策が示されており、自社の業種に該当する支援策を詳しく調べ、活用機会を見逃さないことが重要です。この計画では、宿泊業で30%、飲食サービス業で50%、小売業で30%といった具体的な生産性向上目標が設定されており、それぞれに対応した支援策が用意されています。
<地方自治体の独自支援策>
各地方自治体でも独自の支援策を展開しており、商工会議所や業界団体を通じて最新の支援情報を収集し、活用可能な制度を見逃さないことが重要です。特に、国の制度と地方自治体の制度を組み合わせることで、より手厚い支援を受けられる場合があります。
例えば、東京都では「中小企業デジタル化応援隊事業」として、デジタル化に関する専門家派遣や補助金制度を実施しています。大阪府では「中小企業DX促進事業」として、DX推進計画の策定から実行まで一貫した支援を行っています。
<金融機関との戦略的パートナーシップ>
金融機関との連携も重要な要素です。設備投資資金の調達において、低利融資制度の活用や、経営改善に向けた専門的なアドバイスを受けることで、より効果的な対応が可能になります。
近年、多くの金融機関が「事業性評価融資」に力を入れており、財務データだけでなく、事業の将来性や成長戦略を評価して融資判断を行うようになっています。最低賃金対応のための設備投資や事業転換は、まさにこうした事業性評価の対象となりやすく、従来よりも融資を受けやすい環境が整っています。
8.実践的な導入ステップ
ここまで様々な対策を紹介してきましたが、実際に導入する際のステップについても触れておきたいと思います。
<第1段階:現状分析と優先順位の設定>
まず、自社の現状を客観的に分析し、どの分野から取り組むべきかの優先順位を設定することが重要です。人件費の構造、業務プロセスの効率性、技術的な課題、市場における位置づけなどを総合的に評価し、最も効果が期待できる分野から着手します。
この分析には、外部の専門家やコンサルタントの活用も有効です。経営者は日常業務に追われがちで、客観的な視点での分析が困難な場合があります。第三者の視点を取り入れることで、新たな改善点や機会を発見できることがあります。
<第2段階:小規模実証から本格導入へ>
新しい技術やシステムを導入する際は、いきなり全社展開するのではなく、小規模な実証実験から始めることをお勧めします。一部の部門や店舗で試験的に導入し、効果を確認してから本格展開することで、リスクを最小限に抑えることができます。
実証実験では、定量的な効果測定を必ず行います。労働時間の削減、エラー率の改善、顧客満足度の向上など、具体的な数値で効果を把握し、本格導入の判断材料とします。
<第3段階:組織全体の変革マネジメント>
技術的な改善だけでなく、組織文化や従業員の意識改革も重要な要素です。新しいシステムや業務プロセスの導入は、従業員にとって負担となる場合があります。十分な説明と研修、フォローアップを行い、組織全体で変革に取り組む体制を構築することが成功の鍵となります。
おわりに
最低賃金の大幅引き上げは確かに中小企業にとって大きな負担です。しかし、これを労働生産性向上への強制的な動機づけと捉え、長年先送りしてきた効率化や事業革新に本格的に取り組む契機にすることもできます。
人材の質的向上による競争力強化、デジタル化による業務効率の飛躍的改善など、この機会を活用して企業体質を根本的に改善することで、競合他社に対する優位性を確保することが可能です。業界全体が同じ課題に直面する中で、いち早く効果的な対応策を実行できた企業は、業界再編における主導権を握ることができるでしょう。
筆者がこれまで支援してきた企業の中にも、危機を機会に変え、より強固な事業基盤を構築した例が数多くあります。共通しているのは、経営者が長期的な視点を持ち、単なるコスト対策ではなく、事業価値向上の観点から取り組んだことです。
重要なのは、今の決断が5年後の明暗を分けるということです。目先の対応に追われるだけでなく、「対応」から「戦略」への発想転換を図り、持続可能な賃上げ体制を構築することが、2030年代を生き抜く企業の条件となります。
最低賃金1,500円の世界は確実にやってきます。その時に慌てるのではなく、今から準備を始めることで、ピンチをチャンスに変える経営を実現しましょう。変化への対応力こそが、これからの時代を生き抜く中小企業の最も重要な競争力なのです。
プロフィール
一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二
1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。
Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会
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